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Run Run Run  作者: 涼汰浪
23/23

9.激走 ④

「ブッキー、うまく後ろを撒く手段はあるか?」


「うーん、パトカーはどうにかなると思いますけど、ヘリはどうするか・・・・・・。店の近くで屋根のある場所に隠れて、レオさんだけ降りますか? こっちが囮になるんで、その隙に墜としてくれれば」


「危険過ぎるぞ。そこまでする義理はないだろ」


「いやー、俺も撲殺される寸前まで行ったのを手助けして貰ってるんですから、今回は付き合いますよ」


「ねぇ。ヘリの燃料が尽きるまで逃げ回るのも有りじゃない? そんなに長く飛べないでしょ?」


「確かに車よりは燃費悪いだろうし、燃料切れで引き返す話は良く聞きますからね。それに、手負いだから、さっき言ってた警察のヘリ待ちに切り替えても、最初より勝機があるかも」


「いや、よく考えたらそれだと、ヘリから追われる状況が変らない。撃たれないだけ良いけど、ヘリを撒く手段を考えるのは一緒だ」


「やっぱり警察が来るより先に俺達であのヘリをどうにかするのがベストか。なら、やっぱり近くの立体駐車場にでも入って分かれましょう。キッスはそこから歩いて帰ってくれ」


「ええ! 私、レオのお店が何処にあるか知らないよ。歩いて帰れるの?」


「ほら、タクシー代だ」


 お札を何枚か渡す。


「本気なの? うーん、分かったよ。気を付けて」


 プランは決まった。思ったよりもブッキーの覚悟が決まってくれていた。あとは、俺がブッキーが蜂の巣にされる前に、あのヒビ割れ野郎を撃ち墜とす。


「よし。それじゃあ、パトカーをどうにかしよう」


「それは簡単。揺れますよ。キッス、そろそろちゃんとイスに座れば?」


「いや、顔がわれる」


「そんなとこ意識してたのか。大した危機意識だな、偉い偉い」


「馬鹿にしてる? 今時重要な事だよ。ムショに入っても私は面会に行かないから、よろしく」


「冷たいねぇ」


 そうやってこれからの話をしていたところに、水を差す行動をあのヒビ割れヘリ野郎が取ってくれた。


 急にエンジンを吹かしたような音が聞こえてきたと思ったら、そっぽを向いてこの場から離れて行ってしまった。


 ヘリの行動に気が付いたパトカーも、ライフル担いだヘリコプターと拳銃を持った乗用車のどちらと追えば良いのか悩むように急激に速度を落とす。


「なんだ? 本当に燃料切れか?」


「どうしたんです? パトカーが止まった?」


 前を向くしか無いブッキーにはヘリの離脱した様子は見れない。急停止したような動きのパトカーがルームミラーに映るだけた。


「ヘリが離れた。もう見えない」


「マジですか! 本当にガス欠? もしくはレオさんの銃撃が意外と致命的だったのかも」


 確かにフロントがヒビ割れしているのは致命的だ。でもこの一拍置いてから、逃げ帰るのはどういうことだ? 頑張って着いてきただけか? ヒビが広がったか?


「ねぇ、例の宗教団体の支部、燃えてるって」


「宗教団体?」


 そもそも何がどうなって武装ヘリに追われているのか、まともな説明を受けていないブッキーは、宗教団体の話をされても訳が分からないだろう。


「敵のアジトだ。なら、そっちの助けに行ったのか?」


「宗教団体がヤクザを襲撃してたんですか? どんな抗争が起きて・・・・・・」


「超能力だよ、ブッキー」


「はい?」


 事情を知っているキスマークが補足するが、それだけじゃ伝わらない。伝わるはずもない。


「超能力者の脳みそを取り合ってるんだよ。勝った方が超能力を手にするんだよ」


「・・・・・・マジですが? ギャグですか?」


 ブッキーが俺に確認してくる。合っているような、そうでもないような。


「ウチのお嬢が買った脳みそを追って来てるのは本当だ。能力を手にするかは分からない。でも、これを持ってから変なことは起きてる気がする」


「ええぇ」


 だいぶ過激なヤクザ間の抗争が起きていると思っていたのか、困惑してようだ。思い返せば、呼んでから説明したのは、『ヘリを墜とすから武器を取りに行く』だけだ。裏の運び屋が客の事情を詮索するのは御法度のため、それだけで従ったのだろうが、愛車を傷だらけにされても説明を求めないとは、なかなか太い神経をお持ちだ。


「ニュースではなんて言ってる? 怪我人とか死人は出てるか?」


「ニュースじゃ無いよ。SNSで流れてきた。銃持った人が何人も飛び出してきたって。火が出たっていうか、爆発があったみたい」


 ウチの組は襲撃で爆発物なんて使わないはずだ。トラップを仕掛けるつもりなら分かるが、基本的に道具は鉄砲。でも、持ってはいるから、仕方なく使ったか? 屋内や仲間が何人もいるところで使うのは禁止にされているが、そんなに手強かったのだろうか? 軍人崩れを何人も雇えて、他国でヘリを飛ばして銃撃させるような連中だ。そりゃ手強いか。


 すると、胸にしまったプリペイドケータイが振動し出す。一コールで直ぐに取る。


「マッさんか?」


「レオ! あいつら俺達を見た途端、自爆しやがった! 動いてるヤツらが何人もいたから、逃げ出したのもいるが、焦げたホトケが五,六個転がってやがる。イカレてるぞあいつら!」


「マジか! こっちは無事だったのか?」


「先陣切った若いのが火傷しただけで、無事だ。乗り込んだ途端に爆音なもんだから、こっちも訳が分からないうちに撤退よ。奥の方でドタバタ音がしてたし、外出たら、外人が裏手から何人か走ってったから、兵隊はまだ生きてると思っとけ。そっちはどうだ。ヘリはどうにかなりそうか?」


「そっちの襲撃が分かったらしい。今まさにどこかに飛んで行った」


「そうか。なら、お前もこっち戻れ。組の事務所で合流だ」


「分かった。でも、一応オレの店から、武器を取ってから向かう。兵隊が残ってるなら必要になる」


「こっちの分も頼む。マシンガンだライフルだぶん回してるヤツらに効くのをな。それと、」


 明らかに言葉の続きがある話だったが、ここで一旦マッさんの台詞は途切れた。代わり聞こえてきたのは、聞き覚えのある爆音。恐らく数時間前に聞いたのと同じ、車が吹っ飛ぶ音。続いて近くから聞こえる単発と遠くから聞こえる連発の発砲音。


 要するに連中は自爆しても、逃げていなかった。


 脈拍が速まるのを感じながら、スピーカーから聞こえてくる銃撃戦を聞き入っていたが、すぐに通話は切れてしまう。ケータイを耳に当てながらしゃべりもせずにフリーズしている男にヤバさを感じたであろうキスマークが心配そうに声を掛けてくれる。


「ねぇ、どうしたの?」


「・・・・・・連中の事務所は吹き飛んだ。でも、敵はまだ生きてる。とにかくオレの店へ行こう。武器が、いる」


 現在進行中の銃撃戦で、敵が壊滅するとも限らない。こっちがボロ負けになる可能性もある。


 正直に言って、荒事に関して俺は組の中で普通か少し下のレベルだ。アメリカの田舎ギャングくずれと日本の現代ヤクザじゃ、銃の扱いに慣れがある以外で敵わない。戦術も覚悟も皆さんが上だ。俺のアメリカ時代の戦術なんて、相手より先に撃て。先に当てろ。罠は待ち伏せオンリー。ヤバくなったら直ぐ逃げるだ。


 こっちじゃ、そもそも敵が分からない。昔見た映画のような分かりやすいヤクザが、今では普通のホワイトカラーにしか見えないヤツに変ってる。そいつらが言葉巧みに罠にはめてくるのだ。そんな知能派なことに変換したのかと思いきや、やる時はトラックで事務所に特効を仕掛けるような剛胆さもみせる。


 はぐれ者達で一番ヤバいのは、南米の連中だろうが、日本もいざとなったらヤバい連中ばかりだ。だから、俺一人が武装して駆けつけるよりも、プレゼントを携えて行った方が喜ばれるに決まっている。


「とにかく進もう。さっきの話のとおり、店の近くで降ろしてくれ。ヘリが戻ってくるかもしれないから、キッスも別で帰るんだ」


「了解です。けど、店から先の足はどうするんです?」


「一応、バイクがある。荷物がやっかいだけど、載せられないわけじゃない」


 武器と言っても、店にあるのは拳銃ばかりだし、肝心のライフルは専用ケースで背負うしかない。弾と拳銃をしこたま詰め込んだバックを二、三個積むくらいはバイクにだってできる。


「それじゃあ、そのとおりに、ん?」


 ブッキーが何かを確認するように、若干前のめりになるのが見えたので、つられて俺も前をのぞき込む。見えたのは、少し前に見たばかりのパンダカラーの車両群と紅白の柵状看板が道を塞いでいる光景。難しいのはまだ無理だが、あれくらいの漢字ならもう読める。『通行止め』だそうだ。 


「封鎖の端まできたか。しっかりふさがってるけど、手段はあるか?」


「封鎖してる車両を釣りだして、穴を空けます。わざとらしく目の前で後退してやれば、一台は着いてきます。蛇腹のバリケードとかだったら、端を狙えば抜けられたんですけど」


 警察の封鎖を正面から抜ける機会なんて、運び屋といってもそうそう無いだろうに、なんでこなれているような雰囲気をだせるんだ? 思っている以上にブッキーは修羅場を体験済みなのだろうか? 車から降りなくて良い事態なら何でもできそうだ。


 近づくにつれて警官たちが何か言っているのが聞こえてくる。後ろのパトカーと同じく、停止命令だと思うが、こちらも同じく良く聞き取れない。


「じゃあ、揺れますんで、よろしく」


 作戦通りの動きを開始すると合図が掛かったので、返事をしようと思ったが、なぜか俺の口とは違うところから声が出てきた。ボソボソで聞き取りにくいが(さっきからそんな音ばかりだ)、大きかったので理解できた。『銃持ってるぞ! そいつら銃があるぞ!』だ。


「?」


 声がしたのは、もちろん車内からではない。後ろを振り返ってみると、後方に消えたと思っていた追跡パトカーが、知らぬ間に距離を詰めていた。仲間に危険を知らせるためにこちらへ近づいてくるとは、なかなか良い根性ではないか。


 さて、その勇気ある行動にて、自分達が如何に無防備であるかを気付かされた正面の警官隊は、そそくさと車両の方へ戻って、荷物をあさる者、無線で連絡を取る者、車両を動かす者とに分かれた。この車両を動かした理由がイマイチぴんとこなかったが、恐らく車両を盾にするためのベストポジションを取りたかったのだと思う。だが、おかげで封鎖が一メートル程度の柵のみになってしまった箇所が出来てしまった。そしてブッキーはそれを見逃すような運び屋ではないのだ。


 急停止からのバック走で、車両を釣り出そうとしていた作戦から、急加速して封鎖を正面突破する方向へ舵を切った車は、運転手以外の心構えなどいざ知らず、俺かキスマークかどちらが上げたか分からない悲鳴を響かせ、『通行止め』の看板をへし折っていた。

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