第44話 強襲③
「油断、しすぎだよ」
「…………」
ブルーが水の結界を俺の周囲に張る。
さらにこれまでの中で最大級の圧力があった。
勝負を賭けに来たか。
今ブルーは道路から右手を突き出しながら俺を睨み付けていた。
だけど、あれもまた水で創られた偽物なのだろう。
どこにいるのか分からないのなら――
辺り一面を焼き尽くす!
『エクスプロージョンノヴァ』
俺の心臓部分に赤い力が集まり、高まっていく。
「……ま、待って……何をするつもりなんだい?」
ブルーはガタガタ震えながら、水の中にいる俺を見上げている。
だが、俺はそんな言葉を無視するように力を集めていく。
そして限界まで高まり、解放する。
『火術』、最大の術。
禁呪と呼ばれる魔術を。
力を解き放つと、数キロ先まで赤い円状のオーラが広がる。
「ちょ――」
ブルーが何かを言おうとするが、円の中で大規模の爆発が起きる。
カッと一度赤い輝きがあり、凄まじい爆発と共に周囲の建物がチョコレートのように溶けていく。
爆発が収まると、辺り一面、焼け野原となっていた。
ブルーの姿は見えない。
おそらくではあるが、倒したのであろう。
「う……ううう」
大地にできていたクレーターから血まみれのレッドが起き上がって来る。
奇跡的にエクスプロージョンノヴァから逃れていたようだ。
「……なっ!?」
そして、世界が一変してしまったことに、驚愕し、キョロキョロと周囲を見渡す。
「ブルー! どこだブルー!」
レッドの声に反応するものは無かった。
ただ切なく、虚しく声がこだまするだけだった。
「後はお前だけみたいだな」
「この……化け物が!」
「『閃光』」
極太の光線がレッドを襲う。
だがレッドはそれをかき消してしまい、力を拳に集中させる。
「爆発しろ……あいつをぶっ殺せるぐらいまで爆発しろ!」
「水よ」
「っ!!」
俺はブルーを倒したことにより、もしかしたら彼の能力を手に入れたのではないのだろうか。
そう考え、試しにブルーの能力を発動してみた。
案の定、俺にも能力が使用することができ、レッドは水の棺に閉じ込められる。
水の中で力を使おうとするレッドであったが、俺の力はブルーの物よりも大きいらしく、レッドの力は水によってかき消されてしまっていた。
ゴボゴボ空気を吐き出し、苦しみもがくレッド。
解放してやってもいいんだけど……
だけど、ここで見逃してしまったら、また面倒が増えてしまう。
そんなのはごめんだ。
倒せる時に倒しておく。
それがベストなんだ。
そしてレッドは水の中で息絶え、目を見開いて動かなくなってしまった。
「ふー」
俺は大きく息を吐き、その場に座り込む。
なんとかなったな……
まさか強敵が二人も同時に襲って来るなんて、夢にも思ってなかった。
だが、これで残りの排除する者は一人……
排除する者は4人いると言っていたのだから、後1人で間違いないはずだ。
フィルが嘘をついていなければだが。
「さてと」
俺は起き上がり、レッドの死体に目をやる。
そろそろ解放してやっても――
「!?」
水を解こうとしたその時だった。
突如、レッドの体が水ごと大きな闇に飲み込まれる。
ブラックホール。
俺のイメージだが、それが目の前に発生し、レッドを飲み込んでしまった。
「まさかレッドたちまで倒してしまうとは……想像以上だね、君は」
「……誰だ?」
拍手をしながら俺に近づいてくる男がいた。
その男は髪が黒く、俺がよく知っている顔……
いや、よく知っているなんてものじゃない。
これは……この顔は。
俺自身だ。
「…………」
「俺の顔を見て驚いているんだね」
「な、なんで……」
ニコリと笑う俺と同じ顔をした男。
服装も俺と同じで、黒いパーカーを着ている。
「俺は誰でもないし誰でもある。見たものと同じ顔を映し出す。君が見る俺は、君の顔をしている。由乃が見れば俺は由乃の顔になる」
「……お前は、誰だ?」
「俺は、最後の排除する者。黒の排除する者、ノーネームだ」
穏やかにノーネームは続ける。
「急遽変更したルールを説明しておくよ」
「ル、ルール?」
レッドたちが言っていたルールのことか。
ファイナルフェイズに移行してとか言っていたが……どんなルールなのだろう。
「ルールは至って簡単。君が俺を倒すことができれば、このゲームは人間の勝利だ。そして君が俺に負ければ人間たちは滅ぼさせてもらう。その方が盛り上がるし、君のやる気も出るだろ? ああ、エリアマスターはもう排除しておいたから、これから先モンスターとも戦う必要はない」
「……俺が、お前に勝てばいいのか?」
「そういうことだ。この1年間は楽しいゲームだったのに、君のせいで滅茶苦茶になってしまった。まぁ、『合成師』をデータの中に残しておいた俺も悪いんだけどさ」
「データ……お前が世界をこんな風にしてしまったのか?」
「そういうことだ。絶妙なバランス調整をしてきたつもりだったんだけど……実際、『合成師』を抜けば丁度いいぐらいのゲーム難易度だったと思うんだけどね。遊びで作ったジョブだったはずなのに、人の手に渡るはずなど無かったはずなのに、予期せぬことが起きてしまった。おかげでまた一からやり直しだ」
「……やり直し?」
「世界そのものをさ。一度君たちを殺してリセットする。そしてまた新しい人類をこの世界に誕生させる。俺はまた新しいルールを創り、楽しませてもらうというわけさ」
「……外道が」
「ははは。闘牛を楽しむのとなんら変わらないと思うんだけどね。上位の存在が他の生物をオモチャにするのは、人間だって同じだろ?」
「一緒にするな。生き物をオモチャにしている人間なんて、ごく少数のはずだ。お前もそれと同じく、少数の外道なんだよ」
俺は仮面を被り、怒りを滾らせる。
ニコリと笑うノーネーム。
「お前は……絶対にここで葬る」
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