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街の各所には自動販売機なるモノが置かれている。これは、カネを幾らか投入すれば欲しいモノを買えるシステムのようであり、街が平和である事を示すシンボル的なモノらしい。輸入した漫画で読んだ。
『下にこんなモノが有ったであります』
自動販売機の下からニュルッとTYPE_R_03が出てくる。その触手には数枚の貨幣が収まっていた。自動販売機の下には、こうして貨幣が落ちている事があるらしい。異世界の文化を学んでおいて良かった。こんな所で活きるとはな。
これで電車に乗れるのだろうか。如何せん、これらの貨幣の価値が分からない。足りるのか?
とりあえず駅に向かい、券売機の投入口に貨幣を入れてみる。
『足りないみたいでありますね?』
どうやら、そのようだ。
よし。他の自動販売機も回って必要量を集めるぞ。
オレが学んだ漫画では、自動販売機の下を覗き込むのは中々にアウト行為らしい。その姿を見られれば不審者扱いされても致し方なしとの事らしいので、オレ自身がそれをやる訳にはいかない。
そのため、TYPE_R_03に働いて貰っている。まぁ、自動販売機と地面の隙間はオレにとっては狭すぎる。実際に行うとなると、不定形なTYPE_R_03が探った方が効率が良いのだ。
今行ける範囲の自動販売機の下は全て攫ってきた。大半の自動販売機の下にはゴミしか落ちていなかったが、何枚かの貨幣は手に入れる事が出来た。
という訳で、再度投入。
『隣駅の■■まで行けるようであります』
なるほど。駅の名前は聞き取れなかったが、実際に行ってみれば認識阻害が解消されるのかな。隣駅まで行ってみる事にした。
改札に乗車券を入れると、何の抵抗もなく構内へ入る事が出来た。近くに顔の怖い駅員が居たが、特に何も起きなかった。やはり、正規の方法で入れば何も問題が無いようだな。
暫く待っていると、電車が到着した。到着した電車内は空いていたが、オレが学んだモノだと少し違うな。確か“満員電車”という種類があり、“電車”という入れ物の中にヒトが寿司詰め状態になっているらしい。何でもとてつもなく狭く、圧死するヒトも多いとか。………恐ろしい世界だ。
しかし、この電車は違う種類のようだ。良かったというべきだろう。探索するために乗ったのに、乗り物によって死に戻りするのは避けたいからな。
電車内にはホログラムが多数浮かび、何らかの広告が映し出されていた。残念ながら、文字も何を言っているのかも分からなかったが。
ついでに“路線図”らしきモノも発見した。“路線図”は“電車”が通る全ての駅名が分かるようになっている絵だ。多分。しかし、これも認識阻害が働いているのか、“渋谷”以外の場所は視界にはモザイクが掛かっているため判別出来ない。
それから直ぐに、“渋谷”の次の駅に着いた。自動で扉が開き、オレは外に出される。背中を何者かが押しているような感じがするが後ろには誰も居ない。そのまま改札の外まで出された。オレの意思は全く反映されず、TYPE_R_03の動きも封じられていた。何なんだ一体?
ここの駅は■■というらしい。………相変わらず読めないな。その駅に着けば、普通は認識阻害は解除されるんじゃないのか?
次の駅や渋谷に行くためには、所定の金額が掛かるらしい。やはり、ここでもカネ稼ぎをしなければならないようだな。
改めて、周囲を見てみる。ここは“渋谷”よりも奇抜なヒトが多い。鳥人かと思ったら、色とりどりの飾りを全身に付けたヒトだった。紛らわしい。
かと思えば、蜥蜴人っぽいのも居るな。アレが旅人か現地民かは分からないが、やはり、普人族以外の種族も居るようだ。
「あれ? トワ様じゃないですか? 何でこんな所に?」
不意に声を掛けられる。見知った声、というより声の主はクオンだ。コイツ、既に次元口に行くようになったのか。
どうやら、クオンはオレよりもこの星について詳しいらしい。渋谷と■■以外にも三つ程エリアを解放しているとか。
それならば、ここのシステムやらカネの稼ぎ方を聞いておかないとな。
「お金? 何言ってるんですか、トワ様。普通に向こうのお金が使えますよ。まぁ、その前にちょっとした手順が必要ですけど」
なん………だと………?
あの世界のカネが使えるのならば、自動販売機を巡ってカネを集めていたのは一体………。膝から崩れ落ちる事はしなかったが、それに近い衝撃は受けた。まぁ、自動販売機の下に潜っていたのはオレではなくTYPE_R_03なんだが。
「折角だから連れて行ってあげますよ。何を隠そう、私も他の旅人の方に紹介してもらいましたからね。今度はトワ様の番という訳です」
その手続きは各駅で行うらしい。駅の券売機に行き、“■■呼び出し”という釦を押すと、駅員のホログラムが表示される。誰だこれ。
「では、トワ様。手をホログラムの前に出して下さい」
言われるがままに手を差し出す。ホログラムのヒトが、オレの手の甲に自らの腕を突き刺すなら何だ? これは何をしているんだ?
ホログラムのヒトは腕を引き抜くと、オレを見ながら頷き、姿を消した。………何だ?
「これで終了です。何をしたかというと、トワ様の手の甲に、この世界で使う決済システムを埋め込みました。このシステムはあの世界での所持金とリンクしていて、お金を支払うと自動的に引き落とされるらしいです」
なるほど。これは便利でいいな。残りの所持金が幾らかを気にする必要葉あるが、一々自動販売機の下を探らずに済むのならば楽なものだ。
自販機で飲み物を買おうとしたら自販機の下に硬貨を飲み込まれた思い出。




