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セインに出掛ける前にゾンビーフ氏に挨拶しに行こう。あれから無事に部屋を借りる事が出来たのかどうかの確認も兼ねてだ。
ゾンビーフ氏の住居兼店舗は街の中心部から少し外れた所にある。
「おや、トワさん。お久しぶりです。トワさんのお陰でこんなに良い場所を借りる事が出来ましたよ。本当にありがとうございます」
ゾンビーフ氏に貸し出したのは建物内の一室と聞いたんだが、これはどう見ても一階分だぞ。もしかして、一つの階ブチ抜きで一室と言ってる?
ゾンビーフ氏は部屋の改装中であるようだ。どういったレイアウトにするかはこれから専門の者と詰めていくらしいが、大まかには以前と同じく店舗と自室で分けるつもりらしい。………前の住居と比べて大分広い気がするが大丈夫か?
ゾンビーフ氏は忙しいようだし、挨拶も済ませて、さっさとセインへ出発しようかな。一応、ゾンビーフ氏にはセインの次元口へ行ってみると伝えておいた。
色々すっ飛ばして、セイン跡地まで到着した。街移動機能が使えれば、ここまで歩いて来なくても良かったんだが、大断裂が起こり街自体が消滅したので、街に配備されていた汎ゆる機能は死んでいる状態だから仕方ない。
現在の次元口は、他の街から派遣されてきた冒険者組合によって管理されているようだ。次元口を取り囲むように塀が作られ、勝手に中に入れないようにされている。
ここの次元口に入るためには、幾つかの条件が有るらしい。簡易的に作られた組合内で条件を聞いたが、旅人には結構緩めで、住民には厳しめの内容だった。恐らくだが、死に戻りが出来る旅人と、死んだらそれっきりの住民では取れる措置が違うからだろう。
旅人への条件は、一定以上の冒険者ランクと、『次元口で飛んだ先で何に遭っても何が有っても、冒険者組合は一切の責任を負わない。全ては自己責任である』という同意書を提出すれば終わりだ。以前は同意書は無かったらしいが、いつだったかの大量死が有ったため組合もこうした同意書が必要だと考えたようだ。いやぁ、何が起きたんだろうな。
オレ自身は死に戻りしても構わないし、ランク的にも問題はない。指定ランクが余り高く設定されていないのは、覚悟があるモノならば誰でも行けるようにしているのだろう。そこに、運営の思惑が関与しているのかどうかは定かではない。
次元口は常時開いているのだが、組合の方でそれに乗るためのインターバルを設けているようだ。そうしないと、順番等を無視して入って一気に入っていく馬鹿が居るからだろう。
オレは待機列に大人しく並び、来たるべき順番を待つ。
次元口へ行くモノ達の多くはパーティを組んでいるようで、レイド級かと思われる大人数で待っているモノ達も居る。あんな大人数で異世界に行って何をするつもりなんだろうな。
オレのように個人で行くモノは少ないようだ。オレのように物見山のようなモノも居れば、相当な実力者であると感じ取れるようなモノも居る。恐らくだが、この待機列には旅人だけではなく、住民も少なからず混ざっているのだろう。
オレ自身は、この次元口を使って異世界に行くのは、わざわざ死にに行くようなモノだと思っている。ここで待っている彼等はほぼ生きて帰る事は出来ないと本当に分かっているのだろうか。
長い待機列を連々と考える事暫し、遂にオレの順番が到来する。オレだけを送った後にインターバルを挟むとなると、管理している組合的には個人より団の方がいいんだろうな。
そんな益体の無い事を考えながら、セインの次元口に飛び乗る。次元口で飛ばされる先はランダムらしく、飛ばされるまで何処に行くのかは分からない。それが何処なのかは、飛んだ先の現地民に聞くしか無いらしい。
次元口に入ると軽い目眩に襲われた。一瞬目を閉じ再度開けると、何だか何処かで見た風景が見えた。オレはどうやら液体の中に居るらしい。しかし、オレの身体は見えない。無意識の内に透明化でも発動していたのだろうか。………というか、何処か懐かしいような感覚を覚える。
オレがあの星に発生した最初の頃も、こうして誰かに包まれていた気がする。まぁ、当時権勢を誇っていた奴等は全員死に絶えたため今は昔という話だが。
この液体に浸っていると、自らの全てが溶け出していくような感覚に襲われる。そう、これは海にトワという概念が徐々に溶け出していく感覚………。
ん? あれ? もしかして、ここってオレの星?
そういえば、何か向こうの方が五月蝿いな。待てよ? あの時開いていた次元口は引っ切り無しに訪れて来る奴等を纒めて潰した際に、誰も来れないように次元口周りの空間ごと遮断した。故に、全員リスポーンさせた後は誰もあの世界には来る事が出来ない筈………。
それなのに、この状態は何なんだ? 何故、トワの前に■■が居る?
オレはオレに存在を握り潰され死んだ。
因果応報。




