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リーン氏にオレの事を一通り説明し、とりあえずこの森の事を聞いてみた。
「アンデッドが多い理由? そうだな………。すまないが、分からない。何故ならば、私も最近………最近?目が覚めたばかりなんだ。この身体になってから時間感覚があやふやでな。それがいつなのかは私にも判断がつかない」
不死族は昼夜関係なく動ける上に睡眠不要だからな。生者の時の感覚からアンデッドになって、時間感覚が狂うのは分かる。まぁ、元々アンデッドであるオレの場合は、それ等に加えて時間層が違うからな。睡眠不要のスキルが有って良かった。
「私は元々この森の、トトリオと呼ばれる集落で暮らしていた森樹精だったんだ。その当時は平和な暮らしを送っていたのだが、ある時集落で病が蔓延したんだ。その病は不治の病………というよりは、完治する前にバタバタと死んでしまうという恐ろしい病で、恐らく私もそれに罹患したんだと思う。それで、気が付いた時にはこんな形で森に独りで突っ立っていた、という訳だな」
なるほど。リーン氏達、エルフは性質の悪い疫病に罹り、それが元で集落ごと滅んだという事だろうか。しかし、その死んだ時期が分からないという事だ。
もしかして、オレが道中出会ったアンデッドもそのトトリオとかいう集落出身の元エルフなのだろうか。リーン氏に遺留品を見せてみるか。何か分かるかも知れないし。
「これは………待て、見覚えがあるなような気がするな。少し貸してもらえるだろうか」
リーン氏に首飾りと耳飾りを手渡すと、それを光に翳したり、細部を見てみたりと仔細に観察し始めた。
見覚えがあるかもと言っていたし、もしかして知り合いの物だったりしてな。それならば、悪い事をしてしまったかもしれない。持ち主達は既にこの世に居ない。いや、そもそも彼等はアンデッドだから死んでいるけども。
「うん。思い出したぞ。この耳飾りはトトリオのリーフ姉の物だ。何処にあった? それと、この首飾りは恐らくトトリオの祭祀の者が身に着けていたものだな。誰かは知らんが」
耳飾りの方は知り合いが持っていた物のようだ。『リーフ姉』と言う事は肉親か。
とりあえず、リーン氏に返してもらいアイテムボックスに仕舞う。アイテムボックスに入れ直したそれらを見ると名称が変わっている。それぞれ『森樹精の何とか』から『リーフの耳飾り』、『トトリオ祭祀の首飾り』に変化している。これは情報が更新されたという事なのかな。やはりこのクエストはアイテム集める系なのだろうか。森に点在するアンデッドを倒して、このリーン氏に見せる事でクエストを進行させていくとかそういう事なのだろう。
そういえば、さっき倒したスケルトン達は何か落としたっけ?
チラリと散乱した骨を見ると、カタカタと動きながら徐々に一箇所に集まっていくのが見えた。おや? これってもしかしてまだ倒した判定になっていないのか? 骨が纏まっていくという事は復活する?
「お、おい。トワ、拙いぞ。貴方に取り憑いていたゴーストがスケルトンを再構成している!」
オレ達の目の前に、エルフゴーストが寄り集めたスケルトンが一体になり巨大骸骨兵を作り出していた。
まぁ、巨大と言っても所詮はスケルトンだ。
「はい。どーん」
オレの蟲人パンチを受けて再度バラバラに崩れるスケルトン。今度は復活しないように丁寧に頭蓋骨を潰しておいた。スケルトンを倒すと同時に、エルフゴースト氏も霧散したようだ。何がしたかったんだろうなアレは。
「え? あれ?」
強敵が出現したと思ったら、瞬殺された状況に頭がついていってないのか呆然としているリーン氏。
バラバラになった骨は黒い粒子に変わり空気に溶けるように消えていく。その後に残ったのは、金属で出来たようなバッジが数個と複雑な紋様が刻み込まれた腕輪。
「と、まぁ、こんな感じで、さっきの首飾りとかも手に入れたんだ」
「………なるほどな。つまり、リーフ姉もアンデッドになってしまったのか………。あぁ、それで、今落ちたこのバッジはトーリオ………別の集落だな。それの戦士階級の者が身に着けていた物のようだ。それと、この腕輪はエルフの既婚者が身に着ける結婚腕輪で、紋様からして女だな。………そうか、あの病で倒れたのは私の集落だけではなかったのか………」
リーン氏は少々気落ちした態度で佇んでいる。
瞬間、オレはビビッときた。面倒事の予感がする。いや、もう巻き込まれているだろとか言わない。リーン氏が何か決心する前に逃げ出さなければならない気がする。