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世界の果てを目指す方法は一つ。イッカク防衛戦の時のようにTYPE_R_03に運んでもらう。
TYPE_R_03はオレを包み込むようにして形状を変え、自らを弾丸状にして空を突き進む。前回と違って、オレの呼吸のための空気穴を作らずに済むようになる等、オレの生命維持を考えないで良いようになったので、以前よりも速度が出せるようだ。
TYPE_R_03を夜空を亜音速でカッ飛び、大陸らしき所を二三飛び越した辺りで、世界の果ての壁にぶち当たり爆散した。
『あれ?』
TYPE_R_03がクッションになってくれたお陰でオレは無事だが、TYPE_R_03は少なからずショックを受けているようだ。
壁に広がったまま、ズルズルと下へと落ちていく。思ったんだが、箱庭から脱出するなら、このまま上へと登って行けばいいんじゃないか?と声を掛けてみるものの返事は無い。
『うーん。何だか調子が変であります。ここだけじゃなくて、他の星に行った時も本調子とは言えない状態でありましたが、ここは特に変であります。何だか感覚が少しズレている感じであります?』
言っている意味は分からないが、やはりTYPE機は、あの世界外だと弱体化するようだな。水が合わないとかそんな感じか。………もし、コイツがオレの星へと来たらどうなるんだろうか。もうあの世界から行く事は不可能であるが。
気を取り直して、TYPE_R_03はオレの身体を包み込むと、壁を登っていく。何の取っ掛かりも無いようなつるりとした壁だが、不定形生物なTYPE_R_03ならば、それ程苦にする事ではないようだ。進みは遅いが、徐々に登っていく事が分かる。
世界の果ての壁という事はあり、大分高い。既に木々の背を越え、連なる山々を追い越しそうな感じだ。
ここまで高いと生者ならば生存が難しくなってくるだろうが、今のオレは不死者だ。しかも、あの世界と違い、頭に“死ねない”と付く。そんなため、無駄な事を考えながら悠々自適に空の果てへと行く事が出来る。
それから暫くして空の果てらしき所に辿り着いた。具体的に言うと、手を伸ばすと覆いに触れられるような位置だ。
『どうやら、この覆いは箱庭にぴっちりとくっついている訳ではなさそうであります。この周辺を探れば………ん?』
TYPE_R_03が触手で周囲をペタペタと触っていると覆いを突き抜け、向こう側へと突き抜けたようだ。
『ここからならば外へと出られるようでありますが、どうするであります? 本当に外に出るであります? 外に出たらどうなるかは、ほぼ万能超兵器である某にも分からないでありますよ?』
それはそうだが、この箱庭内に居ても意味は無いだろう。外へ出た瞬間に死ぬとしても、それはそれであの世界へと戻る事が出来る。と言うか、元々の目的が死に戻りする事だからな。
何が起こるか分からない状態だからこそ、オレ自身が外に出なければならない。そして、自分の目で外の世界を確認しないとな。
そしてオレは、TYPE_R_03に連れられて覆いと箱の隙間から外へと出た。
外の世界は真っ暗だった。明かりも何も無く闇に閉ざされている。夜目も効かないようで周囲の状況が全く把握出来ない。一体どうなっているんだ?
TYPE_R_03に呼び掛けてみるが、返事が返ってこない。無視されているのか、意識を失っているのか。
手探りで周囲を探ってみると、幾つか硬い物に触れたようだ。形状的に箱っぽい。………ん? もしかして、コレがさっきまで居た箱庭か? 暗くて何も見えないが、そうなのかもしれない。もしそうならば雑に扱う事も出来ないな。うっかり蹴っ飛ばして破損でもしたら目も当てられない。
突然、パチリと明かりが点いた。暗闇から光へと突如切り替わったせいで、目が若干眩んだ気がした。
「何故、ここにスライムが?」
誰だ? 声のした方向を見ると、人形が立っていた。目も鼻も口も無い、つるりとした外見の人形だ。
「考えられるとすれば、箱庭内から出て来たのか? いや、そういう風にデザインした覚えは無い。そんな事が可能なのか?」
発言内容から、この人形が箱庭を管理している奴っぽいな。ベイカー氏風に言うなら上位存在か。
それと、恐らくだが話している言語が違うな。これは、オレが知っている言語だ。旅人には異世界の言語でも自動的に翻訳される機能が備わっている。しかし、よく聞けば、それが知っている言語かそうでないかは分かる。ベイカー氏が話していた言語は知らないモノだった。しかし、コイツが言っている事は分かる。とすると、ここはオレの星の近所なのだろうか。
………しかし、スライム? TYPE_R_03を被ったままという事か。ここに至ってTYPE_R_03の反応が一切無いのを鑑みるに、奴は意識を失っているのではないだろうか。
最強兵器が意識を失うというのは極めて限定的だ。………まぁ、異世界では決して最強という訳ではないみたいだが。
TYPE_R_03が意識を失った事態は一度だけある。オレが奴を装備し、そのままオレが死んだ場合だ。死に戻りした後、意識を取り戻したが、オレが死んでいた時の記憶は無かった。
しかし、今のオレは死んではいない。とすると、何らかの影響によって、TYPE_R_03だけが気を失ったという事か。
「意思疎通は、無理か? ならば、処分するしか無いな」
オレが考え事をしている間に物騒な事になりそうだ。さっさと返事だけでもしておくべきだったか。
『驚かせてしまってすまない。オレの名前はトワ。とある世界から来た旅人だ。恐らくだが、オレはこの箱庭からこちらへと出て来た。差し支えなければ、ここが何なのか聞いても良いだろうか?』
「ふむ? 箱庭から出て来た? それに、ゲームから来たぷれいやー? 私には理解し難い事ばかりだ。詳しく話を聞いても?」




