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第28話 円の過去

 それは今から半年前の出来事。

 狂った世の中だけども、私は幸せに生きていた。

 親と兄、それに仲間たちに囲まれて生き残る日々。


「円、父さん母さん。今日はいいカードを手に入れたよ」


 上級職を手に入れた兄は戦場を駆け巡り、オークを討伐し続けていた。

 能力はあっという間に高くなったようで、私たちがいた集落では一番の実力者だ。


 元々遊具のない大きな公園に、木材で家々を建てただけの何もない集落。

 住んでいたのは20人ほど。

 みんなで力を合わせ助け合い、生活をしていた。


「でかした(りょう)! これで今日は美味い飯にありつけるな」

「本当、凄いわ亮。あなたのおかげで私たちも円も生きていられる。いつもありがとうね」

「家族を守るなんて当たり前のことさ」

「……ありがとう、お兄ちゃん」


 あまり活発ではない私だったけど、お兄ちゃんが相手だと明るく会話ができた。


「ねえねえ、今日はどれぐらいオークを倒したの?」

「今日は4匹だったよ。大変だったけど、みんなで協力して退治したんだ」

「凄い。……私もいつか、お兄ちゃんの力になれるように力をつける」

「円は戦わなくていいんだよ。円と父さんと母さんの代わりに、俺が頑張るから。お前はいつかくる平穏な世界を幸せに生きてくれればいい。その為なら……どれだけ辛くても俺は戦える」


 優しい兄と一緒にいるだけで、心が温かくなる。

 兄がいてくれるだけで、何もいらないとも思っていた。


「さ。ご飯できたわよ」

「ほら食べるぞー」


 狭い家で、4人で生活して……

 外は常にモンスターがうろついてはいたが、辛いなんて思ったことは無かった。


 でも……


「どうしたんだ、亮。浮かない顔をして?」

「いや……実は最近、『結界』のカードが入手できてなくてさ……」

「け、結界が……後何枚あるんだ?」

「みんなの分を合わせて……2枚」

「2枚……後2日しか持たないのね」

「…………」


 みんな、暗い顔をして食事をしていた。

 私も話の内容は理解できている。

 このまま結界のカードが入手できなければ……モンスターがこの集落を襲って来る。

 不安で、怖くて、みんな美味しいはずのご飯を、あまり美味しそうに食べてなかった。

 それは私も同じだ。

 料理の味がよく分からなかった。


 そして――3日後の夕方。

 天気が悪く、雨がよく降っていた。


 結界が切れた、初めての日。

 この2日間『結界』カードを手に入れることはできなかったようだ。


 集落のみんなは、緊張した面持ちで入り口付近に視線を向けていた。

 何も起こらなければいいが。

 何も起きないで欲しい。


 私も震えながら、そう祈っていた。


「円」


 お母さんが私の手を握る。

 一瞬だが、その時不安が消えた。

 お母さんが微笑んでくれるだけで怖くなかった。

 私も自然と笑顔になった。

 もう大丈夫かも知れないとも思った。


 だけど――

 現実は残酷だった。


「来たぞ! オークだ……それに……最悪だ」

「な、何があったんだ?」

「オークの先頭を歩いているのは……オークキングだ!」


 集落中の人々がザワつき出す。


「な……なんでよりによってオークキングが……」

「い、今すぐ逃げるぞ!」


 オークキングは東からやって来ていた。

 集落中の人は西から逃げようとパニック状態で走り出す。

 しかし。


「ニゲレルトデモオモッタノカ、ニンゲンドモ!」


 西はハイオークと呼ばれる、青いオークの集団が入り口を取り囲んでいた。


「うわー!!」


 先頭を駆けていた戦える人が、ハイオークに特攻した。

 だが、無残にも体を真っ二つにされ、肉の塊がゴロリと地面に転がる。


 私たちは恐怖に震えあがり、身動き取れなくなっていた。


「シニタクナケレバモドレ!」


 オークたちの言う通りに、私たちは集落の中へと引き返すことに。

 するとそこには、オークたちが集落をグチャグチャに破壊していて、中央には赤くて巨大なオークが腰を下ろして残酷な瞳でオークたちの行動を見ていた。

 体は5メートルぐらいあるだろう。

 人間はおろか、オークとしても規格外のサイズ。

 あれが……オークキング。


「くくく。まさか、俺様がこんなところにいるわけねえと思ってたか? まぁそう驚くな。俺がここらにいたのもたまたまなんだよ」


 低い声でオークキングは笑っていた。

 獲物を前にして、喜んでいる様子だ。


「おい。そこのおっさん」

「お、俺のことか?」


 オークキングが指差したのは――私のお父さんだった。


「ちょっとこっちこい」


 ちょいちょいと指を動かし、お父さんを近くに呼びつけるオークキング。

 震える足で奴の前に立つお父さん。


「な、なんだ……?」


 お父さんが目の前に立たされた理由を訊こうとした次の瞬間――


 オークキングはお父さんの首をはねてしまった。

 腰に帯びていた巨大な包丁で。


 お父さんの首からぴゅーぴゅー血が噴き出している。


「あなたぁあああ!!」


 お母さんがお父さんの遺体に向かって駆け出そうとする。

 だが、1匹のオークに捕らえられ、首を絞められた。


「ウルサイゾオンナ」

「う……うぐぅ……」


 私は涙を流しながら何も言えなくなってしまっていた。

 お母さんを助けることもできず、ただ泣きじゃくるだけだ。


 するとオークがお父さんの首を手に取り、槍で切り口から突き刺した。


「な、何をするんだ!」


 男の人が、あまりにも人道に反する行為に声を荒げた。 

 だがモンスターのすることだ。

 それは奴らから見れば当たり前のことなのかも知れない。

 だけど怒らずにはいられなかった。


「くくく……人の首を取ってよぉ、突き刺して眺めるのが趣味なんだよ」

「な……」

「あー。こいつらは俺らが殺した人間か……大したこと無かったなって、見てて笑えてくるんだよ」

「き……貴様ぁ!」


 お兄ちゃんが怒りに耐え切れず駆け出し、オークキングに斬りかかる。

 しかし、またしてもオークキングの巨大包丁によって、あっさりと首をはねられた。


「お兄ちゃん!!」


 土砂降りの雨がお兄ちゃんの血と混じり合い流れてきて、私の足元を真っ赤に染める。


「やれ」


 オークキングのその一言で、その場にいた男の人たちは首を落とされ串刺しにされていく。

 10分後には15の首がオークキングの後ろに刺し並べられていた。


 生き残ったのは女の人ばかり5人。

 みんな恐怖に怯えているだけだった。


 だけど私はいつしか恐怖が薄れ、憎しみと怒りだけが腹の底から湧き上がっていた。


 オークキングを睨み付ける。だが奴はニヤニヤと私の顔を見返すだけだ。


「……やれ」

「?」


 私たちも殺されるのだろう。

 それは間違いなかった。

 だがオークらは私たちの首を落とすことなく、集落で壊さず一つだけ残された我が家に私たちを押し込んだ。


 おもむろに家に油をかけ出すオーク。


「それはポイズンフロッグの油だ。引火したら、こんな雨の中でも消えない素晴らしい一品でな」


 家の外からオークキングがそう簡単に説明すると、部屋の中にいたオークが私たちにもその油をかけた。


 私はお母さんに抱きかかえられていたので、顔の左半分以外に油がかかる。


 油をかけたオークは家を出ていくと、ゴウッと火が点く音が聞こえてきた。

 奴の言ったことは本当だったのだ。

 雨の中でも消えない炎。


 家中に炎が燃え移って行き、火の海と化した。


 一人ずつ引火していき、火だるまで踊る人たち。

 お母さんは私を抱きながらガタガタ震えていた。


 そしてとうとう私たちにも火の手が襲い、体が燃える。


「ああああああ!!!」


 お母さんは熱さに地面をジタバタと転げ回っていた。

 私も気が狂いそうな熱さにどうすることもできず周囲を走り回る。


 だがオークキングらの笑い声が聞こえてきて、辛さより憎しみが増していく。

 私は家を飛び出しオークキングに飛び掛かうとした。

 が、奴の足にしがみつくことしかできなかったのだ。


 何もできないまま、私はその場に倒れ込む。

 依然として燃えるわたしの身体。

 それを見てゲラゲラと愉しんでいたのだ。


 憎しみが身体全体を支配する。

 怒りが無尽蔵に込み上げてくる。

 恨みが雪のように心に募っていく。


 私はただ、今ある全ての感情を込めてオークキングを睨むしかできることがなかった。

 憎い憎い憎い憎い。

 だけど何もできない。


 私は奴を睨みながらそのまま意識を失った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「…………」


 気が付いた時には、すでに磯崎さんたちのアジトで横になっていた。

 なんと私は生きていたのだ。

 

 奇跡だ。

 なぜ生きていたのかは分からない。

 

「っ……」


 全身に酷い痛みが走る。

 まだ燃えているような感覚。

 発狂してしまいそうな痛みの中で、私は心に誓った。


 いつか……オークらに復讐してやる。

 そのために強くなる。

 

 手段は選ばない。

 奴らを倒してくれる人がいれば、その人の力を借りてでも必ず復讐を果たす。


 両親と兄のことを想い涙を流しながら、私は黒い感情のまま天井を睨み続けていた。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 円が今まで顔の右半分が火傷しているように書かれていたのに この話では顔の右半分には油がかかっていないように書かれているので気になりました。 このままだと右半分は無事なのでわと思ってしま…
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