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木々が焼け焦げた様子はこちら側でも見られるようだ。シィ氏は不在だったし、これは彼女とは関係の無い事なのだろう。勝手に犯人扱いしてゴメンな。
別の所では土が大量に掘り返されていた。ついでに白骨死体が何体か埋まっている。一部だけ残っている頭骨を見るに、狼型の動物っぽいな。欠けた頭骨なのに、その大きさがオレの身長と大体同じって所が異様だが。
ただ、ここは焼け焦げたような後は無いようだった。コレは例の放火犯とは別の奴なのだろう。
白骨死体を埋めようとした理由はよく分からないが、こういう事をするヤバい奴が居るかもしれないという事は頭の片隅にでも置いておこう。
獣道を歩いていると、ゴゴゴという地鳴りが響く。地震か? と思った瞬間、オレの身体は空高く飛び跳ねていた。
これはオレの意識ではない。そもそも、こんなに高く跳べるような運動性能は有していない。これは、危険を察知したTYPE_R_03がオレの身体を使って強制的に跳ばせたのだろう。
ふと下を見ると、地面を突き破って何か巨大なモノが出て来た。そのデカいモノは突き破った勢いそのままにオレの方に迫り、自重で落下していった。
………何アレ? 蚯蚓系の生物か? それにしてもデカ過ぎるだろ。
巨大蚯蚓は轟音を響かせながら、そのまま地面へと潜っていく。さっきから響いている地鳴りの正体はこれか。
「トワ殿、知ってるでありますか? この星でのアレは竜種でありますよ?」
マジかよ。どう見ても蚯蚓じゃねぇか。確かに竜種の中には、腕や脚を持たない胴長タイプが居るが、蚯蚓を竜種認定はちょっと………。
まぁ、そんな竜種もどきは兎も角。蚯蚓はこちらに戻って来るのかな? また襲い掛かって来るのなら、返り討ちするのも吝かではないぞ? やるのはオレではなく、TYPE_R_03だが。
「そのまま地下へと潜っていくようでありますね。そもそも、何故地上に飛び出てて来たのか………」
雨が降りそうだと蚯蚓が出てくるとか言うし、これからの天気模様が良くないのでは? まぁ、雨が降った所で濡れるのはオレの骨だけなのでどうでもいいが。
巨大蚯蚓のせいで、一帯の木々は薙ぎ倒され地面は陥没及び隆起し、色々と酷い有り様だ。まぁ、放っておけば自然に元通りになるだろう。
周囲の被害に見を向けないようにして先へ進む。地形が変わる程の災害レベルの巨大蚯蚓とか、下手人の分からん放火跡とか何も知らん。という体にして、森の先へと進む。そもそも、それらの事はオレには関係ないしな。
何も気にしない事にしたが、気になる事も出てくる訳で。この森は旅人や住民の手も足も何も入っていない場所だ。多分。
彼方此方に“トトリオの樹”もかくやと言えるような巨木が普通に立っている。余りにもデカ過ぎて例の樹が普通レベルに思えてきたな。
そんな巨木に付けられた傷跡。何かの獣らしき生物の爪痕っぽいが、その大きさが半端ない。
この森は何もかもが規格外っぽいな。深森の朽館やトトリオの集落は比較的外縁部だから、まだマシなのだろうな。
暫く歩くと、同じような爪痕を見付けた。一定間隔で爪痕が付けられているという事は、この爪の持ち主が自らの縄張りを示しているのだろうか。
何にせよ警戒して進んだ方が良いだろう。TYPE_R_03が周囲に目を光らせているとはいえ、命知らずが喧嘩を売ってくるなんて事があるかもしれないし。
「トワ殿、迷ってるでありますか?」
いやいや、そんな馬鹿な。世界地図が使える限り、道に迷うとかあり得ないから。………あの巨木見た事あるな。巨木に刻まれた爪痕の位置も形も見覚えがあるというか、何なら二、三回は見ている気がする。
これはどう考えてもおかしい。オレは世界地図を見ながら、ほぼ直線で歩いている。
何も見ない状態だと数秒で迷うだろうが、世界地図で方向を修正しながら歩いているのだ。迷った時にありがちな、同じ所をぐるぐる回るなんて事は起こらない筈………。
「何者かに小規模ながら空間転移されているであります」
え? 空間転移? それなら確かに直線的に歩いている筈なのに、同じ巨木を何度も見る訳だ。しかし、一体誰に?
「それは分からないでありますが、普通の獣ではない事は確かであります。それに、某の威圧も気にしないようであります」
TYPE_R_03の威圧を意に介さず、喧嘩売ってくるような命知らずって本当に居たんだな。どんな奴かは分からないが、オレを空間転移で同じ道を歩かせているのはどういう意図があるんだ?
「この先に進んで欲しくないとかであります? 平和的に解決するのならば、別の道に行く事をお勧めするであります」
そうだな。特にこの先に是非とも行きたいという訳でもないし、他の所へ行くか。
来た道を戻るつもりはないので、大体直角に曲がった方向へと歩いて行った。
暫く歩くと見覚えのありすぎる巨木の前に居た。世界地図を見ると、どう見ても元の位置に戻っている。こっちも駄目なのか? なら、今度は反対方向に………。
「無理矢理やるのなら、空間破壊がお勧めであります。まぁ、その余波でちょっと周囲が更地になるかもしれないでありますが」
更地になるのが、ちょっとした事なのかは兎も角。このまではま埒が明かない事は確かだ。………よし。TYPE_R_03よ。やっておしまいなさい。
TYPE_R_03がオレの身体から這い出て、棘を無数に生やしたキモい形に変形する。
どういう風に空間を破壊するのかは知らないが、この超攻撃的な形状を鑑みるに大体酷い事になりそうな気がする。
「わーっ!! ちょっと!! 待って!! 謝るから!! それは止めて!!」
何処からか声が聞こえ、TYPE_R_03の前へ飛んできた。大きさ的には普人族の子供位の大きさで、背中に虫みたいな翅が生えている。
「え?」
いきなり飛び出てきたヒト型は、TYPE_R_03が射出した無数の棘に貫かれ、ほぼ原型を留めない形になり、ボトリと地面にゴミのように落ちた。
元が何だったのか分からない位にボロボロだが、コイツは一体何だったのか。その身体から仄かに光が漏れ出てくる。死体から魔力が漏れているのだろうか。
「あっぶな!! 死ぬところ………じゃなくて、一回死んだんだけど!! 待てって言ったよね!!」
光に包まれたゴミがふわりと浮き上がり、文句を垂れてくる。言動から察するに、オレが巻き込まれた空間転移は恐らくコイツが主犯だろう。つまり、このゴミが加害者でオレが被害者という構図で間違っていない。自衛手段を取ったオレ達に何の落ち度があるのだろうか。………まぁ、ちょっとやり過ぎたかもしれないが、生きているみたいなので問題は無いだろう。
で? コイツ、何なんだ?
「小妖精でありますね。妖精は生存競争の果てに、個を捨て現象や概念になった種族でありますが、小妖精は個を捨てずに生き残った種族であります。まぁ、現象に成り下がらなかったせいで使える魔力が少なく、他の生物に迷惑を掛けるしか能のない羽虫であります」
なるほどな。妖精は一度見た事あるが、アレは相当ウザかった。コイツはあれの親戚みたいなモンか。つまり、ここで駆除した方が良いって事だよな?
「だから、ゴメンって謝ってるでしょ!! もうしない………って事は無いけど、見逃すしてよ!!」
よし。潰そう。
鮭から金を巻き上げるバイトが忙しいので更新しないかもです。




