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005「一般少年、過去を話す」

「じゃあ修斗さん、さようなら!」

「ああ、じゃあな」


 あれから数日後の金曜日。学園祭まで残り一週間。放課後は宮川も軽森も藤田も忙しそうにしている。一般人である俺はいつも通りに帰宅するだけだ。校内でダラダラしているのも居心地が悪いので最近はより早く帰路についている。

 今日もさっさと帰ろうと玄関に向かうと、俺の下駄箱の前に立っている生徒が居た。


「やあ、待ってたよ。木崎君」


 桜庭(さくらば) 蒼空(そら)だった。


「何の用だ?」

「何の用……ってほどのこともないけどさ。ほら前に言ったでしょ、今度ゆっくり話そうって」


 心底……本当に心の底から「面倒な奴に捕まったな」。そう思った。

 俺と桜庭は食堂へと移動する。

 食堂は生徒は全くおらずほぼ貸し切りのような状態だった。アイドルはライブの練習で忙しいし、そうでない生徒は俺のように居心地の悪さを感じて帰宅しているのがほとんどのはずであることを考えれば当然と言えば当然だった。

 俺たちはその中でも入口から見て奥の方にある窓際のテーブルに座る。


「何か飲む? 時間取らせてるのは僕だし奢るよ」

「……お茶でいい」

「ここの食堂、緑茶とウーロン茶あるけど」

「緑茶」

「了解」


 桜庭はすたすたとカウンターへ歩いて行って飲み物を注文していく。俺は視線を外し食堂の窓から外を眺める。

 外では至るところでアイドルが練習に励んでいるのが目に入る。比べるのも烏滸(おこ)がましいかもしれないが、まるで部活動のようだとそう思った。


「はい。お待たせ」


 桜庭が俺の目の前に緑茶の入ったコップを置いて正面の席に座る。


「さて、何から話そうか」


 お前が誘ってきたんじゃないのか。反射でそう言いそうになったのを堪えて別の質問を口にする。


「あんたはいいのか? こんなところで油売ってて」

「え? ああ。僕は学園祭出禁になってるんだ」

「は?」


 せっかく堪えたのを無に帰すように素っ頓狂な声を出してしまう。


「ちょっと前までは出れてたんだけどね。学園祭って世間へのアピールの面が強いじゃない? そこに僕が出ると僕以外目立たなくなってしまうらしいんだ」


 平然とした顔でそう言い放つ桜庭。

 世界でこいつにだけ許されるような発言だが、それすらすんなりと納得させられてしまうほどの奴自身から発されるオーラと圧倒的なまでの知名度。


「まあでも僕自身も学園祭関係なしにずっと忙しいし、他の人の邪魔をしたい訳じゃないからね」

「そんなあんたが俺に構うのは何故だ? そもそも何故俺を知っている」


 桜庭はコーヒーを一口飲んでカップを置き、一呼吸おいてから口を開く。


「一つずつ答えよう。まず何故君を知っているのか。答えは単純。君がバスケットボールをプレイしているところを見たことがあるからだ」

「……」

「僕はスポーツ観戦が好きでね。特に学生のスポーツの全国大会は可能なら現地に見に行くようにしているんだ」


 ここ最近よく見る『好きなものを語る姿』を見て嘘をついている訳ではないことを直感で感じ取る。


「君を知ったのは二年前、君が中学三年生の時だ。明らかに周りとはレベルの違う君のプレイを見て僕は心を奪われた。そして思ったよ。『天才だ!』とね。事実、君たちの学校は決勝ですら赤子の手をひねるように優勝を決めてしまった!」


 徐々に興奮して声が大きくなっていた桜庭は一度落ち着いて咳払いをする。


「一年後の高校一年生になった君はそこでも素晴らしいプレイを続けてチームを全国大会優勝に導いた。名実共に天才と呼ばれるようになった君に僕は心酔していたと言っていい」

「あの桜庭 蒼空にそう言われるなんて光栄だね」

「だから驚いた。今年君の姿がそこになかったことにね。さて、じゃあ二つ目の質問。何故僕が君に構うのか。僕は一つ質問がしたかったんだ」


 いつの間にか桜庭は先ほどまでの楽しそうに好きなものを語っている顔ではなく、俺を真っ直ぐ睨みつけるように見つめていた。


「何故君は今年あのチームの中に立っていなかった?」


 ……本当に勘弁してほしい。なんでアイドル学園なんてところまでわざわざ来て俺のことを知ってる人間に会わなきゃならないんだ。しかも桜庭 蒼空なんていう本来であれば俺と絶対に交わることのなかったような人間に。

 俺はここ最近でも一番の特大ため息をつく。


「しょうもない理由だよ。生意気な後輩に天才って呼ばれてたことに因縁付けられて大喧嘩して仲良く停学。復帰以降は前から気に入らないと思ってたらしい部長にも外堀埋められてチーム内から迫害。そんで萎えて退部」

「馬鹿な! そんな理由で才能を棒に振ったって言うのか!?」


 桜庭はテーブルを叩いて勢いよく立ち上がる。俺は目の前のお茶を手に取り、半分くらいまで飲んで再びテーブルに置く。


「そんな理由って。チームで迫害されたらバスケなんてできないだろ」

「そうじゃない! 転校してチームを変えるとかいろいろあるだろう! なぜそうしない!?」

「たかが部活でそこまでするか?」

「たかが!? たかがって……ああくそっ」


 桜庭はやり場のない怒りを治めるように粗雑(そざつ)に椅子に座り直しコーヒーに口を付ける。俺自身の何倍も俺の才能の心配をする桜庭がなんだかおかしくて笑ってしまう。それを見た桜庭に不思議そうな目で見られる。


「悪い。俺のことを俺以上に俺じゃない他人が怒ってる状況がなんだかおかしくてな。気を悪くしたら謝る」

「いや大丈夫……」

「そりゃよかった。……まあなんだ、言っちゃあなんだけど俺別にプロになるつもりとかは微塵もなかったからな」

「え……?」

「話ぶりからプロになるだけの実力があるのにって雰囲気を感じたからさ。二回も全国優勝してて説得力はあんまないかもしれないけど、俺バスケで勝たなくても別にいいんだよな」


 呆気に取られたような表情のまま固まった桜庭を気にせず俺は話す。


「単純にバスケが好きで休み時間とかに友達とやるようなあっさいバスケがすげぇ好きなの。でも十人バスケする人数集めるのって面倒くさいし実際集まんないんだわ。だから仕方なくバスケ部に居たんだよ。勝利至上主義みたいな雰囲気になる部活動は好みじゃないし、その環境がダメならそれでいいやっていう。ボール触る分には別に一人でもできるしな」


 自分の考えとかをこんなにベラベラと喋ったのは初めてだった。

 それが桜庭自身のオーラとか雰囲気がそうさせたのか、桜庭がまるで自分のことのように怒ってくれたからなのかは分からない。

 桜庭は目を細めてフッと笑う。


「そんな君のプレイだからこそ、僕を―――人をあれほど魅了したのかもしれないね」


 最後の一口を飲んだ桜庭はカップを受け皿の上に置く。


「それは知らん」


 俺は残りのお茶を飲み干して席を立つ。それに合わせるように桜庭も席を立つ。


「ふふっ、益々君に興味がわいたよ」

「どーも」


 俺たちは容器をカウンターに返し食堂を後にする。食堂を出た直後、ちぃちゃんが食堂に向かって廊下を走ってくる。


「廊下は走ったらダメじゃないですか? ちぃちゃん」

「す、すみません……! じゃなくて、宮川さんをどこかで……あ、れ、連絡取れませんか!?」

「宮川にですか?」

「はいっ!」


 なんだかよく分からないが急いでるらしい。放送なりで呼び出しゃいいんじゃないのか……?

 そう思いつつスマホを取り出し宮川に連絡を取る。


「急ぎなら電話の方がいいんじゃないかな」


 後ろから桜庭が口を出す。


「……電話でも大丈夫ですか?」

「すみません、お願いします!」


 宮川に初めてかける電話がこれでいいのか? と若干思いつつ、ちぃちゃんの顔が真剣そのものだったため躊躇わず電話をかける。


『もしもし、えと、修斗さん……?』

「もしもし。悪い、今ちぃちゃんに会って宮川に緊急で連絡があるらしいみたいで連絡できないかって頼まれた。代わっても大丈夫か?」

『あ、はい。わかりました』


 俺はちぃちゃんにスマホを差し出す。ちぃちゃんはもう一度軽く頭を下げスマホを受け取った。


「もしもし、宮川さん。急にすみません。緊急でお伝えしなければならないことがあって……」


 大分走り回ったのかちぃちゃんは肩で息をしながら電話をする。


「学園祭で宮川さんと同じグループの、岩井さんと玉城さんが……交通事故に遭ってしまって病院に―――」

「なっ!?」


 思わず声を出してしまい慌てて口に手を当てて塞ぐ。


「……はい。詳しい話は職員室で。はい。ではまた後で」


 電話を終えてスマホの通話終了を押すちぃちゃん。


「木崎君、ありがとうございました。助かりました」

「先生、今のは……」


 ちぃちゃんからスマホを受け取りポケットにしまう。同時に桜庭がちぃちゃんに問いかける。


「……はい。宮川さんは学園祭に出るのは難しいかもしれません……」


 俺と桜庭は揃って絶句してしまう。


「すみません、私は職員室に戻って宮川さんと運営担当の先生を交えて相談をしなければならないので失礼します……」

「待ってください。僕たちも一緒に話を聞かせてください」

「え……?」

「は……?」


 突然変なことを言い出す桜庭に今度はちぃちゃんと揃って愕然(がくぜん)とする。


「えっ……と、あまり関係ない生徒は……」

「スマホの件、借りがありますよね?」

「えぅ……」

「話を聞くだけでいいんです。僕も修斗君も宮川さんが心配なんです」

「わ、わかりました。行きましょう」


 ちぃちゃんは渋々了解して職員室へと向かって歩き出した。


「おい、何考えてやがる。宮川と会ったこともない癖に適当まで言いやがって」

「心配しているのは本当さ。さあ、早く行こう」


 奇妙な行動をする桜庭に一抹の不安を覚えながらも俺たちは職員室へと向かった。

 職員室へ着くと既に宮川が到着しており、恐らく運営担当の教師と思われる人物と話をしていた。


「すみません。遅くなりました」

「ああ、伊東先生……後ろの二人は?」


 露骨に不審な視線を向けられる。そりゃそうだ。


「僕たちたまたま伊東先生と一緒に居て、宮川さんが心配で付いていきたいとお願いしたんです」

「……そうか」


 疑惑が晴れた訳ではないだろうが今はそんなことを追求している場合ではないという感じだろう。


「あの、二人の容態(ようだい)はどうなんでしょうか……?」


 宮川が恐る恐ると言った様子で問いかける。


「二人とも命に別状はない。だが、二週間は安静が必要だと伝えられた」

「そうですか……」


 そう聞いた宮川はホッとしたような思い詰めたような表情だった。


「それで、宮川さんの学園祭はどうなるんでしょう……?」

「伊東先生……酷な話ですが今からメンバーを二人補充するのは難しいでしょう。ほとんどのアイドルは既にグループが決まっているし残りも一週間しかない」


 それを聞いたちぃちゃんは絶望に打ちひしがれたように項垂(うなだ)れた。


「……私、お二人の練習についていけなくて……そんな私にお二人は近くのコンビニに甘いものとドリンクを買ってきてくれるって言ってくれて……私は足を引っ張ってしまっただけなのに甘えてしまったんです……だからきっとこれは私への罰なんだって、そう思います」


 涙声でそう話す宮川に俺たちは声をかけることができなかった。ただし、奴を除いて。


「それはおかしいと思うな」


 そう言い放つ桜庭。


「え……?」

「だってどう考えても宮川さんは悪くないじゃない。今回の件だって『たまたま運悪くこうなってしまった』だけなんだよ。身も蓋もない言い方をしてしまうとね」


 あくまで客観的視点から話をする桜庭。

 本質を突いたようなその話し方はまるで「お前が責任を感じていること自体が烏滸(おこ)がましい」そう言っているように錯覚してしまうほど冷淡だった。


「ちょっと、桜庭く―――」

「宮川さんっ!! 君が今しなければならないことは後悔でも反省でもない。一秒でも長く学園祭ライブの練習をすることだ」

「さっきも言っただろう、桜庭。今の時期に参加表明をしていないアイドルなど―――」


 運営担当の教師が全てを言い切る前に桜庭は教師の前に手をかざして静止を(うなが)す。そしてその手を自分の胸へと持ってくる。


「日本一のアイドルがここに居ますよね?」

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