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胡散臭ぇ………。
どういうパーティ構成かは知らないが、明らかにオレより強そうな奴等の混成パーティだ。しかも、ダンジョン攻略のための調査とか言ってたし、これで弱い筈が無い。にも関わらず、貧相なスケルトンを誘うとかどういう魂胆なんだ?囮に使うにしても弱すぎるし、オレの装備や金目当てだとしてもこの場で殺ればいい話だ。アンデッドに敵意や悪意でもあるならベツだが、彼等のパーティには二体もアンデッドが居る。オレを騙すにしても少々迂遠な方法だ。何が望みなのかさっぱり分からん。
「あぁ。胡散臭いと思っているだろうから、トワさんを誘った理由を述べよう。まず、私達はこのダンジョンを粗方調査し終わったのだが、どうしても侵入出来ないエリアが在ったのだ。様々な手法を試していった結果、どうやら“旅人”が必要らしいという結論が出たのでな。トワさんが来てくれた事は正直な所、渡りに船だったのだ」
ふーん?プレイヤーが居ないと入れないエリアか。まさか、隠しボスでも居るのか?でも、何が在るにしろ難易度高そうだな。オレが行っても大丈夫なのか?いや、彼等が護衛してくれるみたいだし大丈夫か?こんな機会でも無いと、今後オレが高難度のダンジョンに行く事もなさそうだし、受けてみてもいいのではなかろうか?リスポーン地点を発見出来そうにない事は痛いが、こんなチャンスは滅多に無いだろう。
「あぁ、分かった。オレで良ければ同行しよう」
「ありがたい。では、コレを」
見えないシーン氏の代わりに、ヘイズウルス氏が青白いコインを手渡してくる。受け取った瞬間に溶けて消えるコイン。何だコレ?
「前報酬という奴だな。件のエリアに入り、私達の調査に目処が着いたら後の報酬を渡そう」
ところで、今さっきのコインは何だったのだろうか。所持金が増えてなかったので、金ではないんだろうが。周りの面子に変わった様子がないから、特別な品でもなさそうだ。
「そうか、分かった。それで、いつ行くんだ?」
「今から………と言いたい所だが、諸々考えて、明日にしようと思っている。トワさんは平気だろうか」
「あぁ。問題ない。シーンさん達は、明日までこの場所に滞在するのか?」
「その予定だ。トワさんの分も寝床を用意しよう。………ところで、トワさんは“食べる”方なのだろうか?」
この骸骨ボディで何を食べろと?答える代わりに肩を竦めてやった。
シーン氏は、オレのジェスチャーを見て一つ頷くような雰囲気を醸し出したあと、他の面子に指示を出し始めた。
飯を食べない連中………同族二体は、役割を終えた後オレの周囲に寄ってくる。
「ねぇねぇ。トワさんはイッカク?って所から来たって言ってたけど、イッカク?って何処にあるの?」
やけに馴れ馴れしい………もとい人懐こい様子で絡んで来たのは、死淵術師のフィスフル氏。このパーティの役割としては、純後衛なのだろう。七つの属性魔法を各種使い熟せると自慢してきたから間違いない。
「イッカクはここから大体、ずっと南に行った所にありますよ。イッカクは彩の都市って言われているらしいけど、オレは行った事ないんで」
「あぁ、あそこの国はまだ不死者を受け入れてはいませんからね。トワさんは、イッカク近郊の墓地出身という事でしょうか?」
丁寧っぽい口調で横槍入れてきたのは、尸魂司祭のヘイズウルス氏。役割は回復術師ってとこか。腐っても司祭なのだし。
「その通りです。オレはイッカク共同墓地って所が出身?ですね。オレ自体はイッカクに行った事はありませんが、イッカクに行った友人………幽霊ですが、門前払いを喰らったとか聞きましたね」
「へー。じゃあ、イッカクって所は生者しか居ない街って事?狭量って言うか、変わってるねー」
無邪気に暴言を吐くフィスフル氏。むしろ、彼等の国であるマルナロア共和国とやらはアンデッドも受け入れている国という事なのだろうな。オレとしては、そちらの方が変わってると思うのだが。
「南部は私達の神とは違う神の管轄ですからね。所変われば…というやつでしょう。私達がとやかく言うような事ではありません」
穏やかな声でフィスフル氏を諭すヘイズウルス氏。顔を隠しているためどんな表情をしているか分からないが、実質的に異教徒みたいなオレの事をどう思っているのだろうか。教義の解釈違いみたいな感じで不意に浄化されたりしないかしら。
そうだ。ヘイズウルス氏には、聞きたい事が有ったんだった。
「そういえば、何でオレが居る事が分かったんですか?あの森の中、見えていた訳ではないんでしょう?」
「あぁ。それは私の種族特性に起因するものなのです。端的に言えば周囲に居る同族の位置を、見えずとも把握出来るのです。これのお陰で私の役目を果たす事にも助かっていますよ」
なるほど。種族スキルか。それがあれば、回復術師としての状況把握能力を高めそうなスキルだな。
二体のアンデッドと和気藹々と話していると、飯の用意が粗方終わったのか他の面子も寄ってきた。
どうやら、食事の必要の無い二体は、退屈しないようにオレの話相手を買って出ていたようだ。
「楽しげな話の途中に失礼する。改めて礼を言った方が良いと思ってな」
湯気の立つ椀がふわふわと浮いている。という事は、身体が見えない夢影幻肢のシーン氏だな。宙に浮いた食器が椀の中身を掬い、そして消えていく様子を見るのは変な気分だな。シーン氏は透明という訳ではないので、食物が口に入った後は見えなくなるのだが、何だか手品でも見ている気分だ。
「礼なんていいですよ。まだ何も始まってないし」
「むぅ。そうなのだが、国許での私の立場としては気軽に礼を述べる訳にはいかないのです。ですので、言葉だけでも受け取ってほしい」
シーン氏は割と偉い立場なのか?この調査隊のリーダーとか言ってたし、マルナロア共和国の中でもそれなりなのかもしれない。
「シーンちゃんはぁ〜いつも堅いからぁ〜。あまり気にしないでねぇ〜」
頭上から間延びした声を響かせながら近付いて来るのは、単眼巨人のアウリィ氏。聞いた所によると、このパーティの中で一番年長者らしい(アンデッド除く)。人生経験も戦闘経験も豊富との事で、この調査隊に抜擢されたらしい。
『イッカクという街について聞きたいと思っていたのですが………』
アウリィ氏の足元をちょこちょこと歩いて着いてくる兜蟲人のネル氏。この人だけ他の人とは違う言語喋ってるような気がするんだが気の所為か?あと声が小さい。
「やれやれ。トワとやら、シーン殿の命による護衛対象といっても、吾輩の足を引っ張るのではないぞ?」
アウリィ氏の肩からスルスルと降りてきたのは、白面猿王のダタン氏。偉そうな口調で話す傲慢そうな猿だが、同じ卓を囲むのために付き合う辺り、悪い奴ではなさそうだな。
「ダタンさんは、種族に王って入ってますけど、偉い方なんですか?」
「うむ。吾輩は、獣帝様に認められた個であるからな。国の中でも十匹も居ない王の銘を名乗る事を許されておる。ほれ、頭が高い。控えおろう」
ハハーと悪ノリして頭を下げるフィスフル氏とネル氏、それと見えないと思ってるだろうけどシーン氏。それに気付いて冗談だと笑うダタン氏。
何だ。アンデッド含め多様な種族が居る変なパーティだと思っていたが、悪くはなさそうだな。