34
暫く歩いていると、小高い丘に差し掛かった。足元が少し白っぽくなっている。もしかしたら、雪が降るような地域なのかもしれない。残念ながらオレには寒暖無効というスキルが付いているので、寒さを感じ取れない故に気温が把握出来ないのだが。
植生やらの環境は草原地帯とそう変わらないようだ。何だっけ………。丘といえば、何か面倒臭い奴等が居たような。
視界の端で何かが動いた気がしたので、とりあえず透明化と気配隠蔽。
改めて気になった方を見やると、白っぽい何かが立ち上がった。てっきり岩か何かだと思っていたが、どうやら何かしらの生物っぽいぞ。グルリとその何かがこちらに振り向く。
熊のような体躯に何かの頭骨を被った醜悪な顔。うわ、丘巨妖だ。こんな所で面倒臭い奴に出会ってしまった。ヒルトロール氏は何かを探すかのように鼻を引くつかせながら、オレの方に近付いて来る。
アウリィ氏の時にも思ったが、透明化は視覚を誤魔化す事が出来たとしても他の感覚で探り当てられたら、どうしようもない。気配隠蔽で隠れたとしても、何かが居る事がバレてしまっては元も子もないのだ。
このヒルトロール氏は嗅覚が優れているのだろう。オレの方にどんどんと寄ってくる。これは、もう死んだふりを使うのも止むなしか。せめて、ヒルトロールが骨に興味を示さないモンスターだといいんだがな………。
あ、もう無理。こっち見てる。
オレは死んだふりLv1を発動させた。
瞬時に透明化と気配隠蔽が解かれバラバラとその場に転がる骨。オレが着ていた外套は自動的にアイテムボックスに収納された。その場に一緒に落ちなくて良かった。
目の前にいきなり骨が落ちてきたのを目の当たりにしたヒルトロール氏は、驚いたように目を見張り後退った。ビビリ散らかしてやがる。ウケる。
少し後退したヒルトロール氏は落ち着いたのか、再度オレの方に寄ってくる。
幽体状態のオレは見えていない筈だが、ここまで近付かれると結構なプレッシャーだな。久しぶりにこういう奴と出会ったけど、この種族の事は殆ど何も知らないんだよな。せめて、白骨死体に興味を示さない種族であってほしいが、頭の奴を見る限り頭蓋骨辺りを持って帰りそうな気がしないでもない。
ヒルトロール氏は、オレの骨を幾つか持ち上げ臭いを嗅いでいる。何?そんなに臭うの?オレの身体は。あっ、ちょっと待って。コイツ、オレの身体はもっと優しく扱って! おい止めろ! あぁ!コイツ腕の骨を折りやがった。しかも投げ捨てやがった! マジコイツマジ許さんからなお前。
これは死んだふりを解除したらどうなるか分からんな。この間のゾンビに轢き殺された時のように、死んだふり解除した瞬間に即死判定が出るかもしれない。
あ?おい、オレの頭を持っていくな! 頭もがれたらLPがどれだけ減るのか知らないのか!?………あれ?身体が引っ張られている?いや、白骨死体は地面に落ちたままだ。オレの幽体が引っ張られている?もしかして、幽体状態のオレは頭部とセットになっている設定なのか?
オレの頭蓋骨を掴んだまま何処かへ向かうヒルトロール氏。コイツは一体何処へ向かっているんだ?一番あり得るのは、住処へ戻っているのだろうが、頭蓋骨一個手に入れた程度で戻るものなのか?それにしても、頭蓋骨をどうするつもりなんだろうな?装飾品にするとか?でも、装飾品に加工されたらオレはどうなるんだ?即死判定?
幽体状態のオレはヒルトロール氏に引き摺られる形でフワフワと憑いていく。幽霊になったような気分だ。自分の足では歩かず、滑るように進むとは変な感覚だな。ツィル氏はいつもこんな感じなのだろうか。
暫くすると、ヒルトロール氏の住処らしき所に着いた。恐らく丘にある洞窟辺りを利用しているのだろう。木製の扉が付いている事から、何となく知性を感じるぞ。ヒルトロールなんて、獰猛で知性の低い怪物だと思っていたが、オレの偏見だったのかもしれん。
ヒルトロール氏は扉を開け内部に入っていく。後ろ手で扉は閉められたが、幽体状態のオレは扉をすり抜けていく。
洞窟内部は思ったよりも明るい。光を発するキノコがそこらに生えており、これを灯りとして利用しているようだ。
ヒルトロール氏はズンズンと奥へと進む。さて、オレはいつ死んだふりを解除すればいいんだろうか。
ヒルトロール氏が辿り着いた先、大型の獣の革が敷かれた寝床らしき物や、何の動物か分からない骨等が積み重なっていたり、得体の知れない物が入っているらしき壺が散見される。………魔物の住処なんてゴミ溜めのようなモノだと思っていたが、想像していたよりもマシであった。で?何するんだ?
ヒルトロール氏は、寝床らしき所にドカリと腰を下ろすと、何やら白っぽい棒のような物を骨の山から引っ張り出す。よくよく見ると、それは何かの骨を幾つも撚り合わせた物らしい。うーん、嫌な予感がしてきたぞ。
右手にオレの頭蓋骨を持ち、左手に持つ骨の棒の上部にオレを重ね合わせる。ただ置いただけでは安定しないらしく、植物で出来た紐で固定していく。出来上がったのは、どう見ても禍々しい魔法使いが使うような杖です。それを幽体状態で見ている事しか出来ないオレ。
あ、何か身体が引っ張られるような感覚がある。幽体状態の制限時間が来てしまったのか?いや、そもそも死んだふりに制限時間なんてあったのかよ。初めて知ったわ。いやいや、ここで戻ったらどう考えても即死判定でしょ。
嫌だ嫌だと抵抗も虚しく頭蓋骨に引っ張られるオレ。一瞬意識が遠くなり、瞬時に目を覚ました。
何だか薄暗いな………というか、さっき見た景色だな。もしかして、もしかして?
オレはステータス画面を開いて見る。死亡判定が出ていないのならば、ステータスを見ればどういう状態なのか分かる筈だ。多分。
******
プレイヤー名:トワ
種族:骸骨兵Lv.2
LP:5
SP:100
種族能力
打撃属性弱体Lv.1、火属性弱体Lv.1、斬撃耐性Lv.1、刺突耐性Lv.1、生命力半減、持久力強化、呼吸不要、寒暖無効、飲食不要、死亡時幽体状態可能
保持技能
死んだふりLv1、透明化Lv1、気配隠蔽Lv1
称号
光亡き者
カルマ値:1
部位欠損状態、アイテム化状態
******
名称:骸骨の杖
耐久:5(頭骨部)、20(杖部)
希少:G
技能:透明化Lv.1 、気配隠蔽Lv.1
概要:夢見る骸骨兵の魂が宿る杖。禍々しいオーラを放っている気がするが気の所為である。
所有:“気高き丘”のヘンシェル
******
つまり、どういう事?




