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「中々戻って来ないでありますね?」
大方、頂上まで行って遊んでいるに違いない。
しかし………この崖、終わりが見えないぞ。何処まで登れば次のステップに移るのだろうか。
「某が、ちょいと覗いて来るであります?」
それは絶対に止めろ。見た情報をオレに伝えないとしても、それをやられるのは萎える。それとも、発想が小妖精並とでも言われたいのか?
「ちょっとした冗談でありますよ。トワ殿には、某を煩い羽虫と一緒に置いてきぼりにした事が尾を引いているのであります」
それは八つ当たりでは。
まぁ、この先はどうなっているのかは気になるところではあるが、今はオレのペースで登るだけだ。時間はあるから、上はどういう所か想像するのも楽しいんじゃないか。
背後を振り返り、下を覗いてみる。TYPE_R_03が崖に張り付いてくれているお陰で、割と無茶な姿勢を取っても落ちる事はない。
眼下に広がるのは鬱蒼とした森。
これだけで大分登ってきた事が分かるが、まだまだ先は長いようだ。ところで、この聳え立つ山の影が見えないんだがどういう事だろうか。オレが居る側に日が照っている訳でもないのに、山から伸びる影が見えない。
「恐らく、空間が歪んでいると思うであります。森の木々が空間を歪ませて太陽光を遮られないようにしているであります」
森に棲んでいる生物じゃなくて、そこらに植わっている樹木がやっているという事か? 不思議な樹木………いや、もっとおかしな奴等を見てきた覚えがあるわ。身近にこんな高い山が有ったら、木自体が空間歪曲を覚えるのも普通なのかもしれないな。
暫く登っていくと、登る先から少し外れるが横穴らしきモノがあるのを発見した。休憩ポイントに良いかもしれない。中に何かが居る可能性もあるが、内部の様子を少し覗いてみるか。
横穴内部には何も居なかったが、何かが居たような痕跡は有った。
横穴内部は少し広めに広げられており、中央には大きなテーブルのような物が削り出されていた。
「ここらの痕跡から何が居たとか分からないか?」
「無茶言うなであります。そういうのは、04ちゃんの仕事であります」
まぁ、それはそうだよな。ただ、ただの野生動物が居たという訳ではなさそうだ。
横穴の奥には、何かの骨らしき物が散乱していたが見なかった事にした。
少し休憩した後に再度登り始める。未だに断崖の終わりは見えず、ついでに小妖精は戻ってこない。奴の性格的に、大人しく上でオレ達を待っているとは考えにくいため、上に居る何かに食われたのかもしれない。
「………ん? 何か上から話し声が聞こえるであります」
TYPE_R_03によると、崖の上の方から小妖精と何かが喋っているような声が聞こえるらしい。TYPE_R_03には聞こえるようだが、オレにそんな声は全く聞こえない。という事は、まだまだ上の事のようだが、この断崖に終わりがあるという事は分かった。
上に何が居るのかは分からないが、マイペースにゆっくりと登っていくか。小妖精の悲鳴ではなく、声が聞こえるという事はそんなに物騒な奴ではないのだろう。多分。
「なるほど。その骸骨兵は“トワ”というのだな。ついでに黒い不定形生物を連れていると」
「そう! 私の手下の奴ね!! アイツ等ノロマだからね! その内やって来るけど!! アイツ等ならどうやってもいいから私は見逃してよね!!」
おい。誰が手下だよ。それにオレ達を生贄に差し出すかのような発言。
それに、小妖精は誰かと交渉しているような様子もある。やはり面倒臭い奴は面倒臭い奴を呼ぶのか。余り上には行きたくなくなってきたな。………まぁ、襲われたらTYPE_R_03が何とかするのだろうが。
久しぶりにゲーム出来て楽しい………楽しい………。




