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「酷くない!? ねぇ!! 酷くない!? 何で置いて行った訳!? 危うくキモい蜘蛛に食べられそうだったんだけど!?」
置いてきた筈の小妖精が追いついてきて、この有り様だ。前も煩かったが、更にも増して非常に煩い。そしてウザい。
「いや、お前の役目は終わっただろう。それに対する報酬も渡したし、もうオレ達に用は無いんじゃないのか?」
「トワは世界を旅してるんでしょ!? それなら私も連れてってよ!! いいじゃん!! 減るものも無いし!!」
煩いお前に付いて来られると、オレ達の神経が擦り減るんだが。
チラッと横目でTYPE_R_03を見ると、骸骨兵の頭部を模した塊を落とすような動作を取っている。それに対して首を横に振っておく。非常に面倒臭いが、殺すのは最期の手段だ。
|不死者創造《クリエイト•アンデッド》の魔法が使る事が出来るのならば、一旦殺しておくのは吝かではない。しかし、残念な事にオレは使えないので、小妖精に対する処遇は保留だ。
「………はぁ。分かった。但し、この森を出るまでだぞ。それに無闇矢鱈と騒ぎ立てるな。お前も、面倒臭いのを呼び寄せたくはないだろ?」
小妖精は口を抑えるような動作をする。これからずっとそういう感じで過ごしてくれねぇかな。
「ねぇねぇ!! それで!! これは何処に向かってるの!?」
小妖精に下した『黙れ』という命令に従うのは五秒と保たなかったようだ。流石、妖精種。ウザさという点については原種である妖精と大した違いは無い。
「知らん。とりあえず森の奥へ向かっているだけだ。特に行く先がある訳でも、目的がある訳でもないしな」
北極点を目指すという漠然とした目標はあるが、この星の大きさがよく分かっていないため、それがいつになるかは分からない。それに、そんな事をコイツに言う必要も無いだろう。
「そういえば、この森にどんな奴が棲み着いているのか知らないか? いや、知らないよな。聞かなかった事にしてくれ」
「それは酷くない!? まぁ知らないけど!! 私が住んでいた近くならどんな奴が居たのかは把握してたけど、あそこから大分離れちゃったし!!」
小妖精と適当に話しながらも、近付いて来る命知らずをTYPE_R_03が迎撃している。
ここら辺は虫系の敵性存在が多いようだ。虫系って基本的に臆病な筈なんだが、気配垂れ流しのTYPE_R_03に突っ掛かって来るとはな………。
「いえ、今はそういうのは、ある程度隠しているでありますよ。余りビビらせるのも原生生物に悪いでありますし。何より、暇で」
それ、最後の奴が本音だな? 確かに延々と喋る小妖精の話を、殆どを聞き流しているとはいえ、ずっと聞いているのはしんどいからな………。
出てくる敵性存在は、虫系………というよりかは蜘蛛。つまり節足動物になる訳だが………。蜘蛛は余り良い思い出が無い。
蜘蛛といえば蜘蛛人であるダーマ氏が思い付くかもしれないが、やはり蜘蛛と言えばオレがイッカクへ行く事を諦めた原因のトリコロールの蜘蛛だな。今はTYPE_R_03が警戒迎撃してくれるからあんな事は起こらないとは思うが………今度TYPE_R_03を連れて、あの蜘蛛を狩りに行こうかな。
「ところで、この状況は何なの?」
何って。普通に山を登っているんだが?
現在、オレは断崖絶壁をTYPE_R_03を装備して登っている。所謂ロッククライミングとかいう奴だな。オレの自力では登れそうにないため、TYPE_R_03の力を借りている。これならば、落下しても死ぬ事は無いだろう。
「いや、何で壁を攀じ登っている訳? 普通に道を歩けば良くない!?」
煩い小妖精だな。そこに山があったら登るのが普通だろう。それに、以前は出来なかった事も装備が整っていれば挑戦する事が出来る。
それに、こんな絶壁が聳え立っている山の頂上がどうなっているのか興味がある。
嫌なら帰ってもいいんだぞ。お前の役目は終わっているし、お前自身は壁を攀じ登っている訳ではなく飛んでいるだけなんだし。
「嫌とは言ってないよ!! 私も連れて行ってよね!!」
そう言って小妖精はTYPE_R_03の身体に潜り込んでくる………のを嫌がって吐き出された。
「これ以上、重量が増えると落ちるかもしれないであります。飛べる奴はそのまま浮いていろであります」
小妖精程度が増えたところで、TYPE_R_03の馬鹿力の前には大差ないだろう。しかし、同伴拒否する理由としては良いかもしれない。明らかに嘘だが。
「ふん!! いいもんね!! トワ達より先に頂上を見てやるんだから!!」
そう言って小妖精は上へと登っていき、そのまま戻って来る事は無かった。
2日に1回くらいは更新していきたい所存。




