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洞窟内部の水路を上ったり下ったり、幾つもの分岐点を経た後、最終目的地らしき所へと辿り着いた。いやぁ、道案内役が居ると楽だなぁ。
頭上に明かりが見える。………ん? 地上? いや、水から出る場所があるのか。
魚人達は水面から上がり何処かへと歩いていく。地上での行動は苦手なようで、歩き方が大分ぎこちない。
奴等の歩き方がぎこちないという事は、魚人に変わっているオレもそうなんだが、こちらにはTYPE_R_03が居るのでね。便利なTYPE_R_03に任せれば、殆ど足音を立てずに移動する事が出来る。
狭い路を抜けた先に広々とした空間が現れる。この空間は擂り鉢状になっているようで、段々畑のように下へと降りる階段らしき物もある。何か知らんが、所々に人工物っぽい物が見えるな。魚人の重要拠点みたいな感じか? 如何にも重要そうな奴が出てきそうな雰囲気だ。
オレと一緒にここまで来た魚人二体組以外にも、何体かの魚人が居る。そいつ等は各々で岩や地べたに座ったり、階段状になっている所に腰掛けたりしている。周囲を警戒している訳でもないし、コイツ等は何をしているんだろうな。
『下の方に何か居るでありますね』
TYPE_R_03なら何が居るか見えていそうな気がするが、オレにソイツを見て欲しいのかフワッとした言い方だ。
広場の真ん中が一番深くなっており、そこに何か巨大なモノが鎮座しているようだ。何か宗教的な像か、例の女王が居るのだろうな。
しかし、ここからでは遠すぎて何が居るのかは確認出来ない。という訳で、下へと降りる事にする。
大分下まで降りてきた。………うーん。まぁ、予想通りと言うか………デカい魚人ですねアレは。
周囲に居る魚人とは体高以外にも姿が違うようで、この巨大魚人は巨大過ぎる胴体に貧弱な手足が付いているだけだ。明らかに、あの場から動く事を想定していないような身体だ。
果たして、アレの役割は何なのだろうか。動かなくても良いと言う事は………。思い浮かぶ可能性は少ない。
こちらから見えるのは、奴の背中付近だ。観察するために正面方向へと回り込もう。
巨大魚人の周囲は水場になっていて、魚人が何体かその中に入っており水槽のようになっているらしい。中に居る奴等は遊んでいるのか? 表情も感情も変わらないからよく分からないな。
ん? あの水槽内の魚人、他の奴より小さいような………。
余り近付き過ぎると気付かれる恐れがあるため、ギリギリまで巨大魚人に近付き観察する。
水槽内に入っているのは、幼体の魚人と卵のようだ。つまり、ここは魚人の産卵場所なのだろう。となると、やはりあの巨大魚人は魚人の女王と呼ばれる奴なのだろう。………王と言う割には、コイツにも意思を感じないし、何なら普通の魚人よりも機械染みている。てっきり、エレイン氏が言うように、女王と呼ばれる奴が魚人達を統率しているのだと思っていたが、これではただの魚人生産機械だ。
………ん? 誰か降りてきた?
咄嗟にその場を離れ、物陰に隠れた。TYPE_R_03で透明化しているとはいえ、念を入れてだ。
降りてきたのは魚人二体。オレの道案内役として付けて来た奴等かは分からないが、何となく見覚えが有るような無いような。
魚人二体は、水槽を通過して巨大魚人の身体をよじ登る。そのまま巨大魚人の口を抉じ開けると、躊躇する事なく、抉じ開けた口の中に入って行った。魚人が入った後、何事も無かったかのように口が閉じられた。
………は? いや、え? 何、今の?
いや、そうか。この巨大魚人はこの場から動く事は出来ない。魚人の腹は減りにくいようだが、魚人を生産するためには相当なエネルギーが必要な筈だ。そのため、ああして有志の魚人がその身を捧げるのだろう。………魚人自身でなくても、魚とかを獲ってきて与えれば良いのでは? あの巨体を支えるためには、普通の魚サイズだと量を与えなければならず、魚人二体という事に落ち着いたのかもしれない。何しろ、魚人の数だけは、この星の中で一番多いくらいだ。老いた個体を餌にするのが効率が良いのかもしれないな。知らんけど。
その後、洞窟内を色々と調べてみたが特に気になる所はなく。どうやら、ここは魚人の生産施設のようだな。果たして、アレが魚人の女王なのかは分からないが。
とりあえず、ここで見るべき事はもう無いな。さっさと次に行くか。
帰り道は、所々に植えた海藻を辿って行く。TYPE_R_03がオレに植え付けた海藻類であり、オレ自身には、微弱ではあるが海藻類が何処に在るのか分かる。
そのため、迷う事なく外に出る事が出来た。道標に使った海藻類は使い捨てなのでその場に置いてきた。
さて、魚人の件はこれくらいでいいだろう。次は人魚の住処でも探しに行くかな。
*******
「と言う訳で、また来ました」
「帰れ」
再度場所を移動していたようだが、深海付近を中心にして探せば見付ける事が出来た。
人魚氏は変わらず辛辣だが、オレも宛もなく彷徨うのは最低限にしたいんでな。
「人魚の事は話せないと、前回言ったばかりだろうが。何故また来た」
「いやぁ、オレも人魚の住処はどうせ深海だろうなと思って彷徨いてみたものの、全く手応えが無くて。それなら、知っているであろうヒトにヒントだけでも貰えたらな、と」
魚人の生産施設を出た後、そのまま深海に潜ってみたものの、そこに居たのは深海魚や甲殻類だけだった。人魚のマの字も無かったわね………。
深海で人魚の住処を探す間に暇だったので連々と考えていたのだが、この星であの世界をやっているのは人魚の内の誰かなんだろうな。オレが出会った魚人は誰にも知性らしき物を確認できなかったため、恐らく魚人ではない筈だ。例のホログラムの魚人はどうだか分からないがな。
そんな訳で、あの世界に行っているのは、このエレイン氏ではないかと思うのだ。まぁ、そんな事を彼女に言うつもりは無いが。
「人魚が魚人等を信用する事は永劫無い。貴様は観光をしたいと言っていたな? 人魚の住処を見付けたとしても、そもそも観光なんぞ出来ないぞ? 彼等にそのまま殺されるのが落ちだ。貴様が死んでも生き返る事が可能だから殺しても意味が無い………というのは無意味だ。遠目から眺めるだけだとしても、貴様の姿を認めた瞬間に確実に殺すための討伐隊が組まれる。はっきり言おうか? 貴様の存在、行動は迷惑だ。私にとっても、彼等にとってもな」
まぁ、そうだよな。比較的安全に平穏に暮らしている人魚の集落に、異物というか外敵が訪ねて行ったら即殺されるのが普通だろう。そこに情状酌量の余地は無い。何が悪いって、オレが魚人の姿になっているのが悪い。
それに、魚人が人魚の住処の近くに居るという事で厳戒態勢が敷かれるだろう。もしかしたら、今の住処を離れて違う場所に移動する事になるかもしれない。
オレが人魚の住処に近付けばどうなるか、人魚氏は懇切丁寧に教えてくれた。
つまり、アレだ。………よし。帰ろう。
「分かりました。オレは元の世界に帰ります。お騒がせしました。………最後に、魚人って何なんです? 短い時間ですが、オレが見た中では生物らしくないなと思ったんですが」
「………知るか。帰れ」
最後までつれない事を言うエレイン氏だった。
「………まぁ、向こうで会った時にでも話してやるよ」
おや?
祝400話達成。
という訳で、“水の星”編終了です。
普通の王道展開なら、外来種的な魚人共を駆逐して人魚達に平和を齎すんだろうなぁと思いながらも、コレそういう小説じゃないんで。




