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果たして、アイテム化とはどういう状態なんだ? これってどうすれば解除されるんだろうか。杖としての耐久が無くなったらなのだろうか。でも、頭部と杖の部分で耐久値が分かれているから、杖よりオレの方が先に耐久値を全損しそうだ。
アイテム化しても、オレの視界はそのままなので、今のオレには壁しか見えない。と思っていたら、ヒルトロール氏改めヘンシェル氏が杖をグルリと回したのか、ヘンシェル氏の顔が見えるようになる。
オレにヒルトロールの表情はよく分からないが、何となくきょとんとした顔に見えた。
まぁ、その辺にあった骨を適当に繋ぎ合わせた杖におかしなスキルが付いているからな。何かおかしな物が出来たぞと思われても仕方がない。
ヘンシェル氏は、オレを吟味するかのようにじっとりと眺める。鑑定スキルでも持っているのだろうか。称号的にヘンシェル氏はユニークボスっぽいし。
ヘンシェル氏の身体が突然消える。透明化を使ったようだ。杖も透明化しているのか? 杖に固定されて視線が動かせないからよく分からん。どうやら、透明化したままちょこちょこ動いているようだ。と思ったら、直ぐに姿を現し、膝を突き肩で息をしている。これは、SPが切れたようだな。そういえば、オレは持久力強化があるから忘れていたけど、透明化を開始するのにSPを20使って、行動する度に5位
使っている筈だ。持久力ボーナスがあるオレですら透明化状態で歩く事を断念したのに、恐らく持久力強化を持っていないヘンシェル氏が出来る訳が無い。
肩で息をしながらヘンシェル氏は思案顔だ。コイツ思ったより使えないなとか思っているのかもしれない。
暫く休み息を調えた後、オレを壁に立掛け外に出て行った。やっぱりオレは要らない杖扱いになったのかな。オレはぼんやりとそんな事を思う。
しかし、やる事が無いな。ステータス画面を覗いてもさっきと同じ情報しか無いし、マップを見ても洞窟ですねって事しか分からない。
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ヘンシェル氏が戻って来た。その手に何やら赤黒い物体を抱えながら部屋に入りオレの脇をすり抜け、奥の部屋に入って行った。
奥の部屋から灯りが漏れ、何かが焼ける匂いがする。あどうやら、ヘンシェル氏の食事タイムらしい。そういえば、オレには関係なかったので忘れていたが、SPが減った際に食事をするとSP値に回復ボーナスが入るらしいな。食事もSPが切れる事もないオレには関係ないが。
食事を終えたのかヘンシェル氏が再度オレを手に取る。オレをまじまじと見詰めた後、住処から外へ出て何処かへと歩き出す。
骸骨の杖の能力を試すのか? でも、透明化の仕様的に待つ事が出来るような忍耐が無いと到底使えない性能だぞ。
ヘンシェル氏はオレを進行方向に向けながら歩いてくれるお陰で、何処を歩いているのか分かりやすい。まぁ、分かりやすいだけであって、ここが何処かは知らないのだが。
オレ達の前方………と言っても結構離れているが、獣の群れが見える。例の鹿のような草食獣達だ。アレを狩るのか?でも、アイツ等はそこらを歩き回るような習性じゃないぞ? どうするつもりなのだろうか。
奴等から見えそうなギリギリのラインで透明化を使用する。これで、オレだけ透明化してなかった結構滑稽な感じだな。ここから獣の群れまでまだまだ距離があるし、待ち伏せするにもアイツ等がここまで来るような気配はない。
ヘンシェル氏は透明化したまま、少し動き止まる。ん?何だこの白い塊?いきなり目の前に白っぽいふさふさとした塊が現れた。………あっ、これ、ヘンシェル氏なのか。全容は見えないがヘンシェル氏は透明化を解除し、その場に蹲っているようだ。なるほど?透明化を使いつつ獲物に接近し、SPが減ったら透明化解除して岩に擬態して風景に溶け込む、と。
それを繰り返し、群れに大分近くまで来る事が出来た。今のヘンシェル氏は透明化しつつその場に突っ立っているようだ。ここで待つつもりか?
鹿のような獣が手の届くような距離まで近付いて来る。
今だ。今なら捕まえられるぞ。
しかし、ヘンシェル氏は手を出さない。もしかして、SP切れか?透明化を解除して捕物をするようなSP値が残されていない? 他種族のSP値を把握するのは難しいな。アンデットなら大体残ってるだろとしか思わないんだが。
おや? ヘンシェル氏の方から何か言葉?が聞こえる。流石にオレもヒルトロール語は知らない。何かを呟いているようだが、何を言っているのか理解出来ない。
群れの周囲がボコボコと盛り上がり、土の檻が立ち上る。驚いた獣達は三々五々に逃げ惑うが、何頭かは土の檻に絡め取られてしまう。これは、魔法か?って事は、ヘンシェル氏は魔法使いだった?ヒルトロールにも魔法使いって居るんだな。オレは少し感心してしまった。
魔法を使った事によって透明化が解除されたのか、ヘンシェル氏の姿が露わになる。ヒルトロールの表情は分かりにくいが、ヘンシェル氏は心なしか満足げな顔のように見える。
さて、この捕まえた奴等をどうするつもりなんだ?檻に囚われたとはいえ、虜囚達は己の角を振り回して土の檻を壊そうとしている。突如として、破壊活動に勤しむ獣達の足元から土が蛇のように立ち上がり、首元に絡みつく。どうやら、ヘンシェル氏が土魔法で首を締めているようだ。確かに、魔法で止めを刺せるなら近付く必要ないな。首を締められていた獣達は一様に口から泡を吹き、最終的にはゴキンという音と共にダラリと首が垂れた。
ヘンシェル氏は、首を折られて即死した獣の元へと悠々と辿り着き、土蛇から獣を解放しそのまま肩に担ぐ。
これで、食糧大量確保だ。ヘンシェル氏は、心持ち楽しそうに家路に帰った。