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なるほどね。ここの管理者が人間保護に篤い理由が分かった。
どうやら、この世界には複数の管理者が居るようで、それぞれ管理する地域を賭けて小競り合いをしているらしい。その小競り合いは、これまで四回開催されている。何を隠そう、それが百年前の第四次世界大戦だったという事だ。
この世界大戦はそれぞれ管理する地域の人間が行う。所謂、代理戦争というやつだ。それの勝ち負けによって、管理地が切り取られ分配される。ここの地域は前回の第四次世界大戦で負けた訳ではないが、様々な被害は被った。オレ達が先程見学した“東京タワー跡地”もその一つだ。
まぁ、そんなため、ここの管理者は大戦の道具である人間を篤く保護しているという訳だ。
例のアブダクションで異分子を駆除しているのは、同士である人間を傷付け商品価値を下げるような個体は要らないという事なのだろう。因みに、アレは身体的に死んでいる訳ではないらしい。………どう見ても身体が砕け散っているようだったが。
オレにこれらの事を語った奴曰く、傷害行為を犯したモノを“駆除”するのは、“他者を傷付けるのは精神が脆弱であるため”という理由らしく、駆除と共に不良個体の間引きを兼ねているのだとか。
管理者が時々発している『善良な一般国民は何たら』という発言は、人間に強制しているつもりは毛頭なく心から願っての発言なのだが、一般国民のヒト達は管理者の事を誤解しているのだとか。………いや、あんなの見せられた後でのあの発言は誤解しか生まないと思うぞ。しかも、人間の安寧を願っている訳ではなく、兵隊としての商品価値が下がらないようにという思いから来るモノだから、余計性質が悪い。
「でもですね! 次の大戦はあの世界で行う事になりましたので!! 戦死者が出る事は無いんですよ!!」
知らんがな。
オレ達にこの世界の事について、頼んでもいないのに色々と説明してくれたコイツは他の地域の管理者の端末らしい。さっき“東京スカイツリー跡地”で出会った。
しかし、次の大戦をあの世界でやるのか。それはそれでどうなのと言えなくもないが。
「それなら、そこまで“傷害行為”を敵視しなくてもいいんじゃないのか?」
「さあ? それは前回までの名残りとかじゃないですか? ここの管理者が第五次を見据えた上で、何を考えているのかは知りませんし」
大戦で使えるのは、管理地域に居る全国民だ。使える武器や兵器の類は全勢力同レベルらしいので、兵士の数を揃えるのが大事なようだ。
でも、次の舞台があの世界だと、全国民が接続とか出来ないんじゃないか?
「次の大戦は五万人までという制約があります。それと、派遣される兵士は新規の旅人であり選択する種族は普人族という規約です。向こうの神には既に話は付いていて、後は具体的な開催日を決めるだけですね」
まぁ、向こうの神は他世界からの接続者を増やす事が目的みたいな所があるからな。この世界からどれだけ行くのかは分からないが、最低でも五万人は堅いのだ。断る理由は余り無いのではなかろうか。
ところで、何故こんな話をオレ達にしているのかと言うと、管理者の端末曰く『別世界の管理者クラスの旅人には一応説明する事になっている』らしい。そういうのって、ここの地域の管理者がやるもんじゃないのか?
「暇でしたので。それに、ここの管理者は生真面目さだけが取り柄なので、画一的な説明しか出来ないんですよね。想定外の出来事に弱いというか」
オレ達のような、異世界からの異分子相手だと何をすれば分からないという事だろうか。
………あぁ、想定外の事に弱いから“傷害行為”のような突発的に起こるモノは取り除こうとしているのかもしれない。“犯罪行為”は往々にして計画的なモノだからな。
「さっきの、“駆除”したけど死んでいる訳ではないってのは何なんだ? “駆除”したの精神だけで身体は生きてるっつう意味か?」
「いえ。あの世界に行くためには魂が必要ですので、それは無いですね。アレは“傷害行為”をしたモノの身体を奪い精神を自らの手元で管理するためです。まぁ、管理と言うよりかは、凍結処理保存をしているらしいのですが」
まぁ、確かに“傷害行為”を起こしたモノの身体自体を無くせば、この物質世界で“傷害行為”など起こしようもないからな。その上で、大事な兵隊である魂は凍結処理を施して、来る時まで保管しているという事か。
しかし、とことん人道的配慮なんて無いような世界だな。オレが言えた義理ではないが。
しかし、“説明”をしているコイツの意図は何なのだろうか。“説明”する理由は前に言っていたが、真逆それだけではないよな? もしかしたら、その説明が終わったら、オレ達の危険が危ないのではないだろうか。
「そういえば、俺達旅人がこの地域を移動する時に、一々エリア解放しなきゃ移動出来ないって仕様はどうにかならねぇのか? 何か、余りにもゲームみたいな仕様に違和感が凄いんだが」
確かにダーマ氏の言う通り、“渋谷”から始まって徐々に行く事が出来るエリアを広げるために、ミッション的なモノをやるのは手間が凄い。少なくとも、現地人はこの仕様に当て嵌まっていないように見える。一体どういう意図があってあんな仕様にしたのだろうか。
「私はここの地域の管理者ではないので本当の所は分かりません。………しかし、恐らくですが、この地域の仕様は訪れる旅人達に“ゲームだと思わせるため”だと思います。貴方達のようにあの世界の内情を少なからず理解している旅人は少数です。しかし、大多数の旅人は、あの世界を単なる仮想世界だと思っています。私が貴方達にこうして接触しているのは、そういう理由です」
ゲームみたいな仕様は、旅人に合わせてあげた結果だと。なるほどな。それなら、オレ達にはその仕様を免除出来ないモノか。
まぁ、アレだ。ゲームを“攻略”するという目的を持っていないオレにとって、この仕様は面倒臭いのでな。
「私の管理地域なら出来たんですが、ここだと無理ですね。ここの管理者は頭が固いので、私が要請したとしても無意味でしょう」
ですよね。
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