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TYPE_R_03の思い出話を聞いて、ゲームの舞台である“この星”は守れたとしても、この星系の中心である太陽を喰われたら元も子もなくね?とも思わなくもない。
今はTYPE_Oが太陽の代わりをしているらしいのだが、太陽不在の瞬間は在った筈だ。その時、他の惑星はどうなっていたのか………。甚だ謎だが、余り深く考えないようにしよう。オレとは特に関係のない星系事情だし。
「で、その山巨人さんは星を喰い荒らす敵ってのを倒すつもりなんですか?」
「さあ? 私もその辺については殆ど知らないからな。この世界で言うところのレイドボス?というモノらしい。まぁ、“世界獣”という名前が独り歩きしているだけで、聞いた話によると誰もその姿を見た事すら無いらしいからな」
確かに、オレも“世界獣”自体を見た事は無い。オレが見た事があるのは、“世界獣”と呼ばれる存在から生み出されたとされる骸獣だ。………何と言ったか。確か、“紅曜樹”と骸獣に寄生されたTYPE_Z_02の二体だけだった気がする。
しかし、今思えば、“紅曜樹”って結構ヤバい奴だったのではなかろうか。あの時は戦闘に興味が無くて、アスレチックで遊んでいただけだったので詳しいところは知らないんだが。
当時はイマイチ実感が無かったのだが、この世界で最強クラスのTYPE_R_05を機能停止までに損壊させた事はかなりヤバい事だろう。TYPE_R_05自身が骸獣との戦闘が初めてだったという事もあるが、TYPE_R_03の無双っぷりを見ているとなぁ………。
戦闘能力的に言えば、05は03を上回るという。05に戦闘経験値が足りないという事を加味しても、骸獣程度なら片手間で倒せても不思議ではないのだ。
そして、恐らくだが紅曜樹はTYPE_Oの星冥獣特攻の怪電波に悪影響受けないように適応した骸獣だ。そうでもなければ、あれ程地上に繁茂出来る訳がない。
植物系の骸獣という事で、特攻電波を無効化するどころか吸収していたのかもしれない。あの鉱物みたいな葉で光合成が出来るかどうかは不明だが。
残りの骸獣はまだまだ居るらしいが、他の奴等は何処に居るのか………。何となくだが、まだ生き残っている全ての骸獣を倒すと、世界獣が出てくるとかだろうか。ゲーム的な展開を考えるのならば、その線が濃厚だろう。肝心のクエスト名も“世界獣”だしな。
「誰も見た事が無いレイドボスですか………。そんな奴、本当に居るんですかね? 誰かが撒いた誤情報なのでは?」
エレイン氏が、“世界獣”クエストの開始を星全体でアナウンスされた事を知っているかは分からないが、最近来たばかりだろうし煙に巻けるかもしれない。
オレ自身が“世界獣”クエストを独占するつもりは無いんだが、エレイン氏の目的と外れているだろうし、TYPE機を知らないヒト達が無闇に首を突っ込むとどうなるか分からない。
「どうだろうな。私も彼の言葉だから、そんなモノも居るのかと思っているだけだからな。もし、これが貴様が言う事ならば信じなかっただろうな」
まぁ、それはそう。命の恩人らしい巨人と、知り合いとはいえ胡散臭い骸骨兵だったら、普通は前者を選ぶだろう。多分。
「私よりも先にこの世界に来た貴様でも知らないか。使えない奴め。まぁ、こんな僻地に来るような奴が重要な事柄とやらを知っている筈が無いか」
「オレの主目的は観光ですからね。そういうのとはあんまり縁が無いんですよ」
“世界獣”クエストは僻地で出てきたが、その他のクエストとは縁が無いのも確かだ。
“世界獣”以外のモノでいえば、“第一の物語”と“大断裂”だったか? “大断裂”は他の星で遊んでいたら、いつの間にか次のフェーズに移行していたようだし、“第一の物語”とやらは皆目見当も付かない。
よく分からない“大断裂”は兎も角。恐らくだが、“第一の物語”とやらは、旅人が辿った主要都市を回れば進むのだと思うが。
「ところで、この近辺に観光スポット的なモノって何かあります?」
「貴様は本当にブレないな………。いや、褒めてない。これは呆れだ。………あー、観光スポット? 私の記憶では、この近辺にそのようなモノは無い。見渡す限り鬱蒼とした森が続くし、強力な生物が跳梁跋扈している故に、私も全容を知っている訳ではないからな。………強いて言えば、この山巨人だな」
なるほど。この山巨人が観光スポットか。まぁ、確かに? 動き出さない限りは、この物言わぬ巨体は観光資源になるだろう。この山巨人氏がログインしていないだけなんだが。
曰く付きといえばそうなんだが、その正体が旅人だとなぁ………。まぁ、登頂するという目的は果たしたし、そろそろ先へと進むか。
「なんだ、もう行くのか。………彼もログインして来ないし、暇潰しに使えるような奴は怪鳥が最後だ。ここで会ったのは何かの縁だろうし、急ぐ旅でもないんだろう? 暫く私に付き合わないか?」
いえ、結構です。もう、そこのウザい小妖精が居るんで。何なら、コイツ置いて行きますよ?
オレの断りの文句を華麗に聞き流されたが、妥協案としてエレイン氏の気が済むまでオレの旅路に同行する運びとなった。………勝手に付いて来た小妖精といい、暇を持て余したエレイン氏といい………同行者増えすぎだろ。いや、そもそも、エレイン氏は彼の留守中の警備をしなくて良いのだろうか。
「最近使えるようになった、私の端末………子蜘蛛のような何かを置いて行く。コレ等は一匹では弱いが、数で攻めるタイプだ。それにいざという時のための連絡役でもある。それにここら一帯を締め上げているからな。そいつ等にも働いて貰おう」
エレイン氏は、ログアウト中の山巨人を守るために森に棲む危険な連中を締め上げ、配下にしたらしい。そして、そいつ等を使って警備に役立てているようだ。
ここの警備にエレイン氏が要らないのならば、オレに同行しなくても単独で何処にでも行けるのでは? オレは訝しんだ。
精神と時の部屋が欲しい人生だった。
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