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家主を探すために家探しした結果、居間に置いてある長椅子に身を横たえた骸骨を発見した。不死者に睡眠は不要であるため、寝ている訳ではないだろう。しかし、意識は無いようだ。
「あの世界に行っていますね。恐らくそろそろ帰って来ると思いますが、どうしますか? 待ちますか?」
あの世界に行く事が出来る時間が決まっているのだろうか。あの世界に行っている時間は、普通は分からない筈だが。
「あぁ。この箱庭には微細な穴が空いているのです。例えるのならば、空気穴みたいなモノでしょうか。恐らくその穴から外部にアクセスしているのですが、延々とあの世界に行っている訳にはいかないのです。倫理的に。そのため、向こうで一定の時間が経ったら自発的に戻って来るのですよ。向こうの世界で大体七日ですかね」
なるほど。経験に基づいて、というやつだな。
オレも長時間ログインする事があるが、自制する事は皆無だな………。
ベイカー氏が言うには、そろそろ空気穴が閉じるとの事だったので、家主が戻って来るまで待つ事にした。それまではそこらにある絵画でも暇潰しに見ているか。
家の壁に掛けられていたり、適当に床に置きっぱなしにされている絵画を一通り見てみたが、全体的に暗い色調の風景画が多かった。恐らく、この箱庭が闇に閉ざされてから描いた物なのだろう。
色彩鮮やかな物も数点あるが、圧倒的に数が少ない。その中には、鋭利な物で引き裂かれたような物もあった。何だか闇が深そうな気がするが、もしかしたらコレも芸術なのかもしれない。ただ、詳しく聞くのは止めておこう。
暫くすると、家主が戻って来たとベイカー氏がオレを呼びに来た。
「やぁ、キミが旅人であるトワさんか。僕はカールだ。宜しく頼むよ。それで、トワさんは僕の絵が見たいという事らしいね? いやぁ、嬉しいよ。そこのベイカー含むこの世界の住人は僕の芸術に興味を示さなくてね。困ったものだよ」
オレはこの世界の観光名所が知りたいだけで、カール氏の芸術とやらに興味がある訳ではないのですが。
「そうだったのか。だが、僕の絵画はこの世界に実際にある場所をモデルにしている。気に入った風景があったら、その場で写実しているんだ。もし、トワさんの気に入った絵が有ったら、持って行ってくれていいよ」
気に入った絵画か………。大体暗い色調の絵だったから同じような風景に見えたが、カール氏によると違う場所のようだ。
とりあえず、オレは一枚の絵画を指し示す。満天の星空が描かれた絵画だ。
「あぁ、アレか。アレはこの家から見える星空だよ。丁度いいから外に出てみるか」
そう言って、カール氏は絵画を持って外へと出て行く。丁度良いというのは、時間帯が同じなのだろうか。しかし、この家から見える星空だったとはな。
「ほら。大体この辺りだ」
カール氏が絵画を頭上に掲げ、空を指差す。
うーん、確かに星の並びが似ているような………。天の川も見えるな………同じ位置に。
「この世界は上位存在が管理する箱庭だと聞いたな? だから、この世界の空はいつもこの模様だ。僕達は、アレを星空の覆いと呼んでいる。まぁ、いつ見ても模様が変わらないから絵にするのは楽だよね」
そうか。惑星ではないから、この星空はまさしく箱庭を覆っている物の模様なんだな。
ここまで一切変わらない風景ってのは、この世界の住人にとってはつまらないモノなんだろう。
「随分前には、天体観測と言っていいのか………まぁ、それが人気だったんだが、今はやっているヒトは全く見ないね。星の並びも名前も確立してしまって、やる事が無くなったんだろう。見えている星っぽいモノは何処かにある恒星ではなく、ただの模様だからね。観測も何もあったモノじゃないのだろう」
もう星空は見飽きたという事らしい。まぁ、それは確かに、オレも一通り見たら飽きそうな気がする。
カール氏の自宅に戻り、別の絵画を手に取る。鮮やかな色彩が使われた花畑だ。その隣に飾られた絵画はズタズタに引き裂かれているが、見なかった事にしよう。
「あぁ、それか。残念だが、この花畑は今はもう無い。それでもよければ案内しようか? 因みに隣にある奴は、昔、ここで強盗に襲われた時に盾にした奴だよ。記念に飾ってあるんだ」
良かった。ズタズタな絵画はサイコな趣味じゃなくて。
やはりというべきか、色彩鮮やかな風景は既に無いようだ。今は植生が変わり、色の無い風景になっているらしい。つまり、これはカール氏がまだ生きていた頃に描いた絵のようだな。
他の絵も見たが、特に気になるモノは無いな。とりあえず、この花畑とやらの現在の姿を見に行くか。カール氏が案内してくれるようだし。
「ところで、次元口が開くのはいつ頃か分かります?」
「ここの箱庭の時間はほぼ止まっています。帰りの次元口は既に開き、閉じた後かと思います」
マジかよ。オレの星みたいな事が起きているようだ。ゲームのシステム的に、出先の世界で死ねば元の世界に戻れるが、この世界の住人は死ぬ事が出来るのか?




