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Run Run Run  作者: 涼汰浪
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3.逃走 ①

 結論から言って、俺はまだ撃たれちゃいない。俺の絶叫クイーンの如きけたたましい悲鳴は、それこそホラー映画の観客よろしくのリアクションを襲撃者たちに取らせた。仲良く五丁のMAC―11が肩をビクッと震わせた隙に、俺は元来た道を駆け戻った。


 七人だ。七人の襲撃者。七人の射手。七丁のマシンガン。そんなのは、もっと大勢の敵と対した時にそろえてほしい。こっちはオッサン達を勘定に入れても五人しかいなかったのだ。劣勢はこっちだろうが。


 言いたいことは他にもあるけれど、今は次のプランを考えないとならない。正規ルートがだめなら、緊急用だ。外付けの非常階段か避難梯子を探す。先進国なら大抵、建物には非常用の出口を設けることが義務付けられている。消防法違反でないならこのボロいビルにだって必ずあるはずだ。


 俺は、後ろから迫ってくる足音に心底ビビりながら、それらを探す。ちっ、分かれ道だ。右か左か、どっちだ? 追われている以上、間違って引き返すなんてありえない。走り回り過ぎて、方向感覚がイマイチになっている。どっちが外壁に近い?


 本当に聞こえたのか、ビビり過ぎなのか、後ろから物音が聞こえた気がして、咄嗟に右へ足を向ける。と、左手を中心に急にブレーキが掛かった。何が何だか分からなかったが、どうやら勢いが良すぎて、左手に持っていた脳みそちゃんを壁に引っかけたらしい? たぶん? ……そういうことにした。その拍子に、左の通路の奥がよく見えて、天井に緑色をした看板が吊るしてあるのが視界に入った。


 これぞグローバル。看板には【EXIT(出口)】と書かれているじゃないか。別に漢字の【非常口】も読めるわけだが、なんともうれしい配慮だ。涙が出そうだよ。颯爽と翻ってそちらへ全力疾走。あったのは、サビサビの非常階段だ。正直、手すりに手を掛けただけで、手のひらが痛いが、気にしていられない。


 ただでさえ追われているというのに、この階段は一段降りるたびに、ガンガン鳴り響きまくって、俺の居場所をリークしやがる。二階分下りようとしたところで、上からさらに大きなガンガン音が聞こえてくる。


 まずい、まずい、まずい。あと一階下りれば、めでたく地上だが、この先どこに逃げれば良い? 実はずっと左手に脳みそ、右手にケータイを握りしめて、(ファミリー)に連絡を取ろうとしているのだが、後が気になり過ぎるのと、手汗で握りそこなうので、満足に操作できない。緊張からなのか、普段読めている日本語が理解できない。頼りになる仲間の名前が難読過ぎて困る。まして、ながらで階段を下りるのは、キツい。踏み外したら痛いじゃ済まないかも。そんな状況なので、全く連絡が取れていない。取るにと取れずで心臓がバクバクいっている。


 そこに追い打ちの鉄の雨だ。いきなり、上から下へと火花が散った。ファック! 錆だらけの階段は、たかが9㎜の弾丸を防ぎ切れていない(撃つ方も相当頭がおかしい)。数発にすぎないが、床板を抜けてくる弾がある。貫通力は相当落ちているだろうが、皮膚を貫くには十分。むしろ貫通せずに体内に残ること確定で怖すぎる。


 本気でビビりまくった俺だが、よく考えれば盾はあった。信頼と実績の脳みそ入れちゃん。さぁ、もう一度、僕の体をこの鉄の雨から守っておくれ。


 ケータイはポケットに突っ込んで、ジュラルミンケースを両手で掲げる。錆びているとはいえ、鉄板を貫いた後の9㎜弾なんて、これで苦も無く止まる。愚直にお使いをこなそうとする俺へのご褒美。これぞ、日ごろの行いの賜物だ。俺は階段を下り切って、全力で駆けた。ただ、そのせいで俺の方から射撃に適した位置取りをしてしまい、先ほどの比じゃない量の弾丸か降り注いだ。あと少しで、曲がり角だ。隠れ込める。


 俺はやるならここしかないと思って、泣く泣く(ここ重要!)脳みそを手放して、重りを排除しようとした。そのまま人通りの多い場所まで出れば、奴らも追ってこないだろうし、脳みそを回収すれば帰るだろう。お嬢と岩田ちゃんには申し訳ないが(あとオッサンたちも)、連中の事は後で、必ず報復を誓う。それで、今は勘弁してくれ。


 両手を離して、即座に加速する。いや、加速しようとした。でも、出来なかった。代わりに前のめりになって、地面をローリング。そのまま近くのゴミ箱に突っ込んだ。結果的に弾も避けられて、姿も隠れた。一時的にだが。


 余りに想定外の出来事で、自分に何が起きたのか理解できなかった。が、理解するよりも先に弾丸が到来したので、そのまま這いつくばって角を曲がって、完全に射線上から逃れた。


 何だ、何だ、一体? 俺は今、何をした? 奴らはどうなった? 見えないぞ? 俺は、混乱しながらも立ち上がって、どうにか人通りの多い道まで走り込んだ。左手首が痛い。もげそうだ。見てみると、左手に手錠がしてある。何だこれは? いつのまにパクられた? びっくりして、左手を持ち上げようとするが、重くてできない。それも当然。手錠のもう一方には、見捨てたはずの脳みそ入れちゃんが繋がっていたのだから。


 はぁ? 何で? 何で手錠? 混乱しながらも、脳裏にはある光景がすぐさま浮かび上がる。取引の際、オッサンがこのケースを自分の手首に手錠で繋いでいたことを。その仰々しさ故に、岩田ちゃんが競合相手について聞いたのだ。


 競合相手。そうだ、競合相手がいたのだ。奴らがそうだ。あの七丁のマシンガンがそうなのだ。いまは、五丁だが、あと五丁もいるだ。


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