『侯爵夫人の長い一日』を添削する妄想はありかなしか
国民は家族を築き税を収めるという法のもと書かれたフィクションになります。正妻に落ち度はなく、不貞を働きスリルを貪った彼等の末路に苦情は受け付けません。読みたくない人は読まないでください。正妻に落ち度はないという前提で書かれたフィクションです。
『帝国随一の家具師夫婦プッテンジールが手掛けた応接セット、ソファ、テーブル、キャビネット、チェスト、猫脚椅子、ミラー。夫トーマスがデザインし、妻カトリーナが製作する彫刻が美しい家具はどれも賛美された。
私はそれらを眺めながらソファに座り、モコモコ綿の入った丸クッションをだき抱かかえた。』
はい、まずここ。妄想ポイントひとつめ。 ルイはモコモコクッションに顎をのせ、癒されながらソファに座り、お気に入りの家具を眺め、記憶の中へと思いをはせていきます。
『親友のカトリーナをお茶に誘うといつも夫の愚痴が出た。トーマスは商才はあるが画才はない。トーマスが適当に線入れしたデザインとも呼べない落書きに、カトリーナがデザインを上書き、製作しているという。
「見栄っ張りなんだからっ」
ぷんすこと怒って頭から湯気が立つカトリーナ。
惚れた弱みとはいえ、女は弱い生き物であると思う。
人前では威張り散らして出来の悪い妻で、と言うのが口癖。家に帰るとまるで別人のように愛らしい眼差しを向け、君にはいつも助けられてばかりだごめんね、と胸をきゅんとさせられて許してしまう。』
妄想ポイントふたつめ。 ルイが想いをはせる、親友カトリーナとの思い出。カトリーナという女の一生。ルイはカトリーナとの交流を思い出しながら、カトリーナがこの世に生きていた軌跡を脳内でたどって、慈しんでいます。なぜなら。
『そう言って苦々しく笑っていたカトリーナは先月亡くなった。』
そう。カトリーナが亡くなったからです。カトリーナの死を哀しみ慈しむ、カトリーナへのルイの愛情がこの想いをはせる時間にあらわされています。しかし。次の瞬間、ルイの美しく愛おしい思い出が穢されてしまいます。
『昨日、付き合いのある伯爵主催のパーティに参加したら、後妻を連れたトーマスが来ていた。』
はい。愛人の登場ですね。
『もう再婚かよと顎が外れるかと思った。エリザベスと名乗る女はシワだらけの私を見てフフンと勝ち気に口角を上げたのを私は見逃さない。』
エリザベスという醜い女は、ルイの中の美しく彩られた幸せな記憶に泥をぬりました。
『カトリーナ。私ももうすぐそっちに行くからエリザベスの悪口でお茶を飲みましょう。ぐっと握った拳に力が入る。』
はい、妄想ポイントです。 ぐっと拳に力が入るルイ。エリザベスという女に対する並々ならぬ思いが感じられますね。そしてここから時が流れ、ルイの夫の死へと繋がります。
『秋から冬の季節の変わり目は気温差が激しく、見初められて結婚し、長年連れ添った夫が大往生した。
「誰よりも君が好きだ。ひとときもそばを離れたくない。」
熱く語る夫との出会いから今まで、とても優しく、時には短気な夫との生活を思い出していた。』
大恋愛から共に苦楽を乗り越えて年を重ね共に年をとったと、ルイが夫への慈しみを感じながら棺に寄り添い、最後の別れがいとおしいと切なく涙が溢れそうなルイ。
『私ももうすぐ。そう思って夫の棺に寄り添っていると、黒いドレスだがフリルや装飾品を身に着けた派手な女が近付いてきて言った。』
ルイの涙が引っ込みます。はい、出た。ルイの幸せなひとときをぶち壊すためにあらわれた派手女。浮気キャラ確定キャンディスの登場です。
『「貴方が侯爵夫人?初めまして、私はキャンディス・モリス、侯爵の愛人ですわ。侯爵の息子もひとりおります、夫人はお子さんがいらっしゃらないとお聞きしております。ですから、、うちの子が侯爵の跡取り、ということになりますわ。」
派手女はベラベラと、葬式後は屋敷から出て行って欲しいだの今まで贅沢な暮らしができたんだから十分でしょだの、一番聞き捨てならないのが、もう愛されてもいないのにいつまでも彼に縋って居座って恥ずかしい人、という嘲笑だった。』
言わなくてもいい事を言わずにはいられない女、それがキャンディスです。自分以外にも幸せになる権利があるということに思いがいたることは決してない、それがキャンディスです。
『どいつもこいつも。最近の愛人というやつは矜持がない。恥知らずはお前達の方だ。浮気?不倫?それがどうした。それくらいでいちいち狼狽えていたらキリがない。だがしかし。嘲笑はいただけない。愛人のくせに正妻が亡くなってすぐさま後釜に入ったり、愛人のくせに葬式にデカデカと顔を出し正妻を罵るなど、なんて愛人とは醜い生き物なのか。』
はい、妄想ポイント入りました。 愛人がいることなど百も承知、それがどうした。そんな些細なことなどすでに、夫と罵り合う喧嘩などしたりして、そんなこともあったわねぇとお茶を飲むルイを妄想してもいいのです。そうです。ここで思い出してください。ぐっと拳に力が入るルイです。エリザベスを見て愛人とはなんと醜い、と拳に力が入るルイです。もしかしたら夫の愛人もこの女のように人の幸せを平気で踏みにじるやつかもしれない、いいえ、私の愛する夫にかぎってそのような女を愛することなどあるはずもないわ、というルイの思いが拳に握られているのです。人の幸せを平気で踏みにじってと追い詰めれば、そんなこと思ってない平気なんかじゃないと首を振る女それがキャンディスです。平気じゃない人はしないんですよ?という言葉の意味を理解したくないのか出来ないのかただ首を振る女、それがキャンディスです。
『昔の愛人には美学があった。儚げな色気といじらしさに男達は群がるのだ。
愛人とは、正妻にはない、魅惑なスリルと欲望の象徴であるべきだろう。それが、今目の前にいるこのアバズレは何だ。こんな女に子供まで生ませるような男が私の夫だというのか。』
はい、残念ながらアバズレでした。
『否』
ルイの、夫と決別する強い意志が感じられます。
『私は左薬指の小さな宝石のついた指輪を抜き取った。封印の指輪。ドンバリンゴゴゴン。衝撃が頭の中を突き抜けてゆく。
古の魔女、最後の生き残り、ハーレクイーンオブハート。
ぐにゃり。私の人差し指と親指が、封印の指輪をひねり潰していた。
白髪の枝毛髪に魔力が流れ、キラキラとした流星群が髪に流れると艶のある金色の髪へと変わった。
濁った瞳に生気が戻り、美しいエメラルドのような輝きに、長い睫毛まつげがパサリと揺れる。
ふくよかな四肢は細く、二重顎はなくなり、垂れた乳房がむくりと上向き跳ね、丸まっていた背中がピンと伸びる。ウエストはキュッとくびれ、尻肉にぷりっとした弾力が戻り、指先に真っ赤なマニキュアが塗られた。
ぷっくりとした瑞々しい唇、シワもシミもない。』
悠久の時を生きる魔女の登場です。
『顎が外れた愛人が呆然と私を見ている。』
ざまあ。
『私は寄り添っていた棺から手を離して立ち上がり、「解除」と唱えるともう何の未練も憂いも感じなくなった死体から祝福の指輪を回収した。
「そんなに欲しいのなら差し上げてよ。私のもの以外。」
私はそう言って、パチンと指を鳴らすと使用人が消えて鼠になった。パチン、プッテンジールの家具や絵画、雑貨が消える。パチン、屋敷が消え、棺だけが残った。
「どうぞお好きに」
空き地に何もなくなった背景で彼女にニッコリと微笑んでくるりと背を向けた。』
愛しさと切なさと、そこからひとりで立ち上がる強さ。はい、妄想ポイントです。もう息もしていない夫につけていた祝福の指輪、ルイの夫に対する深い愛情が見てとれます。しかしそれはもう儚くも消え去った夢であったと切り捨てるルイ。取り残される夫の棺に、可哀想じゃない!死人に鞭打つ真似をするなんて!とルイを責めるキャンディスが妄想できます。ですが勿論これは、キャンディスが自分を正当化する為の偽善であることは正妻側からすれば一目瞭然です。ルイはキャンディスに一切の情をかけることなくスッキリとした笑顔でその場を去りました。そのような女に手を出した男の自業自得。末路。種明かしは誠にゲスの極み。他の作品でもキャンディスはあらわれます、正妻をこき下ろし、自分を褒め称えます、それがキャンディスです。
真実の愛を失い、これからも、悠久の時を彷徨うルイには必然ともいえる断罪劇だったのではないでしょうか。美しく若く、時を取り戻すことのできるルイだからこそ出来たといえます。いや、ここはもっと何か素敵な妄想が出来そうですね。今は思いつかないのでとりあえずスルーで。
『澄んだ空気、そよ風に揺れる木々が擦れる囁き、私だけがまたここに戻ってきた。』
もやもやとした思いをいだきつつ帰ってきたルイ。
『「、、はあ。あともう少しだったのに。」
「おかえりなさいませ、ルイ。」
ログハウスから出てきて、柔らかな微笑みで私の手を握るグレーテルは、ただそれだけで私の心を癒してくれた。
「ただいま、グレーテル。」』
ルイを癒すグレーテルの存在とは、どういったものなのでしょうか。ルイ自身、まだ気付いていないのかもしれません。
『真実の愛だけが魔女に永遠の安らぎを与えられる。』
ルイにとって、真実の愛とは、ともやもやします。ルイの過去にこの謎を解くヒントがありそうです。
『眩しい太陽が空に照りつけ、まだまだ今日という日が終わらないのだなと、疲れた肩をガックリと落とす。』
タイトルの回収です。
『「お茶にしますか?焼いたばかりのアップルパイがありますよ?」
まあ、グレーテル、もうそんなことも出来るようになったの?
私は愛しくてグレーテルをぎゅっと抱きしめた。
「いいわね。何だかグレーテルのおかげで元気が出てきたわ。久しぶりに暴れたいから午後はドラゴン退治がいいわね。ドラゴンのステーキは魔力が満ちるから好きなのよね。」
私とグレーテルは手を繋ぎ、ログハウスに入っていく。
「そうそう。グレーテルにお土産があるの。友人からとても素敵な家具をいただいたのよ。どこに飾ろうかしら。」』
悠久の時を生きるルイの日常がまた始まります。
おしまい
読むなと言われても読んで憤るのがキャンディスですが、いつか、キャンディスが正妻になり、全ての業がふりかかるその時キャンディスは、、、そんなお話しも書いてみようかな。でもそれだと救いがないよねえ、とも思う。キャンディスにとっての真実の愛はちゃんとキャンディスに見えているのか。人の幸せを手に入れればそれは自分の幸せになるという漠然としたものにすがりつく、幸せが何なのかわからないキャンディスには幸せそうな人の幸せを奪うことでしか手に入れられないのかもしれない、と思い込んでいるのかもしれない。