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TYPE_R_03に案内された場所は確かに変な場所だった。
見えるのは黒一色の何かだ。風景に一切溶け込む事なく、違和感バリバリの四角いのが聳え立っている。何だこれ。
「確かに変な場所だね!! 変というよりは嫌な場所っぽいけど………」
確かにあの黒い何かは嫌な感じがするな。明らかに異質過ぎて目茶苦茶怪しいぞ。
「黒い何か? トワ殿には何かが見えているでありますか?」
は? いやいや、あの異質感バリバリの奴はどう考えても目を引くだろう。………いや、もしかして、コイツ等には見えていないのか?
「寧ろ、この先には行けないっぽい?」
小妖精は空間に手を伸ばし、途中で止まる。オレから見ると、見えない壁に手を当てているようだが、どうなっているんだ?
何度も見えない壁をドンドンと叩くのを繰り返す小妖精。力を込めて叩けば壊れるようなモノじゃないと思うぞ。それならば、TYPE_R_03の馬鹿力でやっている。
TYPE_R_03もうにょりと触手を伸ばすが、同じような場所で触手が止まる。
「ここで空間が遮断されているようでありますね。トワ殿だけが向こう側に行ける状態のようであります」
どうやら、TYPE_R_03や小妖精には見えない壁があるようで、その向こう側の真っ黒い何かはそもそも見えていないようだ。
「どうなってんだ? オレだけにアレが見えている? 何で?」
「………何やら、ここから先に進むためには条件があるようでありますね。例えば、旅人でないとならないとか?」
なるほど。つまり、この先に行けるのは旅人だけという事なのだろうか。それならば、別に行かなくても………。いや、凄い気になるから様子見だけでもしておこうかな。
「目茶苦茶怪しい!! これは、絶対に罠だよ!!」
罠って。誰が誰に仕掛ける罠だよ。大体こんな怪しさの塊をこんな旅人が来ないような場所に置いておく筈がないだろう。
ゲーム的に考えると、ここに重要なアイテムが隠されているとかなんだろうけど………。実際の所、この世界はそういったセオリーを外すきらいがあるので、その辺はどうなんだろうな。
まぁ、何か有ったら死んだふりをすれば大抵の事柄は切り抜けられるのだし、気楽に行こう。
黒い何かに近付いてみたが、思ったよりもデカそうだ。ただ、これは一体何なのか全く分からん。光の吸収率が高く、端から見ても凹凸も何も見えない。実際に手で触れれば、どういったものか分かるのだろうが………大丈夫か?
特に危険な事や異常なモノは何も起こらなかった。いや、この黒いのは異常の極みなんですけどね。
ペタペタと触った感じ、とある一辺に釦のようなモノが幾つかあるのを発見した。適当に押してみるが何かが起こる様子もない。ダミーか?
それとも、オレの預かり知らぬ所で何かが起きている?
カチャンという小さい音が聞こえ、浮遊感を感じた。
「は?」
どうやら、あの釦は落とし穴の動作スイッチだったらしい。オレの直上には木々が生い茂り、その隙間からチラチラと空が見える。
落ちた場所も黒一色で、真上以外には何も見えない。やはり、また手探りでどうにかするしか………ん? ここ空いているな。
入口?らしき所を潜る。入口みたいなモノがあるという事はコレは建物なのだろうか。よく分からん生物の可能性も考えてはいたが、今の所、生っぽい気配はしない。
手探りで内部を進んで行く。一応、低レベルだが、夜目技能が有るんだが、全く機能していない。この場所が暗い訳ではなく、黒いからなのだろう。
オレの身体は微発光している。それを利用して明かり代わりにならないかなと思ったのだが、これも全く意味を為さなかった。光を全て吸収するような物質に対しては、オレの数少ない特徴は無力なのだった。………光を吸収するといえば、同じようなモノを持っていたな。
取り出したるは、諸々の事情で最近使う事が無かった“光亡の外套”だ。これも、光を吸収するかの如く真っ黒であり、透明化が使えなければ不審者感丸出しの代物でもある。
とりあえず、何かの切欠になるかもと思って着てみたが………特に何かが起こる訳でもないな。
うーむ。これは、ただ似ているってだけか。それに、この外套は不死の王関連の物だろうし、今回のコレには関係はなさそうだ。
折角なので外套を着たまま探索を続ける。それに、何かが飛び出て来た場合、直ぐに透明化出来るしな。
『トワ殿? 大丈夫でありますか?』
TYPE_R_03からの念話だ。オレだけがこの建物?に入ったから、心配してくれているのだろう。多分。
とりあえず、無事だという事を伝え、内部を探索中であるとも伝える。ただ、内部の構造は手探りで調べるしかなく、時間が大分掛かりそうだ。
『トワ殿の帰りを待つ間、ウザったい小妖精と一緒にされる某の気持ちを慮るべきであります』
それは我慢してくれ。余りにも煩い場合は死なない範囲で黙らせるのも手だぞ。
手探りで進んでいる状況ではあるが、内部に複雑なギミックは無く、発見したボタンを適当にポチポチしていれば扉が開くような仕組みだった。余りにもセキュリティがガバ過ぎて、実は罠なんじゃないかと思えてきた。
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あれからどれだけ経っただろうか。元より昼夜の概念なんぞ持ち合わせていなかったが、ここに入った時からどれだけの時間が経過したのか分からない。TYPE_R_03からの定期報告という名の小妖精の愚痴を何度か聞かされているのが、外部との唯一の接点か。………ところで、あの小妖精はいつまで付いてくるつもりなんだ? とうにお役御免となったのだから、元居た場所に帰ればいいのに。
今迄と同じように壁に配置されているボタンを押すと、頭上に光が灯った。………おや? 今迄こんなギミック無かったぞ? 新しい段階へと進んだって事か?
光に照らされた部屋を見る。相変わらず黒一色なため、内部の様子も何も無いんだが、何やら床に白っぽい粉状のモノが散乱しているのが見える。それ以外は黒であるため、凄い目立つな。………これは一体何なんだ? もしかして、オレより先にここに入り出る事が出来なかった哀れなる犠牲者なのだろうか。………いや、ここは旅人でないと入れない場所の筈。それならば、ここで餓死したとしても死に戻りしたら死体は残らない筈だ。
となると、この粉は一体………?
五月病になりたい五月だった(忙し過ぎて無理)。




