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二度目の死が無い不死者という存在にも、死と同等のモノは存在する。ベイカー氏が言っていた、自己崩壊による消滅だ。大体は、己の境遇やらに絶望して逝ってしまうらしいのだが、オレに絶望という文字は無い。しかし、次元口が無い以上、向こうに帰れない。どうすりゃいいんだ。
「そういえば、オレ以外にここへ来た旅人って居ないんですか?」
「居るよ? まぁ、この世界には不死者しか居ないというのを聞いた時に消滅してしまったけれども」
自分が不死者になった事に衝撃を受けて昇天してしまったのか。いや、精神力弱すぎだろ。
「もう一人はまだこの世界に留まっているようです。なんでも、向こうや、元の世界では時間が足りなくて出来ない事を行っているとか。まぁ、詳しい事は私達も知らないんですが」
この世界のヒト達は基本的に他人に興味が無いらしい。いや、昔は在ったのか。
ただ単に、時が過ぎるにつれてヒト付き合いが無くなり、今に至るようだ。ベイカー氏とカール氏のように今でも関わりがある方が珍しいらしい。
『トワ殿、あの宇宙が箱に掛けられている覆いならば、アレを捲ってみたら外の世界に行けるのでは?』
そうか。通常の方法では、不死者が死なないのはこの箱庭内部での基礎だ。しかし、外の世界はそうではないかもしれない。何とかして箱庭の外に出れば、帰還のための光明が見えるかもな。
TYPE_R_03が触手状にした身体を持ち上げる。薄暗い世界であっても、黒一色の身体は不気味だ。
「うわっ。何だこれ」
カール氏がTYPE_R_03の姿を見て飛び退る。まぁ、いきなりオレの身体から出てきたら、普通はそういう反応するよな。
「不定形生物のようですが………。おかしいですね? この箱庭には存在しない筈ですが」
オレが連れてきたTYPE_R_03は、旅人でも住民でもない。分類的にはNPCではあるが、今のコイツはオレの装備品だ。故に、渡った世界に影響されずTYPE_R_03の本来の姿のままなのだ。という事を説明するのは非常に面倒臭いので、適当に誤魔化しておく。
一応、ベイカー氏もカール氏も、あの世界に行っている旅人だ。あの世界での最強兵器だと教える訳にもいかないのだ。
TYPE_R_03はウニョウニョと蠢き、空へと身体を伸ばしていく。ふと思ったんだが、ベイカー氏達が言うように、この世界は本当に箱庭なのだろうか。実はベイカー氏達がそう思っているだけで、本当は何処かの惑星なのではないか? それなら、空に覆いなんて無いし、何処かに空いている空気穴なんてモノも無い。
『おや?』
TYPE_R_03が身体を伸ばした先、星空が歪んでいる。見た目的には空間が歪んでいるような………。え? 本当に空に覆いが在って、それに触れているのか?
『む、これは、無理に突き破るのは少々難しそうでありますね。端の方なら隙間を作れるような気がするであります』
そうか………。この世界は本当に箱庭だったのか。
TYPE_R_03によると、覆いの強度自体はそれ程ではないが、突き破るとどうなるのか分からないとの事だ。世界の果て………箱の側面付近ならば覆いた箱の隙間を突く事が出来るのでは?との事だ。
なるほどな。なら、その案で行こう。………しかし、TYPE_R_03にも別世界のヒトを慮る機能が有ったんだな。
「世界の果てに行きたいのかい? 残念ながら、この大陸には無いんだ。 場所だけしか教える事は出来ないが、それでもいいかい?」
ベイカー氏に尋ねると果ての場所を教えて貰える事になった。世界の果ては、登る事が困難な真っ直ぐで、何も取っ掛かりが無い壁が何処までも聳え立っているらしい。
ベイカー氏達を含めたこの世界の住民は、最低でも一度は世界の果てに行った事があるらしい。それを見ても『こんなものか』程度しか思わなかったらしいが。
まぁ、そんな感じで、ベイカー氏達は世界の果てに行くような事が全く無いらしい。行くための手段も殆ど無いらしいしな。
オレもTYPE_R_03と言う便利な装備品が無ければ目指そうとも思わないだろう。
オレはベイカー氏達に別れを告げ、世界の果てを目指す事とした。




