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OPEN THE PRICE

作者: しいたけ
掲載日:2020/11/07

良い仕事してますねぇ!!

 建て付けの悪いドアを開け、胡散臭い骨董屋へと赴く。


「茂吉よ~いるかー?」


 呼び慣れた旧友の名を呼び、店の奥へと進む。するとそこには競馬新聞を丸めてテレビに齧り付く茂吉が居た。


「そこだ!! いけ!! いけーーーー!!!!」


「おーい、茂吉やーい……」


「バカッ!! アホッ!! マヌケ!! 走れ!! 抜けっ!! やれーーーー!!!!」


「茂吉ー」


「今だ行け行け行け行け──アーッ!! おまっ! コラッ!! ナニヤッテンダ!!!!」


「…………」


 ガックリと項垂れる旧友の背中。仕方ないので後ろから優しく肩を叩く。


「おい、茂吉……」


「なんだ富助か……見ての通り負けちまったよ」


「まぁ、なんだ……気にするなよ」


「ナニヤッテンダに三万も賭けたのに…………」


「あ、『ナニヤッテンダ』って馬の名前だったのか…………」


「ちっと待ってろ、今お茶入れっからよ」


 私は、ふと、テレビが置かれた台の真下、茂吉が立ち上がったその足下に、奇妙な物体を見付けた。




 挿絵(By みてみん)



 それは、ボタンと、今にもそれを押すかのような手の像のようであり、何故この様な珍品がこの場にあるのか不思議な気持ちに駆られたが、ココが骨董屋であることを思い出し、別にどうでも良くなった。


「はいよ、お茶」


「ありがとよ」


「ん? ああ、それかい? 悪いな、それ売り物じゃないんだ」


 大事そうに両手で謎の像を抱え、愛おしそうに撫でる旧友。コイツは平気で贋作や偽物を売り付けるエセ骨董屋であるが故に、こういう時は本物であることが多い事を俺はこっそりと知っている。


「その変な像は何なんだい?」


「…………」


 茂吉がコッソリと手招きをした。どうやらあまり大きな声で言えない物らしい。なんだか胡散臭いな。


「実はな?」


「実は?」


「かの有名な彫刻家、ミケランジェロの」


「ミ、ミケランジェロォォ!?」


「──従兄弟の」


「あ、ウソなやつだわ」


「ミテタンジャロの銅像」


「はい偽物決まりー」


 俺は顔を離し、お茶を一口飲んで偽物像をペチペチと叩いた。よく見たら像の底に『made in china』と書かれていた。


「おい! 止めろ! これは俺が100万で買った大事なもんだぞ!?」


「……へ? 本当か?」


「……ああ。だから大きな声で言いたくなかったんだよ」


「おいおいおい、どうしたんだよ、本当にこんな怪しげなブツが高値な訳あるかぁ!?」


「良いんだよ。俺が好きで買ったんだから……お前には150万出されても売らねぇからな!!」


「買わねぇよ! そんなパチモン!!」


 俺は捨て台詞を吐き捨て、お茶を飲み干してインチキ骨董屋から立ち去った。結局当初の予定は果たせぬままだ。


「チッ! 借りた金返しに来た筈なのに忘れちまったぜ……」


 家へと戻り、職場で貰った良い酒を一人で開けた。一人で飲むコップ酒は、なんとも言えない寂しさがあった。


「ぬ、もう昼か……」


 土曜の昼は、決まってテレビを観ることにしている。お気に入りの番組があるからだ。



「海運! にゃんでも鑑定団ー!」


「おっ、始まったぜ」


 古今東西のお宝を鑑定する大人気番組。俺はこの番組の長年のファンだ。観ることになったきっかけは、茂吉が骨董屋を始めたから俺も見る目を養うために見始めたのだが、今では見る目も養われること無く、唯々楽しみだから観ることにしている訳だ。


「本日のお宝はこちら!」


 ちょいと良い感じの服を着たお姉さんが、紫の布を外すと、布の下からは見覚えのある珍品が飛び出した。




 挿絵(By みてみん)



「──!!」


 俺は思わず前のめりになり、テレビへと齧り付くように画面から目が離せなくなった。ついさっき茂吉の家で見た胡散臭い偽物像が、テレビに出てきたのだ。なんたる偶然だろうか。


「何ですかコレ? 小学生の図工で作った作品みたいなのは」


 司会者が笑いながら像を指差した。やはり普通に見たら無価値にしか見えないのだろう。俺は間違ってはいなかった。


「これはミケランジェロの従兄弟のミタインジャロの像です」


 依頼人が極めて真面目な顔で像を紹介した。


「ミケランジェロって従兄弟が居るのか!? えっ!? マジで!?」


 俺はもうテレビに釘づけとなり、鑑定士がまじまじと見つめるその動作の一つ一つを真剣に、そして自分の事のように見つめた。


「それでは御値段の発表です──!!」



 おれは酒を飲むのを忘れ、鑑定結果を注視した。



 そして…………



 驚愕の鑑定結果は…………




 …………350万円だった





「茂吉ィィィィ!!!!」


 俺は無我夢中で茂吉の店へとダッシュしていた。


「なんだなんだ!? どうしたえらい血相変えて……!?」


「さっきの像!! う、ううう、売ってくれ!!!!」


「…………はい?」


 茂吉が物凄い渋い顔で俺を見下した。そりゃそうだ、先程のやり取りから一時間程しか経っていないのだから。


「た、頼む!! 何も言わず売ってくれ!! 150……いや! 200万出すから!!!! なっ!!」


 普段客を騙して暴利を貪る悪徳骨董商め……俺が成敗してやらぁ……。


「……分かった。じゃあ、貸した金と一緒に今から降ろしてきてくれ」


「分かった!!」


 俺は素早くATMへと向かい、限度額いっぱいを何度も繰り返して250万ほど降ろした。コツコツ貯めた金だが、アレを売れば余裕で儲けられる。チョロい物だ。


「ほらよ!」


 俺は勝ち誇った顔で札束が入った封筒を投げ付けるように渡した。


「……ほれ」


 茂吉は渋々と言った顔で俺にミツケタンジャロ?……だっけ? 名前を忘れたが、金になる怪しい像を手渡した。奴としても100万の得なんだから、上手い物だ。だが、最後に得するのは俺だ。コイツを350万で売れば150万の得だ! THE・ボロ儲けだ!!


「…………じゃあ、俺、この金ATMに入れてくるから……」



「ああ、俺も家に帰るよ」


 茂吉が店を出て行った後、俺は小走りとスキップを織り交ぜながら、家へと向かった。帰ったらネットオークションで売り捌いてやるぜ!


 家へと戻るといの一番にパソコンを起動した。そして、ついでにさっきのにゃんでも鑑定団を録画して置いたので、見直しておく。ネットオークションに書き込むのに参考にしよう。


「──これはミタインジャロの像に間違いありません。本物はですねぇ、裏に『made In India』と書かれているんですよ。ミタインジャロの遊び心ですね」


「……(笑)」


 俺は笑いながら像の底を見た。なんだって芸術家とやらは訳の分からない事をしたがるのか。俺には分からないぜ。


「はいはい、確かにmaid In chinaって…………チャイナァァァァ!?!?!?」


 俺は一瞬で頭がパニックに陥った!!


 は!?


 訳が分からない!?


 なんでぇ!?


 えっ──まさか!?



 俺は一つの考えに辿り着かざるを得なかった。



「…………コレ……偽物やん…………」



 俺が純白の脳内でのたうち回っていると、HDのリモコンに手が当たり、録画が停止した。そして、番組名が表れると




 『にゃんでも鑑定団(再)』



 と書かれていた…………。




「茂吉ゴラァァァァ!!!!」



 俺の純白のバージンブレインが一瞬で炎の赤へと染まり上がる!!


「あの野郎!! 今日の再放送に合わせて俺をハメやがった!!!!」


 茂吉の店へと全力疾走すると、茂吉はまたしてもテレビに齧り付いていた。


「茂吉この野郎!! 金返せ!!」


「わわっ! なんだ!? あれはお前から買ったんだろが!! 今更返せるか!!」


「なんだとこの野郎!!」


 俺は茂吉の襟を締め付けて息を止めた!! このまま絞め殺してやる!!


「ううっ!! わ、わがっだ……!! 返す! がえずがら…………!!」


 観念した茂吉を突き飛ばし、茂吉は嗚咽とむせ込みでへたり込んでいる。


「早く降ろしてこい!!」


「…………いや、金ならココに……」


 茂吉がポケットから取り出したのは馬券だった。そこには『単勝 オタンコナス 250万』と書かれていた。俺はまたしても頭がバージンになった。


「マジでかお前…………」


「大丈夫だって! このレースは堅いから、勝てるって!!」


「負けたらどうなるか分かってるんだろな……?」


「大丈夫だって、な?」


 俺は仕方なくテレビの前へと座り込んだ。もしこのレース、負けたら……コイツを殺そう。



「さあ始まりました最終レース! スタート直後オタンコナスが先頭を走ります! オタンコナス頭一つ抜けてます!」


「おっ!」

「おおっ!!」


 二人でテレビに齧り付く。最早目の前の現実が非現実的な物に映る。まるで麻薬を決めたジャンキーの如く、全てに狂わなければ正気では居られない。


「最終コーナーを曲がり、オタンコナス依然先頭街道! これはオタンコナス独壇場! オタンコナス突き放しに掛かる!!」


 ジョッキーがムチを振るい、オタンコナスが加速。後続を引き離しぶっちぎりでゴールへと向かう。


「イケイケイケイケ!!!!」

「イケーっ!! イケーーっ!!」




「オタンコナス落馬ぁぁ!!!!」



「オタンコナスゥゥゥゥ!!!!」

「なにやってんだオタンコナス!!!!」




 俺達はテレビを殴り付け、そのまま茂吉とダンスをした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボタンと手の像がまさかの! というか、メインは競馬だった! 友人を騙してどうする、とか、いろいろと突っ込めるものすごい展開がぶっ飛んでます! 最後まで一気に読みました!
[一言] オタンコナスゥゥゥ! 面白かったです! 今回の企画でしいたけさんの作品をいくつか読ませて頂きました。どれも面白いですが、このぐらいの文字数(テンポ)が読みやすくて雰囲気も好きです♡(*´ω…
[一言] これも好き。 作者様の作品、私の中で連続ヒットです。
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