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羽虫こと小妖精のアリスが道案内役をして暫く、オレ達は道に迷っていた。
「おい………。どうなってるんだ? お前が居れば小妖精は手を出して来ないんじゃないのか?」
「え!? そうだけど?」
は? いや、過去の件もあって一瞬沸騰しそうになったが、コイツを殺すのはまだ早いだろう。
「あぁ、トワが懸念しているコレね。簡単な話、今のコレは小妖精の仕業じゃないって事。使われている魔力量的に、小妖精では使えない規模の魔法ね」
「空間転移しているのは変わらないでありますね。今回はそこの羽虫の時よりも範囲が広いから、確かに別種かもしれないであります」
なるほど。つまり、今のコレは小妖精よりも強力な種族という事だな。………妖精とか?
「とりあえず、空間ごと破壊してみるであります? 面倒臭いし」
そうだな。二度目だし、とっとと抜け出すか。
オレの指示に、TYPE_R_03は雲丹のような形状に変化し、一斉に針を周囲に射出した。
「あっぶな!!」
それに巻き込まれそうになった羽虫。………チッ。当たっておけばいいものを。
TYPE_R_03の針は宙空で止まり、空間に罅が入っていく。どういう原理かは知らないが、オレ達を閉鎖空間に閉じ込めていたモノを破壊したという事で良いのだろうか。
罅は徐々に広がり、パリンという軽い音と共にバラバラト崩れ去った。崩れると同時に何処からか悲鳴が聞こえた気がした。
「あぁ、さっきのアレは妖精が作ったモノのようでありますね。大方、自身の身体を素に結界魔法を張っていたのでしょう。某が空間ごと破壊したので、そのまま死んだでありますが」
「そうそう。妖精みたいに自分の身体を触媒にして結界を張れば強力なモノが出来るんだよね!! まぁ、自分の身体に負担が強く掛かるし、今みたいに魔法自体を破壊されたら巻き添えで死ぬから私はやらないけど」
自分の身体やら何やらを抵当に入れれば、強力になるのはどこも同じか。まぁ、この妖精共の末路を見るに、使う相手は選んだ方がいいのは確かだな。………そもそも、妖精にそんな頭を使うような事は出来ないだろうが。
とりあえず、足止めをしていた妖精が居なくなった事で、堂々巡りをしていた空間は元に戻った。しかし、小妖精の事も含めてこれで二度目か。………三度目は無いよな?
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はい。三度目の奴です。今度は妖精ではなく、小妖精の仕業らしい。やはり小妖精を連れていても意味が無かったな。そもそも、妖精種に何かを期待したのが間違いだったか。
「うーん、同じ小妖精を巻き込んでも簡単に解除されちゃうから、やる意味自体が無いんだけど………。この小妖精はちょっと馬鹿な奴みたい」
妖精種の頭なんてどいつも似たようなモノだろ。
小妖精が指をパチンと鳴らすと、偽りの空間が溶けて消えていく。溶けた景色の向こう側に居たのは、少し小さめサイズの小妖精。現れた小妖精はそのまま徐々に小さくなっていき、遂には掌サイズまで縮んでしまった。………コイツは何で縮んだんだ?
羽虫は縮んだ小妖精まで近付いていき、そいつを摘み上げるとそのまま口に入れ嚥下した。………え? コイツ何してんの?
「え? 小妖精同士の魔法対決で負けた方は、勝った方に食べられるんだよ。だから、早々格上の小妖精に喧嘩を売るような奴は居ないんだけど、たまにこういう恐れ知らずの奴が居るんだよね。まぁ、そういうのは返り討ちにするんだけど!!」
同族から喧嘩売られて返り討ちにしてきたと言うのならば、コイツって小妖精の中では結構強い方なのか? 隣に最強兵器が居るからか、そういうのがいまいちよく分からないんだよな。
「ところで、小妖精って、主に何から魔力奪ってるんだ? 道に迷わせるにしても、どういう奴を相手にしてきた?」
「んー、大抵は森の中間クラスの獣かな。頂点クラスだと力技で空間転移を突破してくるし、弱い奴だと吸える魔力も少ないし。あとは、こういう命知らずの小妖精」
迷わせた獣の命は取らないのに、同族の命は取るらしい。小妖精の生態はよく分からないな。




