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山と谷がある話  作者:
09.大断裂
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404


 二度目の死が無い不死者(アンデッド)という存在にも、死と同等のモノは存在する。ベイカー氏が言っていた、自己崩壊による消滅だ。大体は、己の境遇やらに絶望して逝ってしまうらしいのだが、オレに絶望という文字は無い。しかし、次元口が無い以上、向こう(ゲーム)に帰れない。どうすりゃいいんだ。


「そういえば、オレ以外にここへ来た旅人(プレイヤー)って居ないんですか?」


「居るよ? まぁ、この世界には不死者(アンデッド)しか居ないというのを聞いた時に消滅してしまったけれども」


 自分が不死者(アンデッド)になった事に衝撃を受けて昇天してしまったのか。いや、精神力(メンタル)弱すぎだろ。


「もう一人はまだこの世界に留まっているようです。なんでも、向こう(ゲーム)や、元の世界(故郷)では時間が足りなくて出来ない事を行っているとか。まぁ、詳しい事は私達も知らないんですが」


 この世界のヒト達は基本的に他人に興味が無いらしい。いや、昔は在ったのか。

 ただ単に、時が過ぎるにつれてヒト付き合いが無くなり、今に至るようだ。ベイカー氏とカール氏のように今でも関わりがある方が珍しいらしい。


『トワ殿、あの宇宙(そら)が箱に掛けられている覆いならば、アレを捲ってみたら外の世界に行けるのでは?』


 そうか。通常の方法では、不死者(アンデッド)が死なないのはこの箱庭(世界)内部での基礎(ルール)だ。しかし、外の世界はそうではないかもしれない。何とかして箱庭の外に出れば、帰還のための光明が見えるかもな。

 TYPE_R_03が触手状にした身体を持ち上げる。薄暗い世界であっても、黒一色の身体は不気味だ。


「うわっ。何だこれ」


 カール氏がTYPE_R_03の姿を見て飛び退る。まぁ、いきなりオレの身体から出てきたら、普通はそういう反応するよな。


不定形生物(スライム)のようですが………。おかしいですね? この箱庭(世界)には存在しない筈ですが」


 オレが連れてきたTYPE_R_03は、旅人(プレイヤー)でも住民(NPC)でもない。分類的にはNPCではあるが、今のコイツはオレの装備品だ。故に、渡った世界に影響されずTYPE_R_03の本来の姿のままなのだ。という事を説明するのは非常に面倒臭いので、適当に誤魔化しておく。

 一応、ベイカー氏もカール氏も、あの世界(ゲーム)に行っている旅人(プレイヤー)だ。あの世界(ゲーム)での最強兵器だと教える訳にもいかないのだ。

 TYPE_R_03はウニョウニョと蠢き、空へと身体を伸ばしていく。ふと思ったんだが、ベイカー氏達が言うように、この世界は本当に箱庭なのだろうか。実はベイカー氏達がそう思っているだけで、本当は何処かの惑星なのではないか? それなら、空に覆いなんて無いし、何処かに空いている空気穴なんてモノも無い。


『おや?』


 TYPE_R_03が身体を伸ばした先、星空が歪んでいる。見た目的には空間が歪んでいるような………。え? 本当に空に覆いが在って、それに触れているのか?


『む、これは、無理に突き破るのは少々難しそうでありますね。端の方なら隙間を作れるような気がするであります』


 そうか………。この世界は本当に箱庭だったのか。

 TYPE_R_03によると、覆いの強度自体はそれ程ではないが、突き破るとどうなるのか分からないとの事だ。世界の果て………箱の側面付近ならば覆いた箱の隙間を突く事が出来るのでは?との事だ。

 なるほどな。なら、その案で行こう。………しかし、TYPE_R_03(コイツ)にも別世界のヒトを慮る機能が有ったんだな。


「世界の果てに行きたいのかい? 残念ながら、この大陸には無いんだ。 場所だけしか教える事は出来ないが、それでもいいかい?」


 ベイカー氏に尋ねると果ての場所を教えて貰える事になった。世界の果ては、登る事が困難な真っ直ぐで、何も取っ掛かりが無い壁が何処までも聳え立っているらしい。

 ベイカー氏達を含めたこの世界の住民は、最低でも一度は世界の果てに行った事があるらしい。それを見ても『こんなものか』程度しか思わなかったらしいが。

 まぁ、そんな感じで、ベイカー氏達は世界の果てに行くような事が全く無いらしい。行くための手段も殆ど無いらしいしな。

 オレもTYPE_R_03と言う便利な装備品が無ければ目指そうとも思わないだろう。

 オレはベイカー氏達に別れを告げ、世界の果てを目指す事とした。


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