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オレの返答に怪訝な顔をする人魚氏。そんな変な事言ったかな?
『わざわざ異世界に来たのに、観光名所を聞くのは充分変な奴でありますよ?』
だって、オレの星は何も無いんですよ。
それに、人魚と魚人の関係性を聞いておかなければ、例の旅人との関係も変わるだろうしな。
「観光名所………。遥か以前、我々が地上で生活していた頃の名残りが沈んでいるらしい。現在は魚人共の縄張りだが、貴様なら行けるだろう。あとは、私もヒト伝手に聞いた事でしかないが、現役の海底都市があるらしい。何処にあるのかは知らないが」
この星にも海底都市があるのか。そこもアトランティスとか呼ばれていたりしてな。
それと、例の遺跡か。遥か昔に地上で暮らしていたという事は、彼等も元々は普人族みたいなモノだったのか? 大陸が沈んで水中生活に適応した結果、こんな見た目になったのだろうか。
それならば、人魚も魚人も元は同じ種族なのでは? 何が理由で敵対関係のようになってしまったのだろうか。
「人魚と魚人が元を同じくするモノだと? 確かにそうかもしれないが、今は違う。奴等にとっての私達は、ただの孕み袋だ。………知っているか? 魚人は雄しか居ない。それ故に個体数を増やすためには、他の生物の肚を借りなければならないのだ。人魚はその絶好の的という事だな」
つまり、地上から追い出され海に潜らざるを得なくなった際、雌雄で種族が別れるという進化を辿ったのか。でも、それならば、人魚も同じような事になっているのでは?
「馬鹿を言うな。人魚と魚人は違う種族だ。私達、人魚には雌雄が存在する。人魚は人魚同士で婚姻を結び、次代へ繋げるのだ。………そうだな。魚人が雄しか存在しないというのは語弊が有った。奴等の多くは無性生殖で己の複製体を作るのだ。但し、育てるための子宮が無いから他の生物の肚を借りる。雄しか居ないと言ったのはこのせいだな。魚人の雌は一体しか居ないと言われている。何処に居るのかは知らないが、コイツが魚人の王と呼ばれているようだ」
なるほど? 他生物………主に人魚の肚を借りるというから、近新種での交配かと思ったら魚人は別種の寄生生物だったと。
ついでに聞かされた話だと、他生物に産み付けられた魚人は腹を喰い破って生まれるらしい。想像しただけでも大変グロい状況だ。そりゃあ、魚人を忌み嫌うってのも納得だ。
「魚人に捕まった雌の人魚は悲惨だ。魚人を産み落としても、腹の傷を得体の知れない術で塞がれ、再度卵を産み付けられる。母胎となった人魚が死ぬまでその繰り返しだ。人格が壊れたとしても、新たな魚人を生育する母体が生きていれば良いからな」
うーん、やはり思った以上に、この星ヤバいのでは?
今迄の話を纏めると、魚人の中で唯一の雌が王として君臨して多数の雄を支配しているらしい。
一般の魚人は無性生殖で自らの複製体を量産している。まぁ、つまりは、この一般魚人は
兵隊という扱いだ。同じ性能を持った兵隊を量産する事で外敵に対抗しているのだろう。
しかし、同じ遺伝子配列の個体だけでは環境変化が起きた時に全滅してしまう。
そのため、唯一の雌である王は、恐らく有性生殖なのだろう。………ゲーム的に考えると魚人の女王を殺せば、雄含めて全員死ぬのでは?
「魚人の王が何処に居るかは分からんと言っただろう。居場所が判明すれば、人魚の全戦力を集結させて殺しに行くわ」
まぁ、種の存続が掛かっているからな。
この星に来たオレが魚人の姿になったのは、魚人がこの星の一般的な種族だからだろう。
魚人の増え方も問題だ。新たな魚人が生まれると、結果的に他の生物の雌を殺す事に繋がる。恐らくだが、他の生物の雌雄比率が偏っているんじゃないか?
「なるほど。よく分かりました。教えて下さり感謝します。………ところで、貴女のお名前を伺っても?」
「あぁ。名乗っていなかったか。私はエレインという。同じ人魚仲間からは“深淵”やら“音無し”などと呼ばれるな」
何となく強そうな語感。ところで、何でこんな深海に一人で居るんだ? 魚人は深海まで来れないとか言ってたから、魚人を避けるためにこんな所に居るのは分かるが、一人で居るのは解せない。仲間の所へは行けない事情でもあるのか?
「簡単な話だ。私は隠居の身なのだよ。そして、ここは私の研究施設だ。そんな悠々自適の隠居生活に突然来た厄介者が貴様だ」
何かすいませんね。
ところで、その研究って何を研究しているんですかね。
「そんな事貴様に明かす訳がないだろう。万一、魚人共にバレたら元もないからな」
となると、魚人に関する研究か。ブラフという可能性もあるが、だとしてもどうでもいいか。
魚人の研究というと何だ? 女王が何処に居るかとか? それとも、兵隊魚人の無効化方法?
いや、こんな僻地でないと出来ない研究かもしれない。それなら魚人は関係無いのでは?
まぁ、いいか。色々聞きたい事はあるが今し方邪魔者扱いされた事だし、大人しく退散するか。




