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アルが機能停止した理由も、骸獣を倒した事の顛末も何も分からない。やはり、暇潰しなんて行かずに大人しく見守るべきだったか。
とりあえず、全てを見ていてたというクルジャン王の話を聞く事にした。
『あぁ、戻ってきたな。どうだ? 余の話を聞く気になったか?』
「あぁ、地上に出ても何も分からない事が分かった。あの後、どうなったのか聞きたい」
『よかろう。余が05殿の勇姿を余す事なく、薄情な貴様に語ってやろうではないか。
あれはそう、貴様が05殿の勝利を確信し、余の試練の間へと行った後であった。隔離空間に閉じ込めらていたと思われる骸獣が突如として凶暴化し、無理矢理拘束を抉じ開けてきたのだ。あの状態は、昔見た事がある。あれは、追い詰められた時にのみ生存本能から引き起こされる狂戦士化だ。骸獣が戦士とは片腹痛いが、効果としては同じような事だ。アレは身体のリミッターを無理矢理外して一時的にパワーアップをするものでな。大戦時に複数の骸獣が狂戦士化した時は、まさに阿鼻叫喚であったわ。己の損傷を一切考えずに全力を出し切り暴れ回るのだ。そんじょそこらの木っ端では相手にすらならない。大戦時でも、鬼神殿はそれに苦しめられていたというが。まぁ、その狂戦士化を使ったと思われる骸獣が05殿に飛びつき、一瞬の内に片腕を捩じ切り折ったのだ。動きが速すぎて余の目ではそろを捉える事は出来なかったが、05殿の片腕が突然飛んだ事からそう推測したのだ。しかし、05殿もさるモノで、飛ばされた腕を熱エネルギーに変換し、纏わりついてきた骸獣を丸ごと焼却したのだ。しかし、焼却された物は骸獣の極一部。対して、05殿は片腕を失い傷口からはエネルギーが流出しているようだった。その05殿は片腕を回復させるような素振りは一切見られなくてな。もしかしたら、骸獣に毒でも撃ち込まれて回復を阻害されていたのかもしれん。まぁ、片腕を失った05殿に対して、狂戦士化した骸獣という戦いになったのだ。我が投影映像の画面一杯に広がる骸獣の触手に四方八方から襲われる孤立無援の05殿の様子は、はっきり言って見ていられなかったが、貴様が居ない分、余が彼の者の勇姿を語らねばならぬと思ったのだ。地上一帯の空間全てを覆い尽くさんとばかりに拡がり、05殿を捕らえようと追う骸獣と、それを躱して包囲網から脱しようとする05殿の構図が出来上がってしまったのだ。05殿は果敢にも骸獣の魔手を躱しつつ、攻撃を加えていったが敢え無く捕まり、骸獣の触手内に取り込まれてしまった。これはもう駄目かと余が絶望に陥り掛けた瞬間、骸獣の内部から光が漏れ、その光に押しのけられるように爆散。どうやら、05殿が骸獣を大きく削るためにわざと捕まり、内部で溜めていたエネルギーをぶち撒けたようだった。しかし、05殿も無事という訳ではなかったようで、半死半生というものだった。具体的に言うと、両足がもぎ取られ、胴体には大きな裂傷を負っていた。しかし、大きく体積を減らしたとはいえ、骸獣はまだまだ健在といっていいものだった。対して、05殿は余の目からしても死にかけており、もはやこれまでと思わざるをえなかった。だが、余を含む凡百の生命の絶望を救い上げるのが、彼の者達だ。05殿は、再度眩い光を放ち姿を変えた。あの姿は、今迄の超大型の竜王種の姿ではなく、人間大の大きさのヒト型であった。恐らく、あのように小型化したのは目減りしてしまったエネルギーを効率良く回すためなのだろう。もしくは、骸獣の縦横無尽に飛んで来る触手を躱すためなのかもしれぬ。まぁ、そのような姿で、骸獣に対して攻勢に出た。小さな姿で骸獣の魔手を掻い潜り、光を宿した腕を一閃し、骸獣の身体を削る。その繰り返しだ。例えは悪いが、余には大型動物に集う妖精のような戦い方のようだと思ってしまった。しかし、その小賢しい戦法は存外に骸獣に効果的のようでな。奴は05殿を全く捕まえられず、魔手がその身を掠る事なく段々と追い込まれていったのだ。時間は掛かったが、遂には内部核が目視出来るまでに切り取る事に成功したのだ。しかし、自身の死期を感じ取ったのか奴めは暴れに暴れてな。その狂乱ぶりに05殿も回避に専念するしかなくなってしまったのだ。その一瞬の隙を突いて地中へと逃げようとする骸獣。そうは捺せじと自身を光の剣に変換し猛追する05殿。軍配は05殿に上がった。地に着く一瞬前に05殿は、骸獣の核を刺し貫いていた。如何に長年に渡りこの地の生命を吸い取ってきた骸獣といえど、核を両断されてしまっては生存は不可能。骸獣は光に溶けるようにして消えていった。残された05殿は、剣からヒトの姿へと変わり地に突っ伏していた。それから余の方を向き、消えていった。どうやら、余が見ていた事を感じ取っていたようだな。どういう理屈かは知らないが、彼等ならば余の目を感知する事は造作もなかったのだろう。骸獣と同じように空間に溶けるように消えていってしまったのは、余としても驚きだったのだが、恐らくはその身を修復させに拠点に帰ったのだろう。そして、それを見届けた余は貴様の事を思い出し声を掛けにいった、という事だ。まさか、試練の間へは“声”が通じ難くなっている不具合が起きているとは思わなかったが』
なるほど。ゾンビーフ氏並みに話が長い野郎だなと思ったが、クルジャン王の長ったらしい話のお陰で、ある程度は把握出来た。
アルは対骸獣のためだけに造られたワンオフの生物兵器ではあるが、実戦経験はなく今回が初戦となる。そこに少なくとも千年以上は力を蓄え続けた、化物級の骸獣との戦いになってしまった。
アルの機能としては、骸獣を倒すという事は可能なのだろう。しかし、損耗度が95%にも及んでいるのは、彼女の経験不足からくるものなのではなかろうか。アルの精神が変に幼いのも関係しているのかもしれない。
しかし、それも過ぎた話だ。アルが全損しなかっただけでも良かったと思わなくてはならない。今後は旅を続けながらアルの修復を待てばいい。
もしかしたら、さっき手に入れたアイテムで修復出来るかもしれないと思い、使おうとしてみたが駄目だった。やはり、これは強化素材という事だけなのだろう。回復アイテムとしては使えない事は分かった。やはりアルの回復を待つしかなさそうだ。
アルという最大戦力を失ってしまったが、オレがやる事は変わらない。今後はアルが居なかった頃に戻るだけだ。何も問題はないだろう。………多分。
(2022.09.29)
話の冒頭で、『とりあえず』を『トリカラバトル』に誤字っていたのを修正しました。
トリカラバトル…来なかったね…