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さっきのヒト以外にも外に出歩いているヒトは結構居るようだ。あんな動き辛そうな宇宙服を着なければ、そもそも地表で活動出来ないらしいのにな。
『某の形状をアレ等の宇宙服を模した形に変化させたであります』
何だか最近、TYPE_R_03がオレに対して気を利かせていて、何か裏があるのではと疑ってしまう。………まぁ、実際にありがたいので礼しか言わないけど。
この星の地表は黒っぽい岩石で覆われている。そして、所々を熔岩の川が流れている。気温は当たり前ながら物凄く暑いようだ。ただ、この姿だと余り暑さを感じないんだよな。この星の住人にとってはこの程度の暑さは何も感じないのかもしれない。
拓けた場所には、鈍色に光る建物が建っている。アレが彼等の住居なのだろうか。それにしては、デカ過ぎるような………。それとも、個人の住居ではなく共同住居とか? それならば、あの大きさでも頷けるかもしれない。
満を持して、この星の住人に話し掛けてみる。オレがこの星のモノではない事は、もし聞かれたら正直に答えるというスタンスだ。ただ、オレと彼等の見た目はそっくりであるため、その手の事は聞かれないかもしれない。
何人かに話し掛け、世間話をした結果。この星の住人はかなり気さくである事が分かった。オレが異星人だと言ってもそれ程驚きはしなかったのが印象的だったが、彼等によると異星人は昔から来ているため特に驚く事は無かったようだ。もしかしたら、オレの他に旅人も来ているのかもと思って、最近来た新入りみたいなモノは居ないかと聞いてみたが心当たりは無さそうだった。
もっとも、次元口でこの星に来た旅人は防護服を着ていないから、降り注ぐ宇宙線に耐えられず死に戻りしたのかもしれない。
帰りの次元口はまだ開かない。通知音も無いからまだまだ掛かりそうだな。とすると、この星はあの星よりも時間の流れが早いのかもしれない。まぁ、時間感覚が無いオレが言うのも何だが。
この近辺でまだ探索していないのは、あのバカデカい建物だけなんだが、アレに入る事は可能なのだろうか。
とりあえず、建物に近付いてみる。門番なりが居るかもしれない。そこで是非を問えば良いだろう。
建物に向かって歩いても建物の大きさが変わらない。バカみたいにデカいとは思っていたが、それでもまだ足りていなかったという事だが。
先程、周囲のヒトに聞いた所によると、この星の住人の居住施設になっており、あのクラスの大きさの建物が幾つか在るらしい。他の居住施設が何処にあるのかは聞いてはいない。
あの建物だけで、大凡星の人口の四分の一程度は収容出来るらしい。全人口が幾らかは分からないが、居住室に押し込められている訳ではなく自由に暮らせるようになっているようだ。
何であんなバカデカい施設になったのかは、推して知るべし。端的に言うと、いつからか大気による宇宙線軽減が不可になり、地表で暮らせなくなったからだ。そんな訳で、星の住人は宇宙線を遮断する建物を造り、その中に引き籠もった。しかし、彼等の生態にはある程度の宇宙線が必要らしく、時折、ああして防護服を着込み、建物を出ては日向ぼっこをしているようだ。勿論限度を越えれば、悪影響が出るため短時間に限るようだが。
彼等の生態について思いを馳せていると、漸く建物へと辿り着いた。上を見上げてみるが、途轍もない位まで聳え立っている。骸骨兵であっても首が痛くなりそうだが、この星の住人の身体は丈夫なのか何も感じない。寧ろ、変な方向にまで曲がってない? 大丈夫?
建物の表面はのっぺりとしている。これだけ巨大なのに継ぎ目も何も見られない。ここの星はかなり進んだ文明を持っているようだな。地表環境が悪いから長居はしたくないが。
あのヒト達は、この建物から出てきたんだよな? 何処から出てきたんだ? 壁を触っても何も分からない。タイミング良く誰か出てきてくれたら楽なんだが。
「キミは、何をしているのかね?」
不意に後ろから話し掛けられた。まぁ、声を掛けられる前からTYPE_R_03から存在を示唆されていたし、驚きは無い。
振り返ると防護服を着た住人が立っていた。オレが把握している限りは出て来たヒトは居ないので、これから建物内に帰るヒトかな。
「オレはこの星に来たばかりなので少しばかり観光をと。それで、この建物内には入れないんですかね?」
「観光? なるほど。キミが皆が話していた旅人さんか。歓迎しよう。………と言っても、死にかけの星には特に見るようなものは無いぞ? それとも、星の終焉を経験しに来たのか?」
冗談めかして言うがそれが本当だとすると、この星はそろそろ寿命らしい。それで、こんな荒れ果てた地表な上に致死量の宇宙線が降り注いでるのか。
通常ならば星が死にかける前に星に住む生物は死に絶える筈だが、彼等はしぶとく生き残っている。しかし、何故、彼等は星の外へと逃げないのだろうか。
「私達は逃げない事を選んだのだ。星から避難する事を選んだ方々は数百年前に既に脱出済みですよ」
つまり、ここに居るヒト達は星の死を共にするというらしい。オレは星の死までここに居るつもりは無いけれど、そんなヒト達がどういう生活をしているのか興味はある。
「建物内に入るのは構わないが、時間はいいのかね? そろそろ次元口が開く時間ではないか?」
は? 次元口? 何でそれを知っているんだ?
「キミもあの世界から来たのだろう? ここはあの星よりも流れる時間が早い。キミの目撃情報から鑑みるに、そろそろ戻りの次元口が開く頃だ」
この物言い。まさか、このヒトも旅人か? あの世界とか次元口とか気になる言葉が多すぎる。
「あぁ、今の私は旅人ではないよ。正真正銘、この星の住人だ。勿論、旅人としてあの世界に行く事はあるがね」
なるほどね。このヒトはあの世界から来た旅人ではないが、オレと同じように旅人としてあの世界に行っているという言葉か。
あの世界に行っているヒトに実際に会うのは初めてだな。何しろ、オレの世界にはオレしか居ないし、最近まで異世界に行った事も無かったからな。
「恐らくだが、あの次元口を通って行ける異世界は、旅人として接続者が居る世界なのだろうな。私は、キミ以外にも旅人に会った事がある故にそう考えるようになった。決定的だったのは、旅人としてこの星に来た事だな。キミも自身が住む星に、旅人として行った事は無かったか?」
なんだと? つまり、アレか。あの運営に勝手に通り道を開けられたのは、オレがあの星に接続している道を辿られたという事なのか? なるほど、許せねぇ。
オレの頭にピコピコ音が鳴り響く。そろそろ時間のようだ。
オレは住人に別れを告げ、次元口へと急いだ。
「もし良かったらまた来てくれ。星が終焉を迎える前にな」
あの住人が、あの世界に行っている際に星が終焉を迎えたら、あの世界に行っている精神体はどうなるのだろうか。向こうでも死を迎えるのか、それとも精神体がゲームに取り残されるのか。
もしかしたら、あの世界はそれも狙っているのかもな。
死んだらゲームに取り込まれるとか、まるでデスゲームみたいじゃないか。




