第8話 旅立ち
「島田……本当に出て行くのか?」
「ええ。さすがにただ飯食ってばかりいられませんからね」
俺を心配してくれているのは山根さんだけだった。
他のみんなは、邪魔者がいなくなると言わんばかりに笑みをこぼしている。
「ま、頑張れや司」
「……ああ」
辰巳は特に感情を込めずにそう言う。
別にいてもいなくてもいい存在だと思っているんだろうな。
俺は山根さんに頭を下げた。
「今までお世話になりました。なんか困ったことがあればすぐに帰って来ますんで」
「はははっ。お前が帰って来たところでどうなるってんだ。……気を付けてな」
山根さんは泣きそうな顔でそう言う。
この人は……本当にいい人だ。
俺も涙が出そうになるが、グッと堪えて笑顔で別れを告げる。
「じゃあ、さようなら」
俺は振り返ることなく、未来を見据えるように遠くに視線を向けながら歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇
世話になった場所を出て、俺は適当にトレントを狩っていた。
トレント相手なら危険は0だろうと踏み、骸骨の仮面を付けずに戦っている。
「『ソウルスティール』!」
現在使用しているスキルは『盗む』。
元々一撃で倒せるモンスターだから効率はほとんど変わらないが、スキルの熟練度を上げるために使っている。
有効範囲はおよそ5メートル。
俺がソウルスティールを使うと、トレントの体内から青白い光が抜けて俺の手に納まる。
トレントは砂のように消えて無くなり、青い光は手の中に残ったままだ。
これは自分か他の誰かに使用すると、体力を回復できるようだが……今は全く必要としていない。
とりあえず、自分の体に取り込んでおいた。
しかし、この地域はゴブリンかトレントしかいないのだろうか?
他のモンスターを見たことが無い。
最後のトレントをソウルスティールで狩りながらそんなことを思案していた。
「……そうだ、どこか高いところから探してみるか」
俺は周囲で一番高い建物を探した。
この辺りも破壊された廃墟ばかりだし、モンスターが絶えず出現しているので人が住めるような場所などほとんどない。
だが、一つだけ高層マンション……が半壊した物があった。
20階ぐらいまでの高さは残っているだろう。
俺はそのマンション跡の一番高い所に飛び乗った。
スキル『鷹の目』を使用。
10キロ圏内をくまなく見渡すことができる。
ゴブリンとトレント以外のモンスター。
どこにいるだろう?
戦いを求めているわけではない。
強さを求めているのだ。
純粋に自分がどこまで強くなれるのかを知りたい。
もうすぐ限界が来るのだろうか?
それともどこまでも無限に強くなれるのだろうか?
それを知るために、新しいモンスターと戦い新たなスキルが欲しい。
「お、いたいた」
ここから北の方角に……豚のようなモンスター、オーク。
東の方角には人と犬を合成したようなモンスター、コボルトが。
それから……
「ん?」
東の方角で少しおかしいものを発見する。
ここから随分離れた場所にモンスターの姿を発見した。
だが、そこにいたのはモンスターだけではない。
人もいる。
しかし……人とモンスターが戦っているのではない。
あれは――虐殺だ。
モンスターが人を、楽しそうに殺している。
俺はその光景を見て、腹の底から怒りが込み上げてきた。
体全体の血が沸騰しそうだ。
人が住んでいた場所なのだろう。
瓦礫などは片付けられていて、その中央の広場でそれは行われていた。
そこにいるモンスターはコボルトの集団。
コボルトたちは数人の人間を取り囲み、1匹のコボルトが人を追いかけ回していた。
逃げ回る男。
コボルトたちはそれを見て大笑いしている。
中央には眼鏡をかけた女の子と中年の女性。
彼女たちは……死体だらけで赤くなった地の上で、膝をついて青い顔をしている。
「…………」
俺はマンション跡から飛び降り、コボルトたちのいる場所に向かって全力で駆け出した。
持てるだけの力で。
できる限りの速さで。
これ以上ない速度で。
敏捷が高くなっている俺は、ものの数分で現場に到着した。
頭に血が上っているが、『心術』で平常心を取り戻す。
だが、怒りの感情は冷たく俺の中で残っていた。
人だってモンスターを殺している。
戦争みたいなものだ。
俺だってモンスターを殺しているし、モンスターが人を殺すのは当たり前だし、人が殺されるのも仕方ないと俺は考えている。
それを覚悟でみんな戦っているんだ。
みんな必死に戦っている。
だけど……殺しを愉しむのは、違う。
それは人間だろうとモンスターだろうと一緒だ。
そんなの外道のすることだ。
赦せない。
俺はそんなことは赦さない。
殺しを愉しむようなやつには、他人をいたぶるような外道には――
俺が裁きを下す。
ここで葬る。
これは父親の……警察官だった父親の血を受け継いでるからだろうか。
間違ったことは赦せない。
俺は静かに燃え、激しい衝動のままに骸骨の仮面をかぶった。
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