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暫く続いたエレイン氏の話に雑談が混じってきたが、オレは吊り下げられたままだし、小妖精は猿轡を噛まされて地面に転がっている。小妖精はどうでもいいとしても、そろそろオレだけでも地面に下ろして貰えないだろうか。と言うよりかは………。
『そろそろ、無理矢理でもいいから糸を引き千切らないか?』
『え? トワ殿はこういうプレイが好きかと思って放置していたでありますが、下ろすであります? 敵対行為と見做されないであります?』
この星系内でならば、ほぼ万能の超兵器であるTYPE_R_03が旅人の技能の影響を受けたとかいう超胡散臭い理由で、エレイン氏の糸に吊り下げられている訳なのだが、流石にそろそろ地面に降りても良い頃かもしれない。
それに、オレは緊縛プレイとか、全然興味無いから。
TYPE_R_03がエレイン氏の糸を切断し、オレは地面へと下り立つ。
「む? 非力な骸骨兵の癖に、私の拘束用の糸を切断出来るとはな。その黒いのの力か? そういえば、あちらで私の所へ来た時もそれが居たな。………私の糸を切断した事と言い、本来深海には到達出来ない魚人を深海の水圧に耐えられるようにしたり………その黒いのは中々の品のようだな」
エレイン氏は、オレが“装備”しているTYPE_R_03に興味を持ったようだが、TYPE_Rの統制官ではないエレイン氏にはコイツをどうする事も出来ないぞ。幾つかある肢の先で、TYPE_R_03を突こうとしているが、いきなり噛み付くかもしれないから止めた方がいいぞ。
『酷い言い草であります。流石に某は、旅人なんかには齧り付かないであります。この蜘蛛は美味しくなさそうでありますし。そもそもな話、TYPE機に飲食は不要であります』
そういえば、TYPE機は空気中の魔力を摂取しているんだったか。
それはそれとして、蜘蛛人の味ってのはどうなんだろうな。見た感じ、肉が少なくて殻を食べる感があるが。………まぁ、こんな身体でなくても好んで食べたい種族ではなさそうだな。
「コレはオレのとっておきなんで、エレインさんに差し上げるなんて事は出来ませんよ」
「勘違いするな。他人のモノを取るような真似はしない。忌々しい魚人と一緒にしてもらっては困る」
エレイン氏の顔が顰められる。まぁ確かに、あの星の魚人達は人魚相手に、生命や尊厳含めた略奪行為を延々と行っていたらしいからな。
そういえば、魚人みたいなアイツ等は結局何なのだろうか。もうエレイン氏が住む星には行かないだろうから、教えては貰えないだろうか。無理かな。
「そういえば、そんな事を言った気がするな。向こうでは貴様の姿が魚人だった故に警戒心が先走ってしまってな。まぁ、集落から離れているとはいえ向こうで話す内容では無かったのは確かだ。しかし、今は他のモノの耳も無い。………よかろう。奴等は何なのか、だったか。奴等、便宜上魚人と呼ばれている種族は、侵略性の異星生物だ」
あの星の魚人、まさかの現地民でも無かった件。………いや、薄々そうかもとは感じてたけどね?
「私達、人魚の起源は定かではない。が、遥かな昔に大陸が沈んだ際、海中に適応出来るように進化した“人類”という説。それと、大陸に居た“人類”の実験体が沈下した際に逃げ出したという説の二種が有力だ。正確な年数は分からないが、大陸が水没してから約三百年と言われている。つまり、人魚は約三百年前から居る種族という訳だな。………これに対して、魚人の情報は驚くほど少ない。奴等がいつから居たのかも定かではない。いつの間にか奴等は“居た”のだ。奴等に会ったモノは殺されるか、拉致されるというのも良くなかった。そのお陰で、当初は正体不明の敵が居るという事しか分からなかったからな」
正体不明の敵がいつの間にか居たとかホラーかな。
広大な海中という事であっても、人魚達は三百年間も、あの星で存続してきた種族だ。しかも、深海まで到達出来るらしい。
権勢を誇る………とは言わないまでも、星の事は大抵把握している筈。そんな奴等が知らない種族? 突然変異でもないのならば、星の外から来たと疑うのも当然か?
エレイン氏によると、魚人達は侵略性の異星人という事らしい。水の星の現地民である人魚を積極的に襲っているという事から、敵対意識しかないのだろうが………。不気味なのは、魚人達に意識を感じられないって事なんだよなぁ。エレイン氏の最初の説明で、オレはてっきり雄の魚人は、雌の魚人に服従する意思を持たない戦闘駒のようなモノだと思っていた。しかし、例の魚人の生産施設の内部を覗いた事で、それも違うのだと感じた。
あの星に居る魚人には意思は無い。恐らくだが、奴等は須らく魚人にとっての上位存在の駒なのだろう。………その上位存在って奴が何処に居るのかは知らないが。
「恐らくだが、向こうに居る魚人共は全て端末なのだろう。そして、親玉は星の外に居るのだと思われる。つまり、奴等を滅するためには、宇宙に居るであろう上位種を殺らねばならないという訳だ。さもないと、星に居る魚人共を絶滅させても、新しい個体を逐一投入されるだけだからな」
なるほど。そのために、エレイン氏は宇宙に出る方法を探しているのか。それで、TYPE_R_03に目を付けた、と。………エレイン氏がTYPE機の事を知っているとは思えないから、TYPE_R_03の事を深海でも耐えうる装備だと思っているのだろうな。
「え? あぁ、そうだな。私は宇宙に出るための方法“も”探しに来た。………いや、今は普通に第二の人生を楽しんでいるだけだが?」
エレイン氏………ぶっちゃけやがったな。魚人をどうにかする方法を探しに来たとか、特に深い理由もなく単に遊びに来ただけだった件。
「そういえば、貴様は知っているか? 星を食い荒らす獣の存在を」
星を食い荒らす獣? もしかしなくても、世界獣の事だろうか。それの話をするという事は、エレイン氏も世界獣クエストを進めている? 事情を知っているヒトでなければ、オレがそのクエストを進めているという情報は開示したくはない。エレイン氏が実は何も知らず、鎌掛けの可能性もあるだろうし、適当に頷いておくか。
「聞いた事があるような………無いような………」
『嘘であります』
黙れ。
「ふむ。私よりも、この世界に居る時間が長いであろう貴様でも知らない情報なのか。といっても、私もその件については殆ど知らない。“彼”がぽつりと呟いたのを聞いただけだからな。何でも、この世界には“世界獣”と呼ばれる惑星級の災害が居るらしい。そいつ等を討伐するために、宇宙進出する必要があるのだと思っているのだが………。その宇宙進出する方法を真似出来ないものかと思ってな?」
なるほど。宇宙進出か………。それが有ったとしても、エレイン氏の星では真似出来ないと思うぞ? 技術体系がまるっきり違うだろうしな。
ところで、“世界獣”って宇宙に居るのか?
『奴等は宇宙を転々とする侵略生物でありますから、そこらの星系には居ると思うでありますよ? 勿論、この星系に来た奴等は我々が滅ぼしたので、既に居ないでありますが。膨大なエネルギーを求めて、宇宙に存在する星を見境なく襲う輩でありますから、トワ殿の星にもいつか来るかもしれないでありますよ?』
マジかよ。アイツ等ってゲーム的にデザインされた、この星オリジナルの生物じゃないのかよ。
『誠に残念ながら、奴等は実存する害獣らしいであります。ただ、星系に侵入して来た奴等を皆殺しにすると、その星系付近には他の個体も一切近付かなくなるので、見掛けたら即殲滅すると良いであります。実際、この星系には奴等にとって危険な場所だと認識したからか寄り付かないようであります。………まぁ、現在は既にこの星しか無いのでありますが』
星を食い物にする奴等が実在する生物? オレの星はここから大分離れた位置にあるが、万が一にでも星冥獣がやってきたらどうなるのだろうか。
いや、それよりも………TYPE_R_03が付け加えるように言っていたが、この星系には、既にこの星しか無いってマジかよ。
まぁ、確かに、この星系での太陽である恒星はTYPE機に代わり、この星の衛星の内の一つもTYPE機らしいから、まともな星は少ないんだろうがな。既に無い星とやらは、星冥獣に喰われて消滅したという事なのだろうか。
『星の形自体は残っているでありますよ? ただ、内包するエネルギーの殆ど全てを消失したので、星の骸だけが残っている感じでありますね。星冥獣が来た当初は、他の星にも第一人類種が入植していたでありますが、長い戦いの末に星諸共喰われてしまったようであります。………ただ、彼等が迅速に連絡や星冥獣に対する対応手段を構築してくれたお陰で、この星での殲滅が間に合った訳であります』
星間での通信技術が高かった故に、この星での対応が素早く出来たらしい。TYPE機を初めとする対星冥獣の生物兵器はそのお陰だとか。………その割には太陽喰われてるよな。
長く辛い連勤+夜勤&日勤という極悪コンボを受けながらの更新。少なくとも今月は地獄の予定なので次の更新は未定です。




