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……きて……起き………
遠くから誰かの声が聞こえる。聞き覚えがあるような無いような。うーん、無いな。
……な……なら……し……
何?何だって?もっとはっきり喋れよ。何いってんのか分からねぇだろオオォォォぉオオォォォ!!??
文句垂れていたら全身に強烈な衝撃が走った。何か全身で電撃を浴びせられたような感じだ。
「あ、起きましたね。良かったです死んでなくて」
優しい声音で恐ろしい事を言うヘイズウルス氏。相変わらず顔をベールで覆い隠しているから、今どんな表情しているのか分からんのがちょっと怖い。
どうやらオレは気絶状態で床に寝ていたようで、中々目覚めなかったからヘイズウルス氏の秘伝で叩き起こされたらしい。
周りを見渡すと他の面子はオレを囲むように固まっていた。もしかしなくても、オレを守っていてくれたのだろうか。
しかし、ここは何処なんだ?確か落し穴な感じで落とされたような。それで地面に落ちた衝撃で気絶していた?いや、あのまま地面サンと仲良死してたら、オレは死んでいる筈だ。フィスフル氏が何か使おうとしていたし、それで助けられたのかもな。
周りの面子は何かを警戒している様子でピリピリしている。皆の目線を辿ると半透明なヒトガタが手持ち無沙汰に立っていた。
『む。最後の一体が起きたかね?では、改めてようこそ。余の冒険心溢れる感動的一大遊戯施設へ!!』
………………ん?何か今変な単語が聞こえたような。
半透明なヒトガタは、さっきのクルジャン王とやらだろう。しかし、遊戯施設?何の事だ?
『まだここは最終調整が済んでいないのだが、特別に君達にはテスターとしてプレイする権利を与えてやろう。感涙にむせび泣いてもよいのだぞ』
「えー、クルジャン王よ。一つ宜しいか?」
何だかぶっ飛んだような事を言っているクルジャン王に対してシーン氏が問いかける。
『見ての通りここには、一から十までの試練が在る。この全ての試練を突破するまではここから出る事は不可能。ただし、身体の安全は保証してやろう。………精神は別だがね』
シーン氏の話を無視して話を進めるクルジャン。いや、聞けよ。
改めて周囲を見渡すと、確かに壁一面グルリと十枚の扉が設置されていた。
「あー………その試練とやらは私達全員で挑んでも良いのだろうか」
『勿論良いとも。ただし、余はそれぞれ個人で挑んだ方が良いと思うぞ?』
シーン氏の質問にニヤリと笑いながら答えるクルジャン。その表情も相まって何だか意味深な台詞だな。
『勿論、余が自ら考案・監修・作製したこの試練を突破した者には褒美を与えよう。まぁ、君達にはこれらの試練を突破するしか生きて帰る道は無いのだがね』
言いたい事を言い終えたのか、ブツリと姿が消える。説明終わったから映像切れたのかな。
新たな異変が無いか暫く警戒した後、重々しくシーン氏が口を開く。
「皆、どうやら厄介な事になってしまったようだ。私があのエリアを調査しようと言い出したばかりに………トワさんにも………申し訳ない」
「いや、シーン殿は悪くはないだろう。吾輩達の運が悪かったのだ。誰もこんな事になるとは想定していなかったしの」
「試練だってぇ〜楽しそうじゃなぁ〜い?」
謝罪するシーン氏に口々に声を掛ける仲間達。アウリィ氏はのほほんと場を和ませるように軽い口調だ。
しかし、試練ねぇ………。一体あの扉の奥でオレ達は何をされるんだろうな。
それぞれシーン氏を慰めた後、オレ達は今居る場所を調査した。その結果、抜け道は存在せず、クルジャン王が言うように、とりあえずは試練をクリアしてみるしかない。との事だった。
となれば、どの試練から挑戦するかなのだが、この手のパターンとしては恐らく数字が増える事によって難易度が高くなるだろう、との結論になった。
オレ達は“一の試練”を全員で挑む事となった。クルジャン王は個人での挑戦を勧めていたが、中に何が待ち受けているのか分からない事から安全策を取るようだ。
シーン氏が恐る恐る、“一の試練”の扉を触る。アウリィ氏が余裕で潜れるような大きな扉は重々しい音を立てつつ、部屋内へと向かって開いていく。
部屋の中は不自然な程、黒に塗り潰されている。これ外から中がどうなってるか分からないようになってるのか。と言う事は、とりあえず中に入ってみるしかないという事だ。オレ達は逸れないように一塊になって扉を潜っていった。
扉を抜ける際に何か膜のような物を突き破ったような感触があった。あの不自然に黒く見せていた物なのだろうか。いや、今は目の前の事に集中しよう。
オレ達の目の前に現れたのは、下を覗いても底が見えない崖。向こう側に足場があるのが確認出来る。
『ここは“一の試練”、ルールは簡単。向こう側にあるゴールに辿り着けば良い。敵性存在は一切現れないが、魔法は使用禁止だ。精々、諸君の健闘を祈るよ』
ここの説明のためにか、再度現れるクルジャン王。
魔法禁止となると、フィスフル氏が使っている浮遊は使えない。となると、あちらの足場に辿り着けそうなのは巨人のアウリィ氏、翅で宙を飛べるネル氏くらいしかいけない気がする。ん?アウリィ氏?巨人サイズでないと行けない?………って事は、もしかして?
「もしかして、複数で挑戦した場合、一番大きい者の規格で難易度が設定される?」
『うむ。冴えているではないか、スケルトンよ。その通りだ。君達の中には巨人族が居るからな。だから、余は個人で挑戦する事を勧めたのだ』
「ところで、これって下に落ちたらどうなるの?」
『先程の待機所に転送されるぞ。この試練だけではなく、他の試練でも死亡判定が出されれば待機所に飛ばされる事になっている。アンデッドも安心して死ぬがいいぞ』
あー………。これ落ちたら即死かぁ。そういえば、このゲームはプレイヤーは死んでもリスポーンするけど、NPCは死んだらそれっきりなんだよなぁ。死んでも大丈夫ってのは有り難いけど、つまりは全ての試練で死ぬ可能性があるって事か。
オレはいいけど、他の面子はここの試練で死に癖が付かないか心配だなぁ。
「クルジャン王よ。ここは一旦諦めて別の試練に向かう事は可能だろうか」
『勿論。どの試練でも扉は開いたままになる。いつでも好きにやり直したまえ』
シーン氏は、状況を考え別の試練に切り替えるようだ。クルジャンの言葉で改めて確認したが、扉開きっ放しだったのだな。崖を踏み出す勇気が持てずにやっぱり止めたとなったらいつでも戻れるという訳だな。
待機所に戻って来たオレ達は、とりあえず全ての試練を確認しようとの結論になった。クルジャン王の言葉から察するに、他の試練も複数で挑むと余計に面倒な事になると思われるため、最低限下見だけでもしておこうという訳だ。
“ニの試練”………入ったのは螺旋階段らしき物がある部屋。多分巨人サイズにリサイズされているため、オレ達にはやはり無理だ。ここも魔法禁止だった。
“三の試練”………真暗闇だ。入口付近は蠟燭が複数本灯っているから周囲が確認出来るが、先へ進むと光亡の窟と同じようになるのだろう。
“四の試練”………巨人サイズの水路だ。泳げと?スケルトンって泳げるのか?
“五の試練”………巨人サイズの一本道。下は見えない。多分巨人に合わせただろう強風が吹いている。ここは、アウリィ氏にくっついて行けばいいんでない?個人で挑む場合、オレは強風に吹っ飛ばされる未来しか見えないが?
“六の試練”………壁しか見えない。いや、一部抜けている?………どうやら迷路らしい。但し、時間経過で道が物理的に落ちるらしい。
“七の試練”………溶岩地帯と氷雪地帯が切り替わるエリアだ。ここもただゴールに辿り着けばいいだけなのだが、敵性存在が居るらしい。魔法は解禁されていた。オレは寒暖無効だから何も感じないけど、ダタン氏とか滅茶苦茶暑そうだな。
“八の試練”………目の前には壁に掛かった看板と二つの扉。謎解きエリアか。ここは複数人で来た方が良さげか?
“九の試練”………目の前に立つのは、オレ達?クルジャン王曰く、挑戦者の完全コピーと戦って勝つ事がクリア条件のようだ。ここは戦闘エリアとの事で魔法は解禁されていた。但し、自分のコピーにしか攻撃は通じず、フィスフル氏のコピー以外の面子に放った攻撃魔法は身体をすり抜けていた。
“十の試練”………開かないが?
『あぁ、“十の試練”は他の全ての試練を突破しなければ開く事はないように設定されているのだ。他の試練を突破してから挑むが良い』
一旦待機所に戻ったオレ達は、どの試練から挑むか、個人で挑む試練、複数で挑む試練を相談する事にした。
相談した結果、個人で挑む試練は、“一の試練”、“ニの試練”、“三の試練”、“六の試練”、“九の試練”となった。
一とニの試練はアウリィ氏に運んで貰うのはどうかとの意見が出たが、アウリィ氏に運んで貰うのは限度があるし、それならそれぞれ個人で挑んだ方が時間効率が良いだろうとのことだった。
“三の試練”は一回試しに全員で挑んだ所、中でバラバラに別れてしまう事が発覚。ならば個人でも挑んでも結果は同じだろうという事になった。
“六の試練”は、誰かが脱落した時点で全ての床が消える。
“九の試練”は言わずもがな。複数で入ってもメリットがなく、寧ろデメリットになる要素がある。
対して、複数で挑む試練は“四の試練”、“五の試練”、“七の試練”、“八の試練”だ。これは、話し合いが決まった後全員で挑み、さっさとクリアしてきた。
あとは、個人で挑む試練だけだ。但し、オレにはそろそろ時間が無い。
オレはシーン氏達に断りを入れ、死んだふり口グアウトした。