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足元に落ちている紅い落ち葉を拾う。持ってみて気付いたがこの葉っぱ、植物っぽくないな。
紅く鋭い葉は見た感じは楓に似ている。掌大の葉は硬く鋭く、そして脆い。どちらかと言えば、植物よりかは鉱物か金属かっていう感じだな。
刃物のような鋭さがあるものの、脆いため武器に転用するのは無理があるかもしれない。でも、土産話に使えるかも知れないし幾つか拾っておくか。
オレは落ちている葉を何枚か拾い上げ、アイテムボックス(要課金)に入れておいた。
この葉を持つ樹木を観察してみたが、幹は普通の植物のようだ。見た目も手触りも鉱物や金属風ではない。これで、何で葉はあんな物なんだ?となると、花や実はどうなっているんだろうか。何処かに生っていれば確認出来るのだが、これから進む方向にあるだろうか。
足元の落ち葉を踏んでみる。パキッという軽い音と共に割れ、小さい欠片が散らばる。
………これは拙いぞ。外套で透明化と気配隠蔽が出来るようになったが、音は別だ。何かに出会した場合、透明化気配隠蔽コンボで逃げるにしても、落葉を踏んで音を出してしまったら元も子もない。まぁ、いざとなったら死んだふりをするだけだが。しかし、死んだふりは無敵状態になる訳ではない。“黒疫”のキールに肋骨を強奪されたり、ゾンビに踏み潰されたりしたように、死んだふり状態で本体に何かされたらどうしようもない。
そんな危険性があるから、極力死んだふりは使いたくないのだ。
幸い、紅い葉自体はそんなに多く落ちている訳ではない。下草等は普通の植物っぽいな。ただ、油断していたらもっとヤバい植物が生えているのを見逃すかもしれない。周囲と足元に注意して進まなければならないだろう。
森に入る事暫し、特に事件もなく歩いている。何か余りにも平和過ぎて、イッカク共同墓地周辺の方が殺伐としていたような気がするぞ。あそこのエリア、いやにゾンビ多過ぎなんだよな。聞く所によると、あの“黒疫”のキールもゾンビだったらしいし。
最近はレイドボスも出てきたし、最初の街エリアの方が紅い森より危ないエリアなのではなかろうか。
マップを見つつ、例の建造物を目指して真っ直ぐ進んでいるのだが、特に脅威を感じるものにまだ遭っていない。これは、特に何かに出会う事なくピラミッドまで辿り着けるのでは?………いや、待てよ?何か振動が………。
立ち止まり耳を澄ましてみると、確かに何か聞こえる。足元も僅かに振動しており、紅い落葉がチリリと鳴いている。
振動は一定間隔で来るようだ。もしかして、これって何かの足音か?こんな振動が起きる足音ってどんだけデカいんだよ。何処から来るのか分からん。とりあえずは木陰に隠れて、いざとなったら外套のスキルを使おう。
暫く待っていると、足音のヌシが見えた。木々の間をすり抜けるように、一つ眼の巨人が歩いている。どう見てもヤバい奴だ。
巨人はオレから近くはないが、そんなに遠い訳でもない。進行方向を見る限り、こちらに来る訳ではなさそうだな。
とりあえずは大丈夫そうだ。暫くここに隠れて通り過ぎるのを待とう。
と、一つ眼がギョロリとオレを見据えた気がした。
馬鹿な。この距離でオレを察知出来るのか。まさか視線でバレた?流石に見詰め過ぎたってのか?こちらを見詰める巨人から背筋が凍るようなプレッシャーを感じ、オレは本能的に透明化、気配隠蔽を行った。
透明化したオレを見失ったのか、ギョロギョロと一つ眼を動かす巨人。頼む。気の所為だと思って去ってくれ。
願い虚しく、巨人は木々を掻き分けながらこちらに向かってくる。硬く鋭いはずの紅い葉は、巨人の肌に触れる端からペキペキと割られ地面に落ちていく。
うわ、強そう。あの紅い葉に負けない肌って何で出来てるんだよ。それとも、オレみたいに斬撃耐性持ちか?
巨人はオレの近くまで来た後、付近を探し始めた。明らかにオレの存在がバレている。透明化と気配隠蔽で感知は出来ていないようだが、明らかにオレを探している素振りを見せている。
ヤバいぞ。どう見ても強敵だ。それに、遠目にチラリと見ただけの骸骨を執拗に探すような執念深さ。
透明化したままこの場を離れたいが、残念な事に紅い葉が至る所に落ちている。これを踏まず、音を出さずに巨人の捜索網を突破出来る気がしない。もう死んだふりしてもいいかな?偏見だけど、この巨人、骸骨を見つけたらそのままバリバリ喰いそうな面してんな。
しかし、死んだふりをすると透明化と気配隠蔽が解除される。つまり、いきなりその場に骨が現れる訳だ。誰がどう考えても滅茶苦茶怪しいだろう。これは、死んだふり=死に戻りと考えてもいいかもしれない。
巨人が鼻を鳴らす。オレを見付けられず不機嫌なのか。だったら、とっとと帰ってくれないかな。
いや、待て。もしかして、嗅覚でオレを見つけようとしている?
確かに、今のオレは見えないだけだ。視覚以外で見付けられたら一溜まりもない。
あ、巨人と、目が合った。




