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ログイン二十四回目。
試練の間に行って北上しようかなと思ったが、キールとかの事が気になったのでとりあえずイッカク共同墓地にリスポーンする事にした。
さて、着きましたるはイッカク共同墓地。何だか久しぶりな気がするな。墓地ないを見渡してみたが、周囲に他のプレイヤーは居ないようだ。という事は、レイドボス戦は終わったんだな。
「あれ?トワっちじゃないスか。久しぶりスね」
オレの背後からいきなり声が掛かり思わずその場から飛び退いた。
「何スかそのリアクション。リスポーンしてきただけッスよ?」
「あぁ、ツィルさんか。お久しぶりです」
相変わらず薄らぼんやりとした風情で幽霊のツィル氏が立っていた。そういえば、ツィル氏のぼんやりエフェクトが掛かっているのは、ゴーストも瘴気を纏っている体って事なのか?
「揃ってリスポーンして再会するなんて奇遇スねぇ。最近はリスポーンしてもトワっちにもゾンっちにも会えなかったスから、今日は良い事ありそうス」
ツィル氏は明るい声で再会を喜んでますアピールを行う。ゴーストの表情はヒルトロール以上に分からんからな。
一頻り全身でジェスチャーした後、どんよりとした雰囲気を纏う。喜から哀に一瞬で変化したのを表すとは、中々器用な事するな。
「リスポーンしてきたって事はトワっちも何処かでデスしたって事スよね? もしかして、第二都市の件ッスか?」
「………第二都市?………ですか?オレはそもそもイッカクにすら辿り着いてないので全く関係ないですね」
「あっ………(察し)。そうなんスね。あー………そういえば、裏の山にアタック中なんでしたっけ? なら、オレの勘違いスね。良かった」
オレの発言に色々と残念さを感じたようだが、オレの状況を思い出したようだ。しかし、“良かった”とは何が良かったのだろうか。暗い雰囲気を纏っていたし、第二都市とやらでも何かがあったのだろうな。
「あー………その第二都市で何が起きたんです?」
オレの問い掛けに、よくぞ聞いてくれたとばかりに事の次第を話し始めた。
ツィル氏曰く、第二都市のリスポーン地点である墓地に例のBAN事件のような事が起こっているらしく、ツィル氏もその被害に遭ったようだ。アンデッドプレイヤーにとっては必須である墓地を封鎖及びリスキルを行っているのは、先のレイドボス戦でMVPを逃したプレイヤーズクランの傘下クランの一つとの事。
何でそんな事を命じたのかというと、先のレイドボス“暴食”のキール戦でMVPを掻っ攫って行ったアンデッドプレイヤーに対する当て付けらしい。………また逆恨みかよ。懲りないなこの手の連中は。………ん?アンデッドプレイヤー? あの親切なプレイヤーの事だろうか。まぁ、今は別にいいか。
そのアンデッドプレイヤーが所属しているクランとリスキルを命じたクソプレイヤーは、所謂攻略組と呼ばれる最前線を争っている間柄らしい。その関係性も相まって第二都市で不特定多数のアンデッドプレイヤーに嫌がらせをしているようだ。
迷惑な話だ。またBAN案件か?しかし、今回の騒動ではバグ等は絡んでいないらしく、運営は動かないだろうとの事だ。ここの運営は基本的にプレイヤー自治に任せるスタンスらしく、迷惑プレイが横行しても何もしてくれないとの評判だ。それでいいのか運営。
墓地封鎖を指揮しているのは一つのクランとはいえ、実際に行っているのは数人だ。その数人を排除してしまえば、封鎖は解かれるだろうとの事。………オレが思うに、件のプレイヤーが来るまで終わらないような気がするけどな。
そして、その余りにも行き過ぎた迷惑行為に業を煮やしたプレイヤー達が掲示板で有志を募り、墓地から排除するための討伐戦を行ったそうな。ツィル氏もこれに参加し、惜しい所まで行ったらしいが増援もあって敢えなく敗北、キルされてここに戻ってきたという訳だ。
「トワっちもどうスか? 参加しませんか? 簡易テレポートアンカーが設置されているから、飛ぶのはすぐッスよ」
何でも迅速に集まれるように、有志が墓地近くにテレポートで直接移動出来るようにしているらしい。と言われても、オレには参加する必要ないんだよな。
「いえ、オレは実害を被ってないのでパスで」
「あっ。そうッスよね。トワっちにもやる事あるんスもんね。オレも他所様のプレイに口出しする程、野暮じゃないつもりッスからね」
ツィル氏は事の顛末を明るく話していた時とは一転して、心なしかしょんぼりしている。オレはそんな雰囲気を変えるべく気になっていた事をツィル氏に尋ねてみる。
「そういえば、ここの近くで出たレイドボスはどうなったのか知ってます?」
「あぁ、少し前に討伐されたらしいスよ。アンデッドのボスという事でしぶとかったらしくて、ここにリスポーンしてきたプレイヤーが愚痴ってましたスよ」
やはり、ブラックスライム氏と掛け合わさったアンデッドボスは相当面倒臭かったようだ。オレとは違って耐性マシマシだもんな。
「そういえば、新しいレイドボスが同時に二体出たらしいスけど、トワっちは知ってます?」
一瞬、間接的ではあるがオレがレイドボスを生み出す切っ掛けを作った事に、ツィル氏が気付いたのかと邪推してしまった。しかし、あの事を知る事が出来るプレイヤーはオレ以外には居ないと思い直し、表に出そうになった動揺を隠す。
「あー………。また出たらしいですね。あれ?でも、“暴食”のキールは第四でしたよね?その間の第五、六を知らないんですけど、どうなったのか知ってます?」
「オレも全部把握してる訳じゃないスけど、第五は最前線付近に発生したらしくて攻略組がラストアタックボーナスやらMVPを争って地獄だったらしいス。第六の方は、発生したのが海溝の底で、現状では魚人とか水圧耐性持ってるプレイヤーしか到達出来なくて、半ば放置されてるらしいスよ」
第五は討伐済。第六は行くのがダルいフィールドだから放置状態っと。
「………ん?レイドボスって討伐しなくても大丈夫なんですか?」
「自然発生するレイドボスに関しては特に問題ないらしいスよ。その意味ではこの近くに出た“暴食”のキールも討伐しなくても問題ない奴ッスね。………トワっち的には邪魔だっただろうスけど」
なるほど。レイドボスは放置してても問題ないのか。なら、あの二体も問題ないな。オレはヘンシェル氏の事を良くない思い出として忘れる事にした。
「第七、八のレイドボスが居るっていう場所は、一体全体何処なんスかねぇ………。事情通を自称しているプレイヤーも知らないし、何なら最前線の探索組でも把握してないらしくて、掲示板は阿鼻叫喚地獄になってるらしいスよ」
「へぇ。そうなんですか」
やっぱりあの周辺まで辿り着いているプレイヤーは居ないらしいな。最前線とやらが何処なのかは知らないが、あの場所はイッカクから滅茶苦茶離れていたからな。となると、あの二体が居るエリアの拠点を解放するようになるまでどれだけ掛かるか分からんな。
もしかすると、討伐戦になる頃にはヒルトロールとヒト混成アンデッドの軍勢が出来ているのかもしれない。まぁ、オレには関係ないよな。そういう事にした。
「………あ、そろそろオレ行かなきゃなんで!トワっちも山アタック頑張って下さいッス!」
ツィル氏はそう言うと霊廟の方に滑るように駆けていく。時間が押しているのだろう。後向きで滑りながら手を振り、扉を透過して見えなくなった。
うーん、オレはどうしようかな。ロッヂ蜘蛛の巣の行ってエルデス山の頂上を目指すか、あの丘よりも更に北を目指すか。………悩むな。