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ピラミッドもどきを造る際に邪魔だったのだろう山が二つに割られている。まるで切り崩したかのように、ほぼ垂直な岩肌が左右に在るのは宛ら門のようだ。………実際、誰か居たりして。
崖の合間を抜ける際に何処かからの視線を感じたのはきっと気の所為だろう。
抜けて来た先は、山の向う側とはガラリと雰囲気が変わっていた。
まず、あれ程繁っていた紅耀樹が見当たらない。つまり、アレの領域は山の向う側までという事なのだろう。
紅耀樹の森を抜けて別の森に行くのだと思っていたが、ここはどう見ても森林地帯ではなく草原地帯だ。
エリアが急に切り替わったかのような不自然さを感じる。まぁ、この世界の自然がどういう原理で回っているのか知らんので、どうでもいいが。
とりあえず、宛も無い旅なんだ。北に行こう北に。
草原地帯という事もあって、とても見通しが良い。遠目に角の生えた草食動物らしきもの達が駆けているのがよく見える。ただ、こちら側がアイツ等をしっかりと認識出来るという事は逆もあるわけで。つまりは、オレの姿がバッチリ何処からでも見えるという訳だ。草食動物が居るという事は、凶暴な肉食動物も居るだろうし、いつ何時敵対生物に襲われないかとヒヤヒヤする場所だという事だ。
しかし、そういった心配は全くの杞憂だった。
草食動物はオレを警戒しているのか、さっさと逃げるし、対する肉食動物は骨だけのオレに全く興味が無いのか存在を無視されている。
得体の知れない骨が歩いていたら普通警戒すると思うんだが、無視している奴等はアンデッドに慣れている?それなら、草食と肉食でリアクションが違うのは何故なんだ?
まぁ、考えても仕方なさそうだ。とりあえず、オレが襲われる心配は殆ど無いという事だ。………流石に、近くに寄って来そうな奴が居る場合は透明化と気配隠蔽を使ってやり過ごした。不意に襲われたりでもしたらそのまま死に戻り必至だろうからな。
草原地帯を歩きながら、時折見掛ける動物を観察してみる。景色も殆ど変わらないし他にやる事が無いからな。それに、どんな生物が生息しているのかをマップに詳しく記載出来るからな。
一番多く見掛けるのは、細めの角が三本生えた鹿のような草原獣だ。鹿が草原地帯に住んでいる訳無いので、鹿ではないのかもしれん。とりあえず、そいつ等は常に群れで行動している。遠目に見ているだけなので詳しい大きさは分からないが、矢鱈と大きく感じるのは気の所為か。何となくオレの背を越しているような体高の奴がチラホラ居る。アイツ等馬力が高そうだな………。あんな奴等が群れで向かってきたらと思うとゾッとするな。
やはり、ここでもオレの強さは下から数えた方が早いのだろうか。
次に多く見掛けるのは、馬のような姿をした奴等だ。頭に角が生えていたり、翼が生えていたりする。ここはユニコーンやペガサスの棲息地なのか?馬もどき達は群れで居たり、一頭で居たりと様々だ。但し、コイツ等は肉食獣達を気にも止めていない様子。勿論オレも無視されている。
空には鳥らしきモノが飛び回っている。
いや、鳥か?矢鱈とデカい蜻蛉らしき奴が鹿もどきを攫って空中で喰ってるんだが、何なんだアレ。
勿論、普通の鳥も飛んでいる。特に特徴らしきモノも無い小鳥だ。オレの頭に止まりに来て、和むが糞を落としてきたので追い払ってやった。
数が少ないが肉食獣も居る。猫科の獣なのだろう。例の“黒疫”のキールみたいな面した奴等が鹿もどきを襲っていたりするのを遠目に見る。オレを認識しているような奴も居るが大抵スルーして去っていく。
最後に、ずっと見えているヤバい奴が居る。オレの進行方向に居るのだが、滅茶苦茶遠くに居る事は確かだ。現状、足しか見えない。四足で立っていると思われるのだが、足から上が雲に隠れていて全容が計り知れない。アレは一体何なんだ?まぁ、この草原地帯に居る訳ではなさそうだな。とりあえず、今迄見た獣をマップに記載しておこう。これは高く売れそうだぜ。
しかし、ここらではアンデッドを全く見ないな。共同墓地周辺だからアンデッドが多かっただけで、他の一般フィールドならこんなモンなのかもしれないな。死骸という意味では、こういう地帯の方が多いと思うんだが、どういう違いなんだろうな。でも、普通の獣はアンデッドに興味が無いという事が分かったのはいいな。やはり誰彼構わず殴り掛かってくるのはアンデッドだけなんだな。普通の動物なら、骨を食べるような奴位しか襲っては来ないだろう。多分。
このままアンデッドに遭わないで行けるといいなぁ。スルーするにしても、襲われそうになるのは面倒だしな。………まぁ、何処かで必ず出会すんだろうが。




