12
ログイン八回目。
死んだふりから復帰後、灯りがあった場所を目指して歩き始める。
やや開けた所へ出ると、前回転がり落ちた尾根が見える。どうやら、この道はあの尾根から見た薄い森林地帯の中のようだ。つまり、この道を進んで行けば、例の灯りの場所へ辿り着けるという訳だ。
登山道を歩くこと暫し、例の灯りが点いていたと思われる場所に辿り着いた。
「ロッヂ“蜘蛛の巣”………?」
そこにあったのは、山小屋でした。
山小屋という事は、宿泊施設という訳で。NPCの施設かプレイヤーの施設かで割と変わる気がするのだが、どちらなのだろうか。いや、もしかしたら山賊のアジトなのかもしれない。ネーミング的に。オレはやや警戒しつつ中へ入った。
警戒しつつ入ってみたものの、中は無人だった。何かが居る気配は………よく分からんな。そもそも、そんな能力無いから居るのか居ないのか分からんし、プレイヤーメイドだとすると、ログアウト中とかかもしれない。
と思っていると、階段からミシミシと軋む音がする。誰かが上階から降りてきたようだ。オレはいつでも死んだふりが出来る準備をしておく。
「誰か来たかと思えば骸骨兵か。まさかここまで入ってくるようになるとはな。………ん? アンタ、もしかして旅人か?」
オレにそう問うてきたのは、所謂蟲人と呼ばれる蜘蛛みたいな見た目のヒトガタだった。
「いや、すまねぇな。普段タグを切ってるから異型種のプレイヤーとモンスターの区別が付き難くてな。そうだよな、モンスターがホームへ入ってくる筈ないよな」
蜘蛛人間は何だかよく分からないが、一人で納得している。この蜘蛛人間の名前は、“ダーマ”というようだ。
「あぁ、アンタ新規参入者か。『何だかよく分からない』みたいなリアクションの薄さで分かるぜ。まぁ、軽く説明するとだな。ここは、エンデス山脈に幾つかある山小屋の一つ。“ロッヂ蜘蛛の巣”で、俺が開放している臨時ホームだ。そして、俺がオーナーの蟲人の蜘蛛男のダーマだ。よろしくな」
「あぁ、オレはトワ。確かについ最近始めたばかりで、種族は骸骨兵だ。見れば分かると思うが」
ところで、蜘蛛は昆虫ではない筈なんだが、蟲人の一部扱いなんだな。まぁ、じゃあ何処に入れんのって話になると何とも言えない。
「で、臨時ホームというのは、所謂宿泊施設だな。ここには、プレイヤーも住人………NPCでも誰でも宿泊する事が出来る。勿論金は取るがね」
「なるほど。普通の山小屋って訳か。いや、良かった。実は遠目でここの灯りを見てて、もしかしたら山賊のアジトかもしれないって思ってたからな」
まぁ、ダーマ氏の見た目は山賊と言われても不思議ではない面構えなんだがな。
「よく言われるぜ。で? どうする? 泊まっていくか? ここに泊まれば、リスポーン地点に追加出来るぜ?」
「あー………リスポーン地点かぁ………そうしたいのは山々だが、残念ながら金が無い。PKに有り金全てブン捕られた上に、盗った奴は消去されたからな」
「あぁ………あの馬鹿共の被害者か。それは災難だったな。っていうと、イッカクの所か。………ん? 待てよ? トワさん………アンタもしかして、イッカクの墓地から、ここまで来たのか?」
「ん? 何かあるのか? 確かにオレはイッカクの共同墓地から歩いて来たけども」
「マジか。あの黒疫をパスしてきたのか………」
「???」
「あーっと、実は、ちょっと前まではイッカクからここの登山口辺りまでの比較的安全なルートがあったんだが、馬鹿がやらかしてな。以来、“黒疫の”キールっていう森黒豹のユニークボスが徘徊するようになっちまって、イッカクからのルートが使えなくなったんだ」
「へー、そんな奴が」
いや、遭ってるけどね? オレは運良く、死んだふりでスルー出来たが、あの圧倒的な威圧感はユニークボスだからか。しかし、あんな奴が徘徊するようになったとか何やらかしたんだそのプレイヤーは?
「まぁ、そんな訳で今はそこら辺の情報が無いんだよな。ってな訳で、トワさんのマップ情報を買わせてくれないか? ここの宿泊費もオマケしてもいいぜ?」
「え? そんなモノでいいのか? オレの持ってるマップなんて有り触れたモノじゃないのか?」
「いやいや、生きている情報ってのは武器になるんだぜ。俺は黒疫が居るエリアに行くのは御免だからな。それに、トワさんは不死族だから、食費は要らんだろ?普通の人間種よりも安く済むぜ? 場所代だけだからな」
「なるほどな。じゃあ、それで頼む」
オレはダーマ氏にここまでのマップ情報を売り、部屋に案内された。
山小屋にしては珍しく個室だ。だが、ベッドが置いてあるだけでとてつもなく狭い。どうやら、この部屋はプレイヤー専用で、実質ログアウトするためだけの部屋のようだ。
オレは、ステータス画面からリスポーン地点を設定し、念の為死んだふりをしてからログアウトした。