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山と谷がある話  作者:
09.大断裂
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 熊鬼族が住んでいた場所に辿り着いた。しかし、周囲には誰も居らずもぬけの殻だ。

 村跡地には、木々が焼け焦げた跡や何かと争ったような形跡が残っている。しかし、熊鬼族や他の生物の死体は無い。死体が見えない事から熊鬼族が全滅した訳ではない事は分かる。恐らく、何かに襲われやむを得ず住処を放棄したのだろう。

 あれからそんなに時間は経っていない筈だが、この村に何があったのだろうか。

 妖花精(アルラウネ)畑にも妖花精(アルラウネ)は一株も居らず、代わりにマンドレイクが植わっていた。………妖花精(アルラウネ)は熊鬼族と共生関係にある。熊鬼族が避難したのに彼女達も付いて行ったのだろう。………しかし、苦労して一掃したマンドレイクが同じ場所で繁茂しているのを見ると複雑な気分になるな。


 あれから各所で同じような被害を受けている所を見掛けた。この森に住んでいるモノを全て把握している訳ではないが、ここまでの被害を齎す事が出来る奴は限られる。

 まさかとは思うが、旅人(プレイヤー)が入っている? 有り得そうなのは、パピ•ヨン様氏とその配下だろう。森を開拓したいと言っていたし、復興が一段落したら森を切り拓くために行動しているのかもしれない。

 ただ、オレが考えるに、彼女等ではないだろう。混合蟲人(キメラ)達が火を使うやり方を取るとは思えないし、パピ•ヨン様氏が出張るとは思えない。それに、あのヒトがやるのならば、木々が焦げる程度では済まないらしいし。

 もやもやしたモノを胸に抱えながらも先へと進む。TYPE_R_03のお陰で平和に移動出来ているため、その分を考え事に充てる事が出来た。

 目下の考え事は、熊鬼族の村等を襲った奴の事だ。もしかしたら、それぞれ別の奴なのかもしれないが、残された痕跡は大体同じだった。


「うおっと………」


 巨木に凭れ掛かるようにして巨大なヒト型が死んでいた。腐敗具合から言って、まだそんなに経っていないようだ。まぁ、半分は腐っているんだが。

 恐らくこの死体は巨人なんだろう。推定巨人氏の右腕は焼失している。肩口の骨が炭化しているため、高温で焼き潰されたのだろうか。見たところ巨人氏の全身は、丸ごとこんがりという訳ではないし、周囲には焼け焦げたような所は見えない。そのため、何処か別の場所で焼かれ、その後ここまで逃げてきて巨木で一息吐いた所で死亡といった所か。


 うーん………。どうやら、確実に森の中に何かヤバい奴が居るようだ。リーン氏達は大丈夫………もしかして、これ等をやったのってシィ氏という疑惑あるか?

 老いぼれたとはいえ、シィ氏は強力な竜種だ。しかも、元四天王とか言っていた気がする。

 あんな事をする理由(ワケ)は分からないが、もしかしたら、耄碌して暴走徘徊しているのかもしれない。もしそうならば、リーン氏に介護を押し付けたような形になってしまったようで、無い筈の心が痛む。

 まぁ、とりあえずは元トトリオの集落に行ってみれば分かるだろう。アレ等の被害がシィ氏のせいでなくても、感知範囲が広いシィ氏なら何か知っているかもしれない。


 元トトリオの集落まで辿り着いた。ここへ来るまでに、熊鬼族と同じような場所を何度も見た。しかも、ここに近付くに従ってそれは増えているようだった。やはり、シィ氏の仕業だろうか。火付け徘徊とか目も当てられないな。

 元集落の内部は、リーン氏達が片付けたのか荒れ果てた様子はなくそれなりに綺麗になっていた。………ただ、何かが無い気がするんだが思い出せない。

 肝心のリーン氏達の姿が無いな。てっきり、まだここに居るのだと思っていたのだが無駄足だったか。


「何処かに誰かが隠れているというのも無いでありますね」


 オレに気配は探れないので、TYPE_R_03に索敵を頼むとこんな返事が返ってくる。

 ここへ来るまでに例の下手人はシィ氏だと粗方決めつけていたので、誰も居ないとなると何をすればいいのか分からないな。

 トゥールワード氏が入っていた“精霊樹”は、変わらず集落内に聳え立っていた。

 そういえば、トトリオの枯れ樹が無いな。あの巨大なモノが影も形もないのは不自然だ。まぁ、リーン氏が片付けたのだろう。シィ氏という重機が居るのならば作業はそれなりだった筈だ。

 もしかして、各地の焼け焦げた跡は、トトリオの枯れ樹を焼いた跡か? いや、それだと、熊鬼族の所までトトリオの樹は伸びていないし、肩を焼かれた巨人氏の事もある。トトリオを焼いたのはシィ氏だと思うが、アレ等は別口なのだろう。

 とりあえずでこんな所まで来たが、知り合いや知性が有るモノに誰にも会わなかった。これよりもっと遡って、ライルファン氏の開拓地に行くのはちょっと遠慮したい。今はパピ•ヨン様氏に会いたくないのだ。

 と言う訳で、ここまで来た所で何だが、“深森の朽館”まで戻ろうかな。それから更に奥地へと向かうのだ。ニル氏に普人族(ヒュム)にされた諸々で後回しになっていたが、この星の極点を目指す旅に戻るのも良いかもしれないな。


 “深森の朽館”に戻って来た。こちらに戻る前にヘイルデン要塞に一飛びし、ついでに館の管理者という人材を連れてきた。ヘンシェル氏セレクトだから恐らく大丈夫だろう。


「要塞に戻りたい時は連絡よろしく」


「次にトワ様がいらっしゃるまでに、全て完璧にしてみせます」


「周囲を全てトワ様の庭にしてみせます」


 ここの管理者は不死者(アンデッド)二体だ。テルスダール氏配下の元丘巨人(ヒルトロール)と、元某国兵士の普人族(ヒュム)だ。

 聞けば、この二体はヘンシェル氏やテルスダール氏の集落で戦った仲だという。勿論、以前は敵同士だったが、今では無二の親友だとか。行程はどうであれ、仲が良いのは善い事だよな。

 館の管理を二体に任せ、オレはここより更に北上する事にした。目指せ、北極点。………あるのかどうかは知らないが。


五月病に罹る暇が無い程忙しい。五月病になりたい。

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