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そういえば、少し前に無賃乗車を試みた事が有ったが、あの時は怖い駅員が出て来ただけで何も無かった。つまり、あの上位存在らしき奴にアブダクションされる理由は、犯罪行為という訳ではないという事だろう。
ところで、例え故意でなくても傷害として成立してしまえば、加害者となってしまったモノは処されるのだろうか。オレの安全のためにもどういう条件か検証したい所だが、死に戻りが確定しているとやりたくはないな。
「クオンはオレより長くこの世界に居るようだが、さっきみたいな事は見た事無かったのか?」
「無いですね。そもそも、あんな事されるなら、ここの現地人達は警戒して軽はずみな行動はしないのでは? 先程のは恐らく旅人ですよ」
異星人である旅人だから、この世界のルールを知らずにやらかしてしまったのかもしれない。
まぁ、この傷付けた相手が現地人か旅人かによるんだが。もしかしたら、現地人を傷付けた場合のみ処されるのかもしれないし、何方も関係なく一律かもしれない。
何はともあれ、思ってもみない何かが傷害行為とならないように気を付けていかないとな。
「あ、トワ様。私は用事があるので、あの世界に帰りますね?」
この世界で流れる時間は、あの世界と大体同じらしい。そのため、あの世界で作った友人との用事の時間がそろそろなため一度向こうへ戻るようだ。
クオンはオレのように、ほぼ独りで行動している訳ではなく、主に友人達と遊んでいるようだ。クオンに言わせれば、寧ろオレのように独りで活動している方が珍しいらしい。何でや。
クオンは帰りの次元口を呼び出し、帰って行った。
『トワ殿は独りの方が良いのであります? ならば、某も帰った方が良いでありますか?』
ダメです。というか、お前は次元口呼び出せる訳じゃないからオレ無しでは帰れないだろ。
道案内役は帰ってしまったが、オレのやる事は変わらない。他の駅へと行ってみるだけだ。
“電車”以外の乗り物も使ってみたいが、未解放エリアの壁を乗り越えられるのは電車だけのようであるため、“タクシー”等を使う気になれない。未解放エリアの壁に当たったら、その場に取り残されるらしいからな。
という訳で、今回も電車に乗ってエリアを解放していく。二つ目のエリアを解放下事で分かったのだが、この電車は“山手線”というらしい。それに“内回り”と“外回り”の二種類あるとか。
何を基準にして内外なのかはよく分からんが、どうやら進む方向が違うらしい。“原宿”エリアへ向かうのが“外回り”、新たに解放された“恵比寿”エリアへ向かうのが“内回り”と言うようだ。なるほど分からん。
とりあえず、オレのやる事は隣接するエリアを解放していく事だけだ。
そういえば、まだ現地人に観光名所を聞いていなかったな。最初は行けるエリアが限られているようであるため、行動範囲を広げようと思ったのだが、そろそろ聞いてみてもいいかもしれない。
という訳で、“忠犬八公”広場で現地人らしきヒトに話を聞いてみる。
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「すみません。ちょっと、いいですか?」
「アッ………。急いでいるので………」
………おかしい。アレから何人ものヒトに話し掛けているのに、一向にオレの話しを聞いてくれるヒトが居ない。何なの? ここの現地人は全員シャイなの?
『トワ殿が不審者に見えるのでは? 何やら、ここのヒトビトは事情がありそうでありますし、通行人に話しかけて来るような見るからに怪しいトワ殿を警戒しているのでは?』
見るからに怪しいって………。オレの今の姿は他の現地人と然程変わらない姿だぞ。身体が骸骨兵とはいえ、TYPE_R_03で普通の現地人に見えるように偽装している。何処が不審だって言うんだ。
『雰囲気? トワ殿が醸し出す独特の雰囲気が警戒心を抱かせているのではないであります?』
雰囲気って。そんなモン、どうすりゃいいんだよ。
「あの、すみません」
おや? 途方に暮れていたら、オレに話しかけて来るヒトが居る。見た目は黒縁の眼鏡を掛けた紳士服を着た男だ。旅人か現地人かは分からないが、何の用だろうか。
「もしかして、貴方は旅人の方ですか?」
こう言うからには、このヒトは旅人なんだろうな。多分。………しかし、旅人がオレに何の用だ?
「はい。そうですが、そちらは?」
「あぁ、良かった。実は私はこの世界にいらっしゃった旅人の方々に、この世界の事をよく知って頂くための活動をしておりまして。お時間宜しければ、あちらでこの世界で生活する上での説明会がございまして、それに参加してみませんか? あぁ、そんなにお時間は頂きません。この世界では異世界人である旅人の皆さんには、注意して頂きたいルールが色々ありますからね。それについての詳しい説明をさせて頂きたいと考えておりまして」
なるほど? この男は旅人ではなく現地人のようだな。彼が言うとろころによると、この世界には説明役が居るらしい。世界のルールの説明をするという事は、このヒトは管理者側なのだろうか。こうして、一々旅人に説明して回っているとはご苦労な事だ。
「なるほど。分かりました。しかし、オレには必要ありません。そういった事は、自分で確認したい気質でしてね。他の方にしてあげて下さい」
「少しだけでも良いですから、参加なされませんか? この世界に先に着たベテランとも言える旅人の方もいらっしゃいますから。“平和”に生活する上で大事な事柄ですからね。少しだけでも参加する価値はあるかと思いますので」
何だコイツ、しつこいな。
オレが知りたいのは観光名所であって、世界のルールじゃないんだよ。
男は尚も食い下がってくる。本当にルールについて説明したいだけか? 何か別の下心が見える気がする。これは無視してさっさと立ち去った方が無難だな。
オレは、男に『急いでますので………』と言い、やんわりと細心の注意を払って男を振り切り、電車に乗った。
リーマン風の男は宗教勧誘がモデルですが、リアルはガン無視して通り過ぎるので、実際何を言っているのかは想像です。




