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ログイン十四回目。
死んだふりから復帰すると、目の前にクルジャン王のホログラフが立っていた。
『久しぶりだな、スケルトン。貴様の仲間達はさっさと出ていってしまったぞ?』
クルジャン王が床に落ちている手紙?指差し示す。
これは、もしかしてシーン氏達からの手紙か?
手紙を拾い上げ、中身を読んでみる。
『トワさんへ。貴方がこれを読んでいると言う事は、私達はそこにもう居ないのだろう』
何だか死んだみたいな語り出しだな。この試練の間で死ぬ筈ないし、他の皆は試練をクリアして帰ったって所だろう。
『トワさんを待とうという提案もあったが、残念ながら私達は国へ帰る事となった。勿論、皆試練は突破した。トワさんも遠からず全ての試練を突破出来るだろうと私は信じている。何よりあのフィスフルが出来たのだ。トワさんが出来ない筈が無い。』
フィスフル氏………言われてるぞ。
何かあの人の信用が薄いんだろうか。ちょくちょくフィスフル氏は出来ない奴みたいな空気があるぞ。
『この手紙を残すに当たり、各試練の攻略点等を認めておこうと思ったのだが、クルジャン王の検閲で全て消されてしまった。という訳で、私達からは頑張れという応援しか出来ない。ただ、所感を述べるとしたら忍耐力さえあれば、何て事はない試練だった。実力が試される九の試練も大丈夫だろう。十の試練は………書くのは駄目だそうだ。それでは、最後に今回の報酬の後払い分と、ついでに私の試練報酬も同封しておく。迷惑料という奴だ。では、また会う事があれば宜しく頼む』
試練のネタバレは流石に書けなかったか。
しかし、忍耐力ねぇ………。確かに一、ニ、三の試練は忍耐力さえあればどうとでもなるだろう。オレには持久力強化があるから、SPはほぼ関係ないしな。
六の試練は、時間との勝負か?道に迷って行き止まりにでも当たったら、もう戻れないだろう。
九の試練は………多分一番簡単だろう。だって、相手が骨だし。
十の試練は、詳細が分からないから、何とも言えないな。でも、シーン氏が何とかなるだろうみたいな感じだから、多分大丈夫。文面からヤバさは感じられない。
と、青白いコインが二枚転がり落ちてきた。手で受け止めるとそのまま、手に吸い込まれるかのように消えていく。結局コイツは何だったんだ?クルジャン王に聞いたら何か分かるだろうか。
「少し良いだろうか?」
離れて手紙を読むオレを見ていたクルジャン王が近くに寄ってくる。
「シーン氏達から青白いコインみたいな物を報酬として貰ったんだが、それが何か知らないか?」
『何だ。試練の事ではないのか。……、まぁ、いいだろう。アレは成長を促す力を具象化したような物だ。一般の報酬として渡すには少々過ぎた物だがな』
えーと、つまり?あのコインは経験値的な何かか?
でも、オレの種族Lv1から変化してないんだよな。コイン三枚程度じゃあ、まだ足りないという事か。
うーん、とりあえず試練を再開するか。これらをクリアしないとここから出られないんだし、さっさとやってしまおう。
オレは“一の試練”の扉を開いた。
試練の間の中は、この間見た時より近くに足場が見える。やはり、あれはアウリィ氏に合わせたサイズだったんだな。アレがデフォルトだとしたらクリア出来る気がしなかった。渡りやすくなったとはいえ、落ちたら即死だ。待機所に戻るだけとはいえ、慎重に渡る必要があるだろう。
因みにこの試練内で死ぬ感覚についてだが、特に何も感じなかった。オレだけではなく、シーン氏達も特に体調に変化等無かったからそういうものなのだろう。
片足がようやく乗る程度の大きさの足場に飛び移って行く。結構渡って来たと思うんだが、結構長いな。先が見えないぞ。何処まで行けばいいんだ?
よっほっはっ、と掛け声を上げながら片足ジャンプで進む。持久力強化が無かったら、案外拙い試練なのかもしれないな。普通に歩く行為ではないし、立って休もうにも片足立ちだ。休むどころか寧ろ、SPが減る立ち方だ。
シーン氏が言ってたフィスフル氏でも〜ってのは、こういうのを示していたのかもな。
程なくしてゴール地点であろう広い足場に辿り着いた。ここまで来るのに、足を滑らせて一回落ちたのは内緒ダヨ。
ゴール地点には、クルジャン王がつまらなそうな顔をして立っていた。
『チッ………やはりアンデッドは有利な試練なのか。これは、本試練までに改良しなければな………ともあれ、“一の試練”突破だ。次の試練に挑むが良い』
舌打ちと愚痴を垂れ流したクルジャン王は、言いたい事を言い終えるとブツリと消える。
ゴール地点の扉を潜ると待機所に戻ってきた。さてと、次は“ニの試練”にでも行くか。
“ニの試練”は延々と階段をただひたすら昇っていくだけの試練だ。心を無にしたオレは、無我の境地に至り………いつの間にか待機所に戻っていた。
多分、堪え性の無い奴とかは苦痛なんだろうな。で、それを見てるクルジャン王が嘲笑うと。
次の試練は“光亡の窟”、いや“三の試練”だったな。
入口付近には、蠟燭が一本だけ灯っていた。これって、もしかして人数分灯っているのか?今は、オレ独りだから一本しか灯っていない。
え?この蠟燭を持っていっていいのか?あぁ、なるほどね。途中で明かりが消えて真暗闇の中に独り取り残されたら、大抵の奴はパニックになるだろうな。それを性格の悪いクルジャン王が見て愉しむと。
だが、残念だったな。オレは“光亡き者”の称号を持つスケルトンなんだぜ。オレにかかれば………。
………………ハッ!?
いつの間にか待機所に戻っていた。死んだ訳ではなさそうだ。つまり、クリアしたって事か。全く記憶に無いけど。
気を取り直して、“六の試練”だ。自動マッピング機能を使えば、マップが都度変わらない限り、ゾンビアタックでクリア出来る。
オレは、通算457回目にしてようやくクリアした。ゴール地点に居たクルジャン王はニッコニコでした。殴りたくなるようなムカつく笑顔だった事はオレの閻魔帳に書いたからな。
“九の試練”………オレは、“光亡き者の外套”を脱ぎアイテムボックスに仕舞うと、試練の間に入っていった。
中で佇むのは、オレにそっくりなスケルトンだ。思った通り、何も装備していない。オレは拳を握り、相手に向かって思い切り投げ付けた。
狙い過たず頭部にクリーンヒット。頭部は首から外れ、後方へオレの拳と共に吹っ飛んだ。
頭部を失いフラフラしているスケルトンに走り寄り、勢いそのままに飛び蹴り。胸部にぶち当たると、肋骨を圧し折りスケルトンはバラバラに崩れ落ちた。
うーん。やっぱり弱いね。打撃に対して弱過ぎる。因みにオレも足を骨折している。
骨折した足を引き摺りながら待機所に戻ると足が完治した。失った拳も生えてるし、待機所に戻ると部位欠損も元に戻るようだ。ここ、リスポーン地点にならない?
『全ての試練を突破したようだな。では、満を持して“十の試練”に挑むが良い』
オレは“十の試練”の扉を押し開き、中へ入った。
何だここ?見渡す限り何も無い荒野だ。暗くない分、“三の試練”よりかは楽そうだな。
『フフ、これこそ被験者の潜在意識をハッキングし、その者にとっての楽園を見せる試練。襲いかかる数々の妨害を振り切り、振り払いゴールまで辿り着かなければならない。さぁ、精々励むが良いぞ』
「え?何も無いけど?」
『えっ。………え?マジ?どうなってるのだ?バグか?』
思考の渦に囚われ頭を抱えているクルジャン王を後に残し、特に何事もなくゴールに辿り着いた。
待機所に戻って来たオレをクルジャン王が憐れむかのような目で見る。
『何と言うか………頑張れよ。その内、善い事あるからな?』
何だか知らんが励まされた。
よし、これで全ての試練は終了だ。さて、何が貰えるのだろうか。




