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枝葉が日の光を遮り、昼でも薄暗い森の中を、野を越え山を越え、そろそろ昼夜の概念が無くなってきた頃、小妖精は目を覚ました。随分と遅くない? 余りにも目覚める様子が無いから死んだかと思ったわ。
「………ハッ!? 何ここ!! 何処ここ!! 何で私逆さまなの!?」
今の小妖精は、TYPE_R_03に宙吊りにされ運ばれている。最初の頃はオレが運んでいたが、流石に腕が疲れたのでな。
「やっと起きたか。死んだかと思ったぞ」
「私寝てたの? 何で? 何があったの?」
どうやら、マンドレイクを食べた前後の記憶が無いらしい。記憶を無くしたのか、記憶を無くしたフリをしているのかは分からないが。
「お前が明らかにヤバそうなモノを食べたからであります。小妖精は大概ゲテモノ食いなのかと思ったであります」
「止めて。その先は聞きたくない。思い出したくもない気がする。記憶は無いけど、私の本能が警鐘を鳴らしている」
記憶が無いのは本当のようだ。マンドレイクを食べたという忌まわしい記憶から逃れたいようだし、無理に思い出させる必要もないか。とりあえず、再度報酬の件を持ち出して来たら奴の食いかけのマンドレイクを出してやろう。
「ところで、ここ何処? 何で私もトワ達と一緒に居る訳? あ!! そうだ!! 報酬!! は何か嫌な予感がするから止めておこうかな」
頭の弱い小妖精にしては勘がいいな。
オレはアイテムボックスから半分出していた、食いかけのマンドレイクを再度仕舞った。
「トワ殿にも言っておくでありますが、ここは森の中心から少し外れた所であります。妖精の群生地からは既に脱しているため魔力簒奪は現在行っていないであります。でありますので、とっとと自分で飛べであります」
そう言ったTYPE_R_03は小妖精を放り出す。
宙に投げ出された小妖精はくるくると回り、浮遊魔法で制動を掛け宙に浮かんだ。
「あ!! 飛べる!! そういえば、何で飛べなくなってたんだっけ………」
小妖精は飛べなくなった理由すら忘れているようだ。やはり、マンドレイクの生食は健康どころか身体に悪いようだな。
「そんな事より、トワ殿。アレを見るであります」
アレ? TYPE_R_03が触手で示す先を見ると、何処かで見たような焦げ跡が巨木に残されていた。小妖精に遭ってから見なくなっていたが、こんな所にも謎の痕跡があるとはな。
「うげっ。何であんなのがあるの? もしかして、アンタ等の仕業!?」
小妖精は嫌悪の顔で焦げ跡を眺めている。
それと、アレをオレ等の仕業かと言われても、オレ達もアレが何なのか分かっていない訳で。それとも、小妖精はアレが何なのか分かるのだろうか。
「アレは妖精を魔力で焼いた跡だよ!! なんでも、古いヒトの間で妖精避けとして使われていたらしいけど………。まぁ、実際に妖精が多少寄り付かなくなるから効果があるのかもね!!」
なるほど。そんな簡単な方法があったのならば、TYPE_R_03を魔力吸引機にさせずに、手っ取り早く妖精を焼却処分しておけばよかったかもな。
「アレは一種の結界だから、移動するのに一々妖精を焼いていたらキリが無いよ!! それに妖精が多い場所でやっても逆効果にしかならないしね!!」
だから、小妖精に遭った付近ではあの痕跡が無かったのか。あそこは小妖精と妖精が入り乱れる地帯のようだったからな。
もし、あそこで妖精を焼くような事をしたらキレた妖精が大挙して襲ってきただろう………との事だ。
小妖精は“古いヒト”と言っていたな。その“古いヒト”が誰を示しているのかは分からないが、コレをやったのはそれの関係者なんだろうな。
「トワ殿、変な場所を発見したであります」
変な所? この何が起きても不思議ではないような森の中に変な場所? どういう変な場所なんだ?
「認識阻害が掛けられているのか、空間が歪んでいるのか。兎に角、変な場所であります。何かが居るのは間違いないでありますが、某でも中を見通せない所を鑑みるに、条件を満たさなければ中に入れない系でありますね。………まぁ、無理矢理やれば行けるでありますが」
無理矢理やるのは最終手段として取っておこうな。で、それってここから近い所? なるほど。なら、ちょっと行ってみるか。
書く事が何となく決まったので、章タイトルを変更しました。




