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断崖の終わりが見えた。あと少し登れば到達出来そうな距離だ。
しかし、上にはお喋りな小妖精とそれを捕らえたらしき奴が居る。しかも、お喋りな奴のせいでオレ達が崖を登っている事がバレている。このような状態で上に行くのは、流石に拙い気がする。
「ちょっくら偵察してくるであります?」
TYPE_R_03はオレの頭をネジ取ると、そのまま上へと昇っていく。………確かに、オレ自身の眼で確認するのが最良だとは思うが、やっていいかの確認を取れ。
『あっ。ダメであります。ここら辺に、トワ殿やそこらのゴミ共には見えないような細さの糸が張り巡らされているであります』
オレの事、ゴミって言った? 久しぶりに毒舌を聞いた気がするけど、それはいいとして。目に見えないくらい細い糸? それを周囲の警戒用に使っているのか。
『某だけならば、網目の隙間を縫って行けるでありますが、トワ殿の頭蓋骨は糸に絡まりそうであります』
それなら、オレの頭部は元に戻してから偵察に行ってくれませんかね。
「その必要は無い」
頭上から声が聞こえ、オレの身体はそのまま引き上げられた。
目の前に居るのは、上半身は女形のヒト型、下半身が蜘蛛の蟲人だった。
『こんなのでも人類種って言うのは、どうなの?って感じでありますね?』
ヒトを見た目で区別するのは止めなさい。
第一人類種とやらがどんな姿をしていたのかは知らないが、この星の人類はこういう奴等も多い。不死者であるオレには関係ないが。
いや、そんな事よりも、TYPE_R_03を装備していたのに、オレが吊り上げられるってどういう事なの? TYPE_R_03にはオレの警護を頼んだよな?
『心外であります。某は、ちゃんとトワ殿の身体を丹念に包みこんでいたであります。それにも関わらず引き上げられたのは、奴が持つ技能の影響だと思うであります』
技能? 任意の対象を吊り上げる技能という事だろうか。
「確か、トワだったか。確かに骸骨兵のようだ。それに黒いのも居る。………なるほどな。一応聞くが、ここへ何しに来た? わざわざ、厳しい断崖を登ってきたのだ。余程重要な用が有るのか?」
「いや、大した用は特には無い。強いて言うなら、目の前に凄い山が有ったから登りたいと思ってな。あぁ、アレだよ。この山の眺望がどんなモンだか見たいってだけだ。つまり、観光目的だな」
オレを吊り上げている蜘蛛蟲人は怪訝な顔でオレを見つめている。
自分で言っておきながら、さっきの理由は凄い嘘臭いな。まぁ、本当の事なので、これ以外の理由は無いんだが。
「そうか。ただの観光か。………なるほど? 観光のために、危険な森の奥まで来て? そして、山が有ったから登った? 頂上からの眺めを見たいがために登っただけで、大した意図は無い? 嘘を吐くならもっとマシな嘘を吐け。………と言いたいところだが、残念な事に私が知っている奴も同じような事を言っていてな」
その知り合いとやらとは気が合いそうな気がするな。
『トワ殿以外にもそんな奇特なヒトが居るのは驚きであります』
そういうのは思っていても口にしない方がいいぞ。
「その知っている奴も、私が住む地帯には観光で来たとか抜かす奴でな。あぁ、言い忘れた。私の名前は、エレイン。蜘蛛人のエレインだ。………久しぶりだな? 魚人の異世界人、トワとやら?」
エレイン? しかも、オレの事を魚人の異世界人と言った? んー、エレイン…………エレイン?
『もしかしたら、“水の星”とやらに居た魚であります? 深海に居た魚も同じような名前だったであります』
あぁ、思い出した。何度か訪ねたが素気ない対応をした、人魚のエレイン氏か。確かに、“水の星”での別れ際に“向こうの世界で何たら”と言っていたが、こんな所で再会するとはな。………いや、この世界では初めて会うから、再会という訳ではないか。
「もしかして、人魚のエレインさんですか? あぁ、お久しぶりですね。こんな所で会うとは奇遇………いや、ホントに偶然ですよ。オレはここに誰かが居ると思っていなかったし、観光で来たのは本当ですからね」
「それは知っている。魚人であった頃も考え無しの馬鹿だったからな。特に何も考えずに偶然こんな所に来たのは本当の事なのだろう。いや、わざわざ辺鄙な所に行っているせいでもあるのか? まぁ、いい。観光とやらが済んだらとっとと帰れよ?」
エレイン氏は、この世界でもオレには素気ない対応を取るつもりのようだ。
そういえば、“水の星”での別れ際に意味深な事を言っていたけど、アレについて聞いてもいいんだろうか。それに、エレイン氏に会った当初はこの世界について知らない風だったのに、最後はこの世界に来た事が有るような事を言っていた。
「こんな所で会ったから、というのも何ですが。あの時の別れ際の事は、一体何だったのか聞いてもいいですか? それに、いつからこの世界に来ていたのか、という事も」
「あぁ、確かに向こうでは出来る話でもなかったからな。事情については、この世界で出会ったらとしていたが………それなりに時間が経ったとはいえ、こんなに早く再会するとは思っていなかったぞ。まぁ、貴様が聞きたいと言うのならば話してやるのも吝かではない」
是非、聞きたいですね。はい。
昨今の暑さによる熱中症等には気を付けましょう(それとは別で死にかけた作者より)。




