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「さぁ、全ての試練をクリアしたぞ。報酬寄越せ」
『むぅ。余にそのような言葉を垂れるとは死にたいようだな』
散々見世物にされたオレは、クルジャン王に対しては存外な扱いで接する事にした。どうせ死んだ所でここで生き返るだけだし。
『チッ………死んだ所で戻ってこれると思っているようだな。………その通りだが』
クルジャン王は肩を竦め溜息を吐くジェスチャーを行っている。溜息吐きたいのはオレの方だっつーの。
『まぁ、よい。そら報酬だ。受け取り給え』
クルジャン王がパチリと指を鳴らすとキラキラと光るコインのような物が一枚降ってきた。思わず手でキャッチし、まじまじと見てみる。金色に光輝くコインだ。光が反射している訳ではなく自ら輝いているようだ。何となくだが、目の前に立つクルジャン王に似た横顔が刻印されているような気がする。と思っている間にまたしても手に吸い込まれるように消える。
これもまた経験値的な何かなんだろうか?シーン氏に貰った物とどちらの方が価値が高いのだろうか。
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レベルアップ!!
プレイヤー名:トワ
種族:骸骨兵Lv.1→Lv.2
LP:50
SP:100
種族能力
打撃属性弱体Lv.1、火属性弱体Lv.1、斬撃耐性Lv.1、刺突耐性Lv.1、生命力半減、持久力強化、呼吸不要、寒暖無効、飲食不要、死亡時幽体状態可能
保持技能
死んだふりLv1、透明化Lv1、気配隠蔽Lv1
称号
光亡き者
カルマ値:2
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唐突にレベルが上がった。ただ、ステータス確認しても、種族レベルが上がっただけで他の項目に全く変化が無
いのは何なんだ………。
それに、試練突破者みたいな称号貰えるかもとか思ってたのにそれも無いし。
『ふむ。どうやら存在強度が上昇したようだな。奮発した甲斐があったというものだな。名目上はソロ突破者であるからな。少々色を付けといてやったぞ』
存在強度?レベルの事か?それに、ソロ突破者?シーン氏達の事が無かった事にされてる?
『何だその目は。………チッ。説明してやろう。元々の設定では、この遊戯施設は“旅人”にやらせるためのものなのだ。そこに現れたのが、“旅人”が一体しか居らん貴様等よ。そして、他の者は貴様を置いて出て行った事で、貴様が一人で試練を突破したと処理されてしまったのだ』
なるほどな。動作不具合か。ところで、前々から気になってたけど、コイツ絶対“旅人”だろ。もしかして、コイツがあの崖に楔を打ち込んだプレイヤーなのか?RP勢なのは間違いないが、こんなとこで何してんだろうな。
「ところで、試練も終わったんだし、とっとと帰りたいんだが?どこから帰ればいいんだ?」
『ふむ。付いて来い』
クルジャン王が先導し、着いたのは“ニの試練”の階段前。え?これをまた登れと?
『ここが何処にあると思っているのだ。ここを登って行くしか道は無い。安心しろ。天辺まで辿り着いたとしても待機所に戻される事はない』
オレは溜息を一つ吐き、階段を登り始めた。
オレの後ろから、クルジャン王のホログラフが着いてくる。見送りでもしているつもりだろうか。一番上で待ってりゃいいのに。
『本当は、貴様等には感謝しているのだ。本試練前に当たり、貴様等を試金石に出来たのは助かった。貴様等の行動によって試練の改善点も洗い出せたしな。やはり、今の試練ではアンデッドに有利なものが多い事が分かったのは大きい。理想では、全ての種族に対して平等な試練にしたいものだな』
後ろからクルジャン王の愚痴のようなものが連連と語られる。オレは殆ど聞き流しているような状態だが、端的に言って、知らんがな。
元々、オレ達は試練を受けたくて来た訳じゃないし、寧ろ罠に嵌ったような物だ。せめて強制的に試練参加というものじゃなかったら、もう少しやる気が出ただろう。今更言っても詮無きものだが。
後ろではクルジャン王がまだ何か言ってる。話の長さではゾンビーフ氏級だ。まぁ、何言ってるのか聞いてないので分からんが。
クルジャン王がグチグチ語り、オレが悟りを開き掛けていると地上に着いたようだ。階段を登り切り、辿り着いた先は少なくともあの隠しエリアではないな。というか、紅い木々が見えるから外じゃねぇか。何処だここ。
『あぁ、地上に着いたようだな。では、何処へなりとも失せるがいい。そうそう、この場所を貴様のリスポーン地点に追加しといてやったぞ。本試練が始まった時にでも再訪するがよい』
クルジャン王がドヤ顔で言い放つ。
え?リスポーン地点追加ってオレ以外が勝手に出来るものなのか?
まぁ、ここでは元々リスポーン地点を探していたんだ。有り難く受け取っておこう。多分、もう試練をやる事は無いが。
言いたい事を言い終えたのかクルジャン王のホログラフはブツリと消える。恐らく、地下の試練に戻ったのだろう。
さて、試練も終わったし何をやるかねぇ。そういえば、ここはイッカクから大分北方に来た所だったな。という事で、もっと北上してみるか。北極とかに着くのかもしれない。