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Run Run Run  作者: 涼汰浪
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2.回想 ①

 今の組に世話になる前は、カンザスにいた。オズの魔法使いのドロシーが帰ろうとしたカンザス。俺は帰ろうと思ってない。今でも、アメリカと日本を行き来してはいるが、故郷(カンザス州)には近づかないでいる。理由はいろいろだ。


 例に上げたオズの魔法使いでも言われているように、カンザスは田舎で間違っていないし、単調で退屈な活性の無い生活は、物語が発表された一九〇〇年から変わっちゃいない。


 レナード少年もそんな、辺り一面の畑世界で生を受けた身だ。とはいえ、時は二一世紀。流石に牧畜とトウモロコシだけで食い繋いでいるなんて、進歩の欠片もない、夢の無い話はないだろう? 工業地帯じゃ航空機に通信作業。ガスに石油だって出ているし、なんたってカジノもできた。少しは夢も見られるようになった。でも、俺の両親は農家だったわけだが。

 

 両親との思い出は、庭でBBQしまくっていたことに、でかいトラクターに乗せてもらったときに見えた夕陽がめちゃくちゃ綺麗だったことの二点くらいだ。家が何の農家だったのかすら覚えちゃいない。BBQじゃ大量の肉と野菜がズラリと並んでいたが、ほとんどご近所さん達との持ち寄り品だったはずだ。


 周りもみんな農家だった。肉も野菜も小麦もみんなでシェアできていたから、近所のスーパーなんてどこにあるのか分からなかった(無いはずはないし、親も毎日買い物にでていたはずだ。流石に俺が割りまくった皿やコップを自作していたはずがない)。ほんとに二一世紀なのか疑わしい限りだ。


 それだけ知らない事、覚えてない事が多いのは、僅か三歳にして、俺は両親を失って孤児になったからだ。


 火事だった。実家についての最後の記憶は燃える畑と夕陽の鮮やかなコントラスト。その絵の真ん中に見える塊が、俺の家だったもの。何かの理由で俺は、家にいなかったようだ。俺は畑と家とトラクターと両親があの綺麗な綺麗な炎の中に溶けていく様をぼうっと見つめていた。てっきり、BBQの不始末で火を出したと思いこんでいたから、あのBBQフリークだった両親の最後に相応しい終わりだった。


 あの光景には神々しささえあったと、この不幸に対して納得しようとしていたが、後になって知った事実で、あの火事は落雷によるもので、あの日は夕立で曇り空だったそうだ。


 つまり、俺の脳裏に焼き付いているこの燦然と輝く光景は、架空の産物で、両親の死を美化しようとした思い出補正に他ならなかった。そう言われてしまうと、そういえば空、曇っていたかも? と補正を解除するべく脳が上書きを始めようとするが、俺はこれに待ったを掛けて、真実を知った今でも、あの日の光景は燃え盛る天地の情景そのままだ。


 真実なんてクソくらえ。人が気分良く物事に納得できているのだ。蛇足を加えられるなんてたまったものじゃない。バイアス上等。俺はこのまま、あの神々しい夕陽(幻想)を瞼の裏に引っ付けて生きていく。


 それはそれとして、親も生家も失ったレナード少年三歳は、親戚の世話になるわけでもなく、里親の家に転がり込むでもなく、ハイスクールを中退するまで孤児院で過ごしてきた。親戚については、いなかったのか、断られたのか定かじゃあない。興味が無いから、調べてもいない。別に、叔父や従妹がいようがどうでもいいのだ。必要な時にいなかったのだ。今もいなくて問題無い。


 代わりに俺の傍には、同じ境遇にあった血の繋がらない兄妹たちと、見目麗しいシスター(思い出補正)がいてくれた。おかげでレールからは外れたままだけど、横転せずに進んでくることができた。人並みに感謝している。その義理もあって、日本にいる今でも日曜日は協会に足を運んでいるほどだ。当然、キリストに感謝を掲げているわけでは無いし、なんだったら、神頼みする時は神社に行くけれど、これまでの習慣として、染みついているからそうそう止められない。


 後々、日本でヤクザのお世話になるなんて微塵も思っていないガキの頃、今回の様にシスターからお使いを頼まれて、何人かで買い物に出かけたことがあった。そうは言っても十歳前後の子供に頼むもの何て、大したものじゃあない。夕飯の食材を調達するだけのこと。買い物のメモを渡された年上のジェイクが、募ったメンバーに俺もいた。多分、暇だったのだ。


 四、五人を引き連れて、一マイルも離れてないスーパーへ向かい、子供らしい寄り道をしながら難なく帰ってきた。そこで、一つだけ失敗が。全然大したことじゃあない。頼まれた品を一つ買い忘れただけだ。シスターも笑っていたし、ジェイクも恥ずかしいそうに顔を赤らめただけで、怒られたとか、もう一度買いに行ったとか、そういうことも無い。夕飯のシチューの具が一種類減っただけのことだ。それでも、俺は子供ながらに思っていた。あんなに引き連れて行ったのに、何てザマだ。ジェイク以外も買い物の内容を知っていれば良かったのに。買い忘れた食材が何だったのか知らないから、このシチューに何が足りないのか分からないままに食事を終えた。


 この出来事を、今思い出したのは、今回のお使い、俺も岩田ちゃんも、オッサンに聞くまで何を買いに来たのか知らなかった。


 知っていれば、回避できたとは思わない。脳みそ欲しさに銃の規制が厳しい日本に、わざわざマシンガンを用意して、乱射する奴がいるとは、想定しない。


 だから、これはレナード、お前はガキの時の失敗をまた繰り返したな、という自虐的回想ではなく、生命の危機に直面して、単純に似たような思い出深いことがフラッシュバックしただけ。


 日本で言うところの走馬燈ってやつに過ぎない。



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