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『貴様、今何と言った?』
クルジャン王はオレへと掴み掛かり、そのまま擦り抜けた。ホログラムだからな。だが、このただ事ではない様子に少し動揺する。
どうやら骸獣の事を知っているようだが、この反応は………果たしてどちらの陣営なんだ?
「骸獣の事を知っているのか?」
『当たり前だ! 余の治世の間に何度煮え湯を飲まされたか! 忌々しい害獣めが!!』
何だか恨みが深そう。というか、骸獣討伐の当事者だったのか。でも、紅耀樹の事は知らないみたいだし、どういう関係なんだろうか。
「あー、つまりアンタは骸獣と敵対関係にあるって事でいいのか?」
『アレに協力するような不届き者が居るのか? まさか貴様ではあるまいな? もしそうならば、ここで処分するのも吝かではないが』
クルジャン王から発せられる殺気。いや、これはオレの周りの空間が圧縮されつつあるのか? その証拠に目の前の空間が不自然に歪んでいる。何だか見た事ある光景だが、自分が受ける事になるとは思わなかった。
「いや! オレは寧ろ奴に敵対してるから! なんならオレの仲間が骸獣討滅している最中だから!」
『………何だと? 貴様がアレの協力者であるかどうかはこの際どうでもいいが、貴様の仲間が? “旅人”が骸獣討滅中だと?』
「いや、“旅人”ではなく竜王種だ」
実際には竜王種ではなく、対骸獣用の生物兵器なんだが。
『竜王種? 王種とはいえ、蜥蜴如きにアレが太刀打ち出来るとでも思っているのか? それに、肝心の骸獣は何処に居る? いや、待てよ? 今迄の貴様の言動から察するに、墳墓近くに居るのだな? 何処だ? さっさと吐かねば圧し潰すぞ』
何だか凄い殺意マックスですねこのヒト。何か身体がミシミシいってるぞ。
いくらパワーアップしたとしても所詮は骨。このままだと死に戻りしかねない。そうなってしまえば、必然的にアルも一緒にリスポーン地点まで戻る訳で。そのためにも、さっさと誤解を解かないとだな。
毎度こういうピンチの時に思うけど、スケルトンボディで本当に良かった。ゾンビーフ氏のように肉があったらこういう時に邪魔して話せないかもだが、骨だけだと口を閉じてても話せるからな。
「骸獣は紅耀樹という奴だ! 奴は長い間、樹精霊の擬態をしてこの土地の地脈エネルギーを吸い取っていたんだ!!」
『馬鹿な………。紅耀樹が骸獣だと? 適当に言ってるのだろう。それとも、証拠でもあるのか?』
証拠は、アルが知ってるとしか言いようが無いんだよなぁ。それに、アルは地上に居る。つまり、オレが今ここで説得出来るような証拠は無い。
「証拠は、無い。オレの仲間が紅耀樹が骸獣だと断定しただけだ。オレの仲間は骸獣を殺す事を使命だと考えているような奴だ。オレはアイツの嗅覚を信用している。オレが話せるのはそれだけだ」
『ふむ。嘘を吐いている訳ではなさそうだな。で? その仲間というのは、何なんだ? まさか本当に竜種という訳ではあるまい? あの蜥蜴共は腰抜けの集まりだからな。骸獣に対して使命感を燃やすような種族ではない』
竜種さん達、酷い言われようだな。昔何かあったのだろうか。クルジャン王の竜種に対する評価が底辺なのは置いておくとして、アルの正体をバラしてもいいのか?
クルジャン王はTYPE_Rの関係者ではなさそうだが、骸獣が蔓延っていた時代の当事者だ。アルの正体を明かす事のデメリットは………。考えてみれば特に無いな。強いて言えば、事が他プレイヤーに対して公になってしまったら、オレが村八分にされるかもって事だ。しかし、クルジャン王はプレイヤーではない。ここは、腹を括って話すべきだろう。