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Run Run Run  作者: 涼汰浪
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3.逃走 ③

 イカれてやがる。公衆の面前でハジきやがった。


 走りながら、振り返ると、倒れたご婦人の(ひたい)にトドメの一発をお見舞いしているところだった。


 SHIT! あのご婦人は間違えられたのだ。俺と会話していたせいで、仲間だと思われたのだ。あんな成金()()()()中年おばさんが鉄砲持って撃ってくるとでも本気で思っていたのか?


 クレイジーだ。こちとらスパイじゃない。潜入捜査で擬装をしているCIAの諜報員とでも? さっきまでイラついていたご婦人に対して、心苦しさからか愛おしく思えてきた。良くもご婦人を!


 俺は、今度は焦らずにケータイを操作して、再び仲間に連絡する。「どうした?」とワンコールで電話に出てくれる。最高だ。


「また撃ってきた。トヨタのバン。色は黒。通行人に当たってもお構いなしだ。パニックが起きてる」


 マッさん絶句。


「どうにか合流するから、迎え撃つ準備をさせといてくれ」


 返事は待たずに一歩的に切る。通話・警戒・疾走を同時には続けられない。それにこうした方がより切迫感が伝わって、素早い対応を引き出してくれるだろう。切迫しているのは事実だし。


 逃げる人、立ち尽くす人、興奮して録画をする人、その場で叫び喚く人、様々だったが、次に銃口が向いたのは、当然、アマチュアカメラマン達だ。ケータイの画面越しに向けられたマシンガンはゲームのワンシーンの如く、彼らから現実感を奪い去ってしまう。一人、二人と倒れてようやく、脳が現実に追いついた。


 かわいそうに背を向けて真っ直ぐ走る彼らに後ろから来る銃弾を避ける術は無い。四人目が倒れたところで、録画をしていなかった人たちに向けて、パパッと斉射。これで射線上に健常者の姿は消えてしまった。


 ジュラルミンケースを盾にして走る俺は、この十秒足らずの出来事をしっかり目に焼き付けてしまっていたので、今、何が起こったのかをネットの海にまき散らすことが可能だったが、録画なんてしていないので、信憑性の低い駄文を晒すしか手段がないが、それもここを生き延びてからの話だ。尊い犠牲のおかげで、俺を的確に撃つには難しいだけの距離をかせぐことが出来た。しくじって俺の頭ではなく、手に持った方の脳みそが飛び散ることは避けたいのだ。だから、距離を詰めて確実に仕留めようとしている。当然、徒歩と自動車では、余命数秒しか残されていない。なので、申し訳ないとは思いつつも、逃げ惑う雑踏の中に自分の体をねじ込んだ。カタギを巻き込むとは、我ながら最低だ。俺は撃たれていないが、ご婦人が撃たれた時点で撃たれたように胸が痛い。それでも、実行してしまう。自己愛。死にたくない。情けない。


 雑踏の中は阿鼻叫喚。我先にと、周りを押しのけて走る人たちで、ぶつかり合う。当然のように転んでしまう人もいたが、さすが日本人で直ぐに手がさしのべられて助け上げられる。愛すべき祖国でも見てみたい光景だ。だが、その同郷者の運転する車輪付きの鉄塊は、そんなのは見たくないと言わんばかりに、他の転倒者を容赦なく挽き潰す。足がおかしな方向へ曲がってしまった様だが、それだけで済んで良かったと思って欲しい。追い打ちの弾丸が来なかっただけでもマシだ。叫び声を上げる彼の元に直ぐに誰かが向かっていく。美しくもあるが、無謀にも見える。銃の恐怖が薄いこの国ならではというものか。俺にはマネできない。マネはできないが、その変わりに仇はとってやりたい。


 まっすぐこちらに向かってくるマシンガンズは、誰かを轢く度に速度を落とす。雑踏の中の俺をケースに当てずに撃つには、難しい距離のまま。対して俺の方は、頭二つ上にあるドライバーの顔面を狙うには、十分な距離だ。俺は、運転席側に三発叩き込む。おかげで、俺の近くを走っていた人たちが雄叫びを上げて、逃げ去った。そして想定外の最悪。フロントガラスに突き立てた弾丸は、ガラス一枚を貫くことが叶わず、無残に停止していた。まさかの防弾仕様。日本には政府関係意外に防弾仕様の車を売っていないと聞いた。俺の組だって持っていない。どういうことだ? DIYか?


 仇討ちどころかかなりピンチに陥った。射手に降車されたらほぼ終わりだ。ここで囲まれるのは助かりようがない。


 俺は、脳みそ入れを左手に構えて再度盾とする。この体勢だとリロードができないから、良く考えて撃たなければ。

 

 俺は考えて、逆に距離を一気に詰めた。それこそフロントガラスに触れるところまでだ。これで、後部座席の銃からは逃れた。どれだけ身を乗り出しても、ここは狙えまい。そのかわり、今、アクセルを全開に吹かされたら、ペシャンコ確定だ。それに助手席の射手からは手を伸ばせば撃てる位置でもある。大して安全じゃない。なので、素早くこなす。


 距離を詰めたら直ぐにタイヤへ二発プレゼント。左前輪を亡きモノにして、お隣のタイヤさんにも同様の粗品を。

 

 これで、機動力は削いだ。でも、ほとんど零距離にいる俺を轢くのに、そこまでのハンデではないので、当然の如く、アクセルベタ踏みされてしまう。いや、本当に踏まれたのかは分からない。グッと急接近されたように感じただけだ。アドレナリンが出まくっていたから錯覚かも。なにしろ、タイヤを潰した直後に、俺もその場で飛び上がって、助走無しドロップキックをかましていたからだ。


 鉄の塊に人間様がそんなことをしても、結果は見え見えで、膝の耐久値がガクッと下がった。でも、これで良し。震える膝をむち打って、俺は方向転換して走り出す。後部座席の射手から狙われないように絶妙な位置取りで。


 俺が離れてもバンは追ってこない。なぜなら運転手がのびているから。今時、安全装置(エアバックエアバック)なしの車なんて有りはしない。人を轢くときは意識して、うまく当てていた様だが、こっちは狙ってやってやった。俺の動きがよく見えるように、前のめりの運転姿勢だったのが仇になったな。顔面に火薬式パンチを喰らっては、頭蓋骨程度の脳みそ入れでは、衝撃を防げまい。次は骨格をアダマンチウムにでも変えておけ。


 その時には俺もヴィヴラニウムの盾を用意しておくがな。



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