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睡眠不要なオレは他の面子が眠っている間に何しようかと考えていた。他に二体居るとしてその内暇になるんだろうな、と思っていたが、ヘイズウルス氏から、集団行動時のアンデッド流の夜時間の潰し方………睡眠に代わる代替法を教えて貰った。なんと、意図的に活動状態を停止する事によって睡眠状態のような事が出来るらしい。活動能力を一定カットする事によって、LPとSPついでにMPの回復力を高めるらしい。って言うか、この世界に魔力なんて存在してたんだな。オレには魔力なんてものは生えてないけど。
この隊でのヘイズウルス氏は夜番をするため、これを行う事は無いらしいがフィスフル氏はそんな事もなく、とっとと寝ていた。傍から見てるとピクリとも動かないから、ただ死んでるか機能停止しているようにしか見えないんだけどな。
明けて早朝。オレを含めた調査隊はダンジョンに出発した。
調査隊の構成としては、前衛にアウリィ氏とネル氏、遊撃にダタン氏とシーン氏、後衛にフィスフル氏とヘイズウルス氏、護衛対象であるオレはフィスフル氏とヘイズウルス氏に挟まれる形だ。
彼等は一度このダンジョンを調査し道をほぼ全て把握しているらしいが、今回はオレを例のエリアまで安全に運ぶため安定策を取るようだ。
オレ含む調査隊が進む前に斥候役を兼ねるシーン氏がルートを調べ、その情報を元に比較的敵モンスターが居ない安全な道を選択していく。その繰り返しで比較的早めに件のエリアまで辿り着いた。
オレ達の前にはとても重厚そうな扉が聳え立っている。アウリィ氏でもそのまま通れそうな大きな扉だ。
シーン氏に案内されて扉の脇まで行く。そこにあったのは、タッチパネル?何か違和感が凄いな。周りの雰囲気とかテクスチャに全く合っていない異物感がヤバい。もしかしなくても、この扉の先ってヤバいエリアなのでは?
彼等もこの異物に異様な雰囲気を感じているのか、心無しか表情が暗い。調査として赴いているからか、中の様子を調べる事が出来るならば、調査しなくては………みたいな義務感でも働いてるのか。
どうやら、このタッチパネルに手を翳せばいいらしいが、彼等全員が試しても扉が開く事はなく、パラメータ“旅人”が必要という表示が一瞬出たのを確認したらしい。
という訳でオレの出番だ。オレはタッチパネルに骨だけの手を翳し、ゴゴゴという重そうな音と共に扉が開いていった。
中の様子は分からない。内部が暗すぎて見えないというよりも、シーン氏みたく認識阻害が掛かっているようだ。
異様な雰囲気の中、いつも通りにシーン氏が偵察しようとするのをヘイズウルス氏が引き止める。
中で何が待ち受けているか分からないため、独りで行かせるよりも、全員で入った方が生存率は高いだろうという。
オレはここから、独りでは帰れないから勿論同行するしかない。本来は扉を開けるまでが契約だったんだが、ここまで来たしオレも隠しエリアの内部がどうなっているのか見たい。
オレ達は一塊になり、扉内部へと足を進めた。
内部は真暗闇で何処に何があるのか見通せない。フィスフル氏が照明魔法を使ったお蔭でオレ達の周囲は見えるが、それ以外は何も見えない。
オレのマップには周囲に遮蔽物も何も映っておらず、只々だだっ広い場所のようだ。一体何なんだここは………。
『皆止まれ。何か聞こえます』
この中で一番耳が良いと言われるネル氏が一言呟く。オレには相変わらず何言ってるのか分からないが、何か聞こえるから止まれみたいな事を言ったようだ。確かにアウリィ氏の足音うるさいからな………。
アンデッド以外の息遣いだけが聞こえ中で、オレ達は耳を欹てる。
ブブブと何だか振動音?が聞こえる。これは、羽音か?蟲系モンスターでも居るのだろうか?
同じ事を思ったシーン氏がネル氏に詳細を聞いている。
『いえ、これは蟲の羽音ではありません。皆さんに判別し辛いとは思われますが、明らかに違う音です。私には何の音なのかは分かりませんが…』
どうやら、この羽音のような音の方へ向かってみるようだ。
オレのマップに何かが映る。この羽音はそこから発生しているようだ。照明魔法に照らされ姿が露わになる。
そのには、赤いボタンが付いた台座が鎮座していた。近くに寄ると若干振動しつつボタンが妖しく光る。
滅茶苦茶怪しい………。見るからに、押せ!みたいな雰囲気出してるけど、こんな怪しいボタン押す奴なんているの?まさか、他の奴等は押さないよな?
「これは………怪しい………な」
と呟くのは、シーン氏。良かった。正気な人で本当に良かった。
「うむ。見るからに怪しいが、まさか押してみる訳にも行くまい?吾輩は調査完了として、ここで撤退する事を提案するが、どうか?」
「罠の可能性が高いですね。潮時でしょう。トワさんの安全性が一番ですし」
ダタン氏とヘイズウルス氏が撤退を提案してくる。
オレも同意見だ。これを押してみようってのは自殺志願者か、頭のおかしい奴だけだろう。
「そうだな。このボタンを押す事で何が起こるのか確かめるのは今でなくともいい。二人の言う通り撤退で良いと私も思う。三人の意見はどうか?」
無言で首を縦に振るネル氏とフィルスフル氏。アウリィ氏の上半身は灯りの外なのでよく見えないが、異存はないらしい。
「よし。それでは、転進だ」
オレ達は光るボタンに背を向け歩きだした。いや、歩きだそうとした。
振動が激しくなり、それと共に点滅速度が早くなるボタン。うわ、これ絶対面倒臭くなるやつだ。皆が警戒する中、台座に罅が入りバラバラに崩れ落ちた。
もしかして、自らの振動で自爆したのか?一体何の装置だったんだこれ。
崩れた装置から、突如として光が立ち昇る。宙に映し出される途轍もなく大きな頭………これは、立体投射映像?
『押せよ!!』
デカい顔が開口一番そう叫ぶ。他の面子はそれを見て呆然としている。何か理解を超えたような奴が出てきたな。
「まさか………いや、まさか、クルジャン王………なのか?」
シーン氏が何か言ってる。もしかして知り合いですか?
『その通り。余は、クルジャ王朝第五代、“栄ある”クルジャンである。よく来たな闖入者共よ』
クルジャン?そういえば、このダンジョンもクルジャとかいったな?もしかしなくても、このピラミッドの持主なのか?となると、ヤバいな。どう見てもラスボスじゃん。隠しエリアに出てくるなよ。
『よく来たなと言ったが、この場所からはお引取り願おう。貴様らは、余自らが遊んでやる』
自称クルジャン王はニヤリと笑い、デカい顔の横に出てきた掌が指パッチンした。その瞬間、オレを襲う浮遊感。どうやら床が抜けたようだと思ったのはフィスフル氏の叫ぶ声が聞こえたから。
「浮遊Lv3!!………え!?何で!?」
フィスフル氏が宙に浮く魔法を発動させるが、何故か魔法は不発。
オレ達は諸共に落ちていった。