第33話 喜び
「もうすぐだ! もうすぐシンジュクに着くぞ! みんなの平穏はすぐそこまで来てるんだぜ!」
磯さんのみんなを励ます声が響き渡る。
みんなは希望だけを内包した、真っ直ぐな瞳をしていた。
俺たちのフォローは確かにある。
だがそれでも、自分たちの足でここまでやって来れたのだ。
そんな自信さえも感じられる目をしていた。
後100メートル。
後50メートル。
目的地に近づくにつれ、みんなの気持ちが高まって行くのを肌で感じる。
もう泣きそうになっている人も多数いた。
そしてとうとう……
シンジュクへと到着し、全員から歓喜の声が溢れ出る。
「やった! これで俺たち、平和に暮らしていけるんだ!」「もうモンスターに怯えなくてもいいのね!」「ううう……やったー!!!」
シンジュクに入ったばかりだと言うのに、みなその場に膝をつき大喜びしている。
「司ー!!」
大和は涙を流しながら俺に抱きついてきた。
「ありがとう! ありがとうな! これでみんなも安全だ! 全部全部お前のおかげだよ!」
「オウ! 本当にありがとな! この感動は、空間を移動しただけでは得られなかったはずだ。紛いなりにも自分たちで手にした安全だ。みんなそれぞれ、大事にするだろうさ!」
他人に貰ったものより、苦労して手にいれた方が物を大事にする。
きっとそれは物でなくて、平和だとしても同じなのだろう。
自分たちの足でここまでやってきた。
恐怖の中を歩んで来たんだ。
きっとこれからの平穏を大事にしていくだろう。
◇◇◇◇◇◇◇
俺たちはそのまま、山根さんたちが根城にしていた場所まで移動した。
するとそこでは周囲の廃墟などを壊し始め、新しい町を作ろうとしていたようだ。
そしてビックリすることに、豚や牛、他にも鶏などを飼っていたり、畑を耕し始めていたりしていた。
「山根さん!」
「……島田!?」
大勢の人が作業をしている中、廃材を運んでいる山根さんの姿を発見した。
山根さんは廃材を放り投げて、俺の下まで走って来る。
「島田! 生きてたんだな! 良かった……本当に良かった……」
彼は、俺を抱きかかえて涙を流していた。
俺は山根さんの優しさに、目頭が熱くなる。
「あの、この人たち、オークランド……トシマからやって来たんですよ」
山根さんは涙を拭いて、磯さんたちに視線を向ける。
「おお! そうか! まだ生き延びていた人がいたんだな!」
周りの人たちも、どうやらトシマから来た人たちを歓迎しているようだった。
こんなご時世だからだろう。
手を取りあって助け合おうと考えているんだ。
「でも山根さん……人は減ったように感じるんですけど、気のせいですか?」
「いや、気のせいじゃねえよ。お前を疎ましく思ってた奴らいただろ? あいつら全員トレントにやられちまった」
「…………」
「それに辰巳が上位職の奴ら引き連れて、他の地域に戦いに行っちまったからな。」
「他の地域に……」
辰巳とは付き合いたいとは思わないが、みんなを先導して戦いに身を投じているところを思うと、彼なりに自分のやるべきことをこなしているんだなというのが分かる。
これからもいいリーダーとしてやっていくんだろうな、あいつは。
「そう言えばずっと気になってたんですけど、なんで牛や鶏なんかがいるんです?」
柵を立てた公園の中にいる牛を指しながら俺は尋ねる。
「ああ。いやな、俺を含めたここに残った連中のホルダーに『ギフト』ってのが現れたんだよ」
「『ギフト』……?」
「おお。『コングラチュレーション』って説明文だけがあって、それを使用したら、牛や野菜の種なんかが出現してよ……」
「なんですかそれ?」
『ギフト』カード……
コングラチュレーションってことは、考えられるのは戦いが終わったことへのご褒美?
「ただ、『ギフト』使ってから、ステータスが開けなくなっちまってな。それに、戦う力も失っちまったんだよ」
俺の手元に、『ギフト』は無い。
与えられていない……
戦いを続ける意思がある場合は与えれず、戦いを放棄した者に与えらるカードか……
だけど生きて行く術が手に入ったのなら、食料などの心配がないのなら、これからみんなは平穏に暮らしていけるはずだ。
俺は少し安心し、嬉しそうに語る山根さんの話を聞いていた。
「オウ! 司! ここの責任者はいねえのか?」
「ああ……責任者かどうかは知らないけど、とりあえず、この人を紹介しておくよ。彼は山根さん。俺が一番世話になった人だよ」
「オウ! 俺は磯嶋! よろしくな!」
「お、おう……えらい元気なのが来たな……」
磯さんの際限ない明るさに、乾いた笑みをする山根さん。
そのうちこの人の魅力に気づいてくれるだろうから、後のことは放っておこう。
「司」
円がいつも通りの凍り付いたような表情で俺に声をかけてきた。
「どうした円?」
「これからどうする? オークランドのこと」
チリッとした激しい感情を円は放っていた。
円にしてみれば、今回のことはおまけのようなもの。
彼女が一番成そうとしていることは……オークキングの討伐。
俺はそれに力を貸すつもりだし、なんだったら一人でやってきてもいいと思っている。
「もちろん、やりに行くさ。オークキングを」
「なら今すぐ……」
「今すぐは止めておこう。円だって疲れてるだろ? なんだかんだ走り回ったし、連続で戦ってたんだ。休息も大事さ」
「…………」
意外と体力を失っていたことに気づいたのか、大きく息を吐いて彼女は小さく頷いた。
「分かった」
「今日は結構ハードだったんだ。よく休んでおきなよ」
コクリと首肯し、円は少し離れた場所で腰を下ろしていた。
「やりましたね司くん」
「ああ……」
由乃が俺の隣に来て、周囲のみんなを眺めていた。
「みんな笑顔で……ここにいると、まだまだ世界にモンスターが溢れているなんて考えられませんね」
「ああ。平和そのものだ。なんだったら、由乃もここで暮らしていってもいいんだぞ?」
「それもいいかもですね。でも司くんも一緒なら、です」
「だったら……諦めてくれ」
「諦めてませんよ」
「…………」
「司くんは世界を平和にする。だからその時まで司くんの世話をする楽しみはとっときます」
「……別の楽しみを見出すつもりはないの?」
ハッキリ「ない」と言い切る由乃。
俺は彼女の無駄に真っ直ぐすぎる瞳に、笑うしかなかった。
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