第10話 由乃との出逢い①
凄惨な光景が広がっていた。
人とモンスターの血が混じり合い死体だらけの状況。
なんて酷いことを……
と言っても、モンスターの分は全部俺がやってしまったのだが。
眼鏡の美少女は死体の数々から眼を背けて青い顔をしている。
「少し離れよう。ここは空気も悪いし精神的にも良くない」
「……はい」
10分ほど歩き、見通しの良い場所で俺たちは腰かけた。
目の前の美少女は、依然として辛そうな表情をしている。
「ごめん。もう少し早く来れたら……」
「いいえ……あなたが来てくれたおかげで、私はこうして生きている。助けてくれてありがとうございました」
彼女は、少し頬を染めて俺の方に視線を向けた。
しかし本当に可愛い子だな。
こんなレベルの子、初めて見たぞ。
もしかしてアイドルでもやってました?
そう聞きたくなるぐらい飛び抜けて綺麗な女の子。
綺麗な茶色の髪は腰まで伸びていて、服装はロングTシャツにジーパンという、なんとも質素な恰好ではあるが、それでもこの子が着ていたらオシャレに見えるんだから不思議だよな。
「由乃」
「へ?」
「私の名前、天野由乃です」
「ああ……俺は島田司」
「司……くん」
妙に熱い視線で俺を見てくる由乃。
なんなんだよ、一体。
「私たちなんとか生き延びてここで生活していたんですけど……私たちを守ってくれていた人たちが、あのコボルトたちに負けてしまったみたいなんです」
「それで奴らがここまで乗り込んできたってわけか」
コクリと頷く由乃。
「結界も切れてしまっていて……」
「そうか」
『結界』。
それは人が安全に暮らすことができるという『生活カード』の一つ。
一定の範囲にモンスターが侵入できなくなる結界を張るというものだ。
俺たちが根城にしていた場所はあまり敵も寄り付かなかったから、そこまで必要としていなかったけど、モンスターの活動が活発な場所では必須級のアイテム。
それが無かったから、この場所も攻め込まれてしまったというわけだ。
「あの司くん」
「何?」
「なんで司くんは、そんなに強いんですか?」
「うーん……当たりジョブを引いたからかな」
「当たり……勇者?」
「いや。合成師」
「?」
由乃は怪訝そうに俺を見る。
そりゃそうだ。
合成師なんて聞いたことないしな。
俺だって知らなかった。
そもそも他に引いた人はいるのだろうか?
それすら怪しいレベル。
「……司くん」
「何?」
「私を、あなたの物にしてくれませんか?」
「……はい?」
俺は頭が真っ白になった。
いきなり何を言っているんだこの子は。
あんなことがあったから、頭が混乱しているのか?
「由乃。一回寝よう。そして起きてからこれからのことを考えよう」
一度寝たら、少しは冷静になれるだろう。
そしたら明日「昨日は少し自分でも考えられないことを言ってしまいました」とか言うだろうさ。
「わ、分かりました……」
突如ガチガチになった由乃はそう言って、服を脱ごうとする。
「待て待て! ちょっと待て! 何で服を脱ごうとするんだ?」
「え? だって、寝ようって……」
「寝るの意味が違う! 一夜を共にしようって意味じゃなくて、本当にひと眠りしてくれって意味!」
「あー……そういう意味ですか」
服を元に戻し、由乃は真剣な顔で俺を見ている。
「でも……私、真剣ですから」
「……何が?」
「だから……私をあなたの物にしてほしいんです」
「あのね」
「その代わり……私のお願いを聞いてほしいんです」
「お願い?」
「…………」
由乃は熱を込めた視線で俺を見つめたまま、何も言わなくなってしまった。
何を言おうとしているのかは分からないが、彼女なりに真剣な考えがあることだけはよく分かる。
しかし由乃は俺から視線を外し、さっき戦いがあった方向に向いた。
「……その前に、みんなのお墓を作ってきてもいいですか?」
◇◇◇◇◇◇◇
全員分の墓を作るには時間がかかり過ぎるため、みんなの遺体を埋めれるぐらいの穴を掘ってあげた。
『生活カード』のスコップがあったことと、『怪力』スキルがあったので簡単に穴を掘ることができた。
遺体はひとつずつ丁寧に穴に埋葬し、優しく土を上からかける。
「ごめんなさい……私だけ生き残ってごめんなさい」
由乃はみんなを運ぶために血まみれになった手で自分の顔を覆っている。
「由乃が謝る必要は無いと思う」
「…………」
「みんなだって、由乃だけでも生き残ってくれて喜んでくれてると思うよ」
「そうでしょうか」
「俺は……そう思う」
近くに落ちていた木片を綺麗な形に整え、みんなが埋まっている土の上に差した。
すると由乃は手を合わせて、静かに目を閉じて黙祷を捧げる。
俺も一緒に目を閉じて黙祷を捧げた。
「…………」
「…………」
夕焼けの中、何も言葉を交わさないまま時間が過ぎていく。
俺は大きく息を吐き、沈黙を破るように『水』のカードを取り出した。
「由乃。これで手を洗いなよ」
「……はい」
カードを現物に変化させると、2リットルのペットボトルが出現する。
それを由乃の手元に流してあげると、彼女は黙ったまま手と顔を洗い流していた。
「……あの、司くん」
「ん?」
手を洗い終えた由乃は、なにやら決心したような表情で俺を見て、また服を脱ぎ出そうとする。
「だから、何で服を脱ごうとするの!?」
「違うんです!」
「え?」
「……お願いします。私の体を見て下さい」
そう言って由乃は上に着ていたロングTシャツを脱ぎ、上半身の裸を俺に見せる。
「!」
俺は由乃の体を見て驚愕した。
初めて見た女性の裸。
だが、それ以上に驚いたこと……
それは全身傷だらけだったことだ。
まるでナイフででも切り刻まれたような――醜い傷跡が前面に、背中に何筋も走っていた。
見ているだけで涙が出そうなほど、凄まじい傷跡。
「……こんな体なので私には女としての価値はありません。ですが、私にできることは何でもします。だから……私の両親の敵を取って下さい」
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