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久しぶりな気がする山登り………というより、これは岩壁登りの割合が高い。現実ではこんな事出来そうもないため、今はこの軽い骸骨姿に感謝だな。
幾つかの岩壁を登りきった所で、ようやく頂上付近に着いた。ここより高い場所は見る限りでは何処にもなく、有るとすれば対岸付近か。中央付近は大河に落ちた分、若干凹んでいるようだ。天上大陸は森で覆われていたが、今は崩落もあって様変わりしている。天上大陸の中央付近にあった筈の天上都市エオルファンはここからは見えない。まぁ、こんな状況であそこがまともな状態で残っているとは考えられないが、もしかしたら避難民が居るかもしれないからな。
オレは崩落に注意しながら足元を確かめつつ、向う側へと歩いていく。元天上大陸は各所が崩落、もしくは亀裂が入り、その上を移動するだけでも非常に危険な状態だ。はっきり言って、通常時ならばこんな所には来たくもないんだけどな。だが、今はやらかした側の責任として惨状を確認する事は義務だと思っている。とりあえず、パピ•ヨン様氏がどんな状態なのかを確認したら帰るつもりではあるが、一体全体何処に居るのだろうか。
危ない場所を避けつつ、えっちらおっちらと進んでいると、前方にこの状況下では珍しく纏まった台地に白っぽい建物のようなものが見えた。
あそこに行けば誰かが居そうな気がするな。
………建物らしき物に近付いて分かったんだが、コイツは“解放の鐘(偽)”じゃねぇか。何でこんな所に?
鐘は横倒しになり、所々煤けていたり泥汚れが付いている。その周りには蟲人キメラ達が留まっているようだ。あの鐘を警護しているようにも見えるが、もしかしてパピ•ヨン様氏でも居るのかな?
「おや? トワ殿ではないですか。この状況でこんな所まで来て頂けるとは」
恐る恐る蟲人キメラ達に近付いてみると、その内の一人に声を掛けられる。どうやらオレを知っているらしいが、この蟲人キメラは誰なんだ? 顔は、まぁ………蟲なのでよく分からない。特徴と言えるものといえば、頭部から伸びる角………半ばから折れてしまっている。恐らく甲虫の蟲人キメラなのだろう。多分。
という事は? もしかして、“開拓都市シルハン”の衛兵隊長であるライルファン氏か? 何でこんな所に?
「ライルファンさん、お久しぶりです。オレはパピ•ヨンさんから連絡を受け取って、出来る限り急いで駆け付けた次第なんですが………何があったんですか?」
我ながら言い分が白々しいな。でも、彼等はこちらの事情を知らないので、こういう言い方しか出来ない。万が一バレてしまったらどうなるかは分かり切っているからな。
「私は下に居たので詳しくは知らないのですが、何やら強大な敵に襲われ、天上大陸が落ちてしまったようです。我々もその余波で何人も重傷者や死者が出ました。暫くシルハンで救助活動を続けていたのですが、パピ•ヨン様から命令を受け取りまして、こちらに来たのです」
下で働いていたら、パピ•ヨン様氏から鐘の警護に呼び付けられた感じなのかな。TYPE_R_03は蟲人キメラ諸共にエオルファンを落としたとか言っていたし、人手が足りなくなっているのかもしれない。それで、各都市から蟲人キメラを招集しているとか?
しかし、シルハンのあの惨状は何なんだろうか。ライルファン氏ならアレを知っているのだろうか。
「オレは下のシルハンから来たんですが、アレは一体何なんですか? 死体が放置されているわ、その死体の胸部から上が無いわで凄い不気味だったんですが」
「シルハンに放置した死体については、やむを得ず置いてきました。………我々にとってはパピ•ヨン様からの御命令は何よりも優先されるべき事柄なため、残念ながら死体の処理をしている時間は無かったのです。それと、胸部から上が無い者については………よく分かりません。重傷の者から順に突然頭部が爆発しまして………我々も突然の攻撃にパニック状態になってしまいまして。もしかしたら、パピ•ヨン様ならば分かるかもしれません」
突然頭が爆散した? しかも、重傷者から順に? どういう状況だよ。パピ•ヨン様氏なら何か知ってるかもしれないってか。やはり、彼女を探すしかないようだな。ここには居そうにないし、他の都市に行ってるとかなのか?
「なるほど。ところで、パピ•ヨンさんは一体何処へ?」
「天上大陸にある都市もこの有り様ですので、シルハンの対岸のハプルにいらっしゃるそうです。パピ•ヨン様だけでなく、エオルファンの住民はそちらへ、一時身を寄せていると伺っています」