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管理者の端末であるモノの姿が明滅する。一瞬だけモザイクが掛かったかのような演出だ。
「あ、そろそろ時間みたいです。では、最後に何か質問は有りますか? お一人、一回まで大体何でも答えてあげますよ?」
質問か。大体何でもって事は答えられない事もあるのか。知りたい事はまだまだ有る。何を質問すればいいんだ?
「なら、俺から一つ。アンタ等、管理者達の目的は何だ? 陣取りゲームの先に有るモノは何だ? 人間を大量虐殺させるのは必要な事なのか?」
ダーマ氏からは薄っすらと怒りを感じる。何処に怒る要素があるのか分からないが、ダーマ氏的に許せない事が在るのだろう。多分。
「質問は一つまで………と言いたい所ですが、それ等は同じ事に対する質問ですね。答えは簡単、暇潰しです。貴方がたも知っての通り、永劫の時間を生きるモノにとって大事な事は“趣味に生きる事”です。退屈が存在の死を意味する私達にとって、暇潰しこそが重要な目的。そして、ここの世界の管理者にとって、生命体同士の争いこそが最大の娯楽なのです」
つまり、血で血を洗う戦争が見たいと? 悪趣味な奴だな。でも、それなら、あの世界で戦争させるのはいいのか? 一応、あそこも現実だが、旅人は死んでも死なないような世界だぞ?
「私達、地域の管理者は、この世界の管理者の分身です。私達が陣取りゲームの勝敗で一喜一憂する感情等も大元に還元されています。ヒトを大量に消費してきたのは結果です。実際、前回は殺しすぎましたからね。故に、次回は人命の消費は少なくなるようにしています」
「他所様の世界の事情については何も言わないようにしているが………。俺は何が有ったとしても、この星の事は見習わない事にするぜ」
ダーマ氏は、管理者の答えに納得していない様子だな。まぁ、他所の星の事情に首を突っ込んでも碌な事にならないからな。
星の管理者であるオレ達が違う星で何をやっても、その星の管理者には敵わない。何しろ環境が違うのだ。最速で存在を握り潰されて終了だな。
「あー、オレの質問なんだが、この世界に居る種族ってどうなってるんだ? “人間”以外にも居るのか? 少なくとも、ここでは“人間”以外を見た事が無いんだが?」
一回、蜥蜴人らしき奴を見掛けたが、中身は人間らしい。
しかし、この世界のオレの種族は骸骨兵だ。そうなると、骸骨兵はこの世界に存在するという事だが、そいつ等は一体何処に居るんだ?
「あぁ。確かに、この地域では“人間”だけですよね。貴方は“人間”に擬態した骸人のようですが」
管理者曰く、地域の管理者ごとに生産しているヒトが違うらしく、この地域では“人間”だけのようだ。
この世界の“人間”の能力的には、あの世界の普人族と大差無いらしい。つまり、突出した個性がなく普遍的な能力だという事だ。
対して、オレの種族である骸人は、不死山と呼ばれる地域に居る種族のようだ。
骸人は所謂不死者だ。基本的に死ぬ事はなく、普通のヒトには破壊すらされない程頑丈なのだが、全体数が一番少ない種族らしい。
何でも、その地域の管理者が大戦に乗り気ではなく、前回、前々回と敵対勢力によって大きく数を減らしたから、らしい。………いや、普通のヒトには破壊されないって言ったよな?
「骸人特化の種族がありまして。それで前回、当時の管理地域を追い出されて不死山へと移ってきたという経緯があります。………え? 私の担当地域の種族ですか? それはですねぇ、銃人っていいます。身体は“人間”と大体同じなんですが、戦闘時に頭が銃………飛び道具に変形しまして、自分の頭部を弾丸にして相手にぶっ放す訳ですよ。そんな訳で、前回、前々回共に私の地域が戦績一位でしたね」
そりゃあ、死傷者数で言ったら、ぶっちぎりの一位だろう。何しろ、銃人とやらは自分の頭部を捩じ切って、それを敵に放つのだ。身体は普通の人間という事は、頭部も大体普通の人間と同じだろう。そんなモノが高速でヒトに当たればどうなるかなんて、火を見るより明らかだ。
しかも、この銃人は頭部のバリエーションも豊富で、投石機タイプや散弾銃タイプ、電磁加速砲タイプなんて奴が居るらしい。
自分の頭を弾丸とする以上、物理弾以外の飛び道具にはなれないらしいが、寧ろ物理弾の方が死傷者数は上がりそうな気がするな。
「質問は以上ですか?」
「某からも良いであります?」
オレの身体からTYPE_R_03がズルリと出て来た。そういえば、コイツの分も質問権があるのか。てっきり旅人だけだと思って失念していたが。
「えー? まぁ、いいですよ」
「某に話を振っておいて、その気の無い返事は何なのであります? まぁ、いいであります。えー、この世界と向こうの世界で言語とか似通っているモノが有るでありますが、何か関係が在るのであります?」
「無いですね。では、質問は以上で宜しいですね?」
ばっさり一刀両断に否定したな。TYPE_R_03は、“管理者”という訳ではないから対応が雑なのだろうか。
「そろそろガチでヤバいのでお暇しますね。貴方がたの世界にお邪魔する事もあるかもしれませんので、その時は宜しくお願いしますね?」
管理者の姿は朧気になり、足元から徐々に消え始める。………そういえば、奴の話で気になる事が出来たのを忘れていた。
「最後に一つだけいいか? 答えなくてもいいが、この地域で“駆除”された旅人はどうなる? 死に戻りしてるのか?」
「それは勿論、向こうの世界に帰っています。旅人の魂は我々の管轄ではないので」
そう言った管理者の姿は掻き消えた。顕現限界か自分の管理地域に帰ったのか。
さて、これからどうするか。管理者からこの世界の事情を聞いた今となっては、この世界の観光という気分でも無くなってきた。ダーマ氏には悪いけど、先に帰ろうかな………。
「トワさん、悪いが俺はこれで帰るぜ。この地域………星では俺の目的は果たせそうに無い。それに、ここの機構的に胸糞悪い………いや、気に食わないからな。観光巡りに誘って貰った手前、申し訳ないが先に帰らせて貰うぜ」
「いえ、オレも帰りますよ。さっきのを聞いた後だと観光という気分でもないですからね」
ダーマ氏も帰る気分だったというので、一緒に帰る事にした。
しかし、この世界の“戦争”のために、あの世界に五万人超を派兵か………。それがいつになるのかは知らないが、向こう千年程は来ないで欲しいな。
あと2日でGWが終わってしまう。やはり毎日休みにならないものか………。




