9.激走 ③
パトカーの追尾に気が付いたのか、上空のヘリの挙動に変化が起きた。パトカーの真上を狙おうと、速度を緩め出した。
「これってチャンス?」
「あのパトカーは可哀想だけどな。今のうちに、道を変えるのもアリだ」
「あのパトカーがヘリに勝ったりしないかな?」
「たぶん無理だと思う」
とてもヘリを撃ち落とせる装備があるように思えなかった。そもそもヘリを撃ち落とせる日本の警察なんて想像できない。銃を撃ってる光景だって激レアなんだから、いきなり車内から対空ミサイルが飛び出すなんて有り得ないだろう。俺達が取りに行こうとしているライフルだってきっと持っていないはず。
そんなことを考えていると、後方のパトカーから何か音が聞こえてきた。聞き取りにくいが、恐らく『そこの車、止まりなさい!』的なことを言っていると思われる。ヘリには敵わないから、まずはこちらの車をどうにかしようという魂胆なのだろうが、これはつまりあのパトカーはこっちについてくる気満々ということだ。
「・・・・・・止まりますか?」
「どうなると思う?」
「撃たれる」
「だよな」
だからといって、パトカーが先に穴だらけにされるのをわざわざ待つのも気分が悪い。ヘリと一緒に追跡されるのも嫌だし、どうしたものか。
などという考えを巡らせている内に、先に行動を起こしたのはヘリの方だった。パトカーが何を叫んでいるのか聞き取ろうとしていたのか、真上のポジションをとってからも、しばらくただただ飛んでいたが、言葉の途切れたタイミングでパトカー目掛けて射撃を開始した。
こうなってしまってはしょうがない。あの警官は可哀想だが、この隙に加速して道を変えてやろうとブッキーに合図しようと思った。思ったけれど、思い止まった。それよりも先に、天井から弾丸が抜けてくる恐怖の叫びが拡張されて聞こえてきたからだ。思わず握っていた拡張器のマイクをONにしてしまったのだろう、悲鳴がこっちまで響いた。
「ねぇ。どうにか出来ないの?」
「・・・・・・そう言ってもな」
「威嚇射撃とかさ」
「やるとこっちと撃ってくるぞ?」
「・・・・・・そうだね」
「んーー」
仕方が無い。やるか!
警察に恨みがあるほど、日本ではやらかしていない。むしろ、仲良くしてもらおうと腰を低くして接してきた。それに対して高圧的な事も無く、ただただ胡散臭い外人だな、と言う程度のぬるい対応をしてもらってきた。故郷の警察と比べたら、命の危機くらいは手助けしてやりたいと思う。
後部座席のウインドウを下げられるところまで下げる。上体を出すにはいかないが、どうにか腕を伸ばして、ヘリに銃口を向ける。とは言っても、当たったとしても大したことにはならないから、本当に只の威嚇だ。
「撃ったら、ダッシュだ」
「了解です」
不安定な姿勢でとても狙えた物じゃ無い。せめて建物に飛ばないように気を付けて、タイミングを計っている間も、パトカーに銃弾の雨が降り注いでいる。
「んんんー、っ今!」
ここぞというところで、引き金を引いた。
それよりも一刹那先に車が段差か、何か障害物に乗り上げた。
導き出される結果は狙いもへったくれも無い、ブレブレの銃口から放たれた明後日の方向に飛んでいく弾丸。
そのはずだった。
勢いで二発放った銃弾は、撃った俺自身でも何処に行ったか分からなかったが、ヘリの異常行動で行き先が分かった。
なんと一発か二発か分からないが、放った銃弾はヘリのフロントガラスにヒビを入れていた。地上の俺からも見えるくらい広い範囲のヒビだ。ヘリは急激に高度を上げて、離れていく。
「どうなった?」
「・・・・・・どうにかなった」
ヘリの様子を確認できないキスマークが聞いてきたが、自分でも何でそうなるのか理解が追いついていなかったので、適当に応える。
逆にこちらの様子がよく見えていたのはパトカーの方で、俺の射撃に気が付いて一気にこちらとの距離を広げてきた。その後『武器を捨てなさい』的なことを言っているようだが、遠いのと、震え声なのとでほとんど聞こえない。
「反撃が無いですね」
「・・・・・・なんかうまくいったよ」
運転しているブッキーも当然何が起きたか分からない。撃った俺も納得できない。
ヘリの方は飛び去っておらず、どの建物よりも相当高い位置でどうにか着いてきている。視界不良で建物にぶつかるのを避けるためだろう。危ないからそのまま帰れば良いのに。
「取りあえずリスクは減ったから、飛ばしてくれ。パトカーが最後まで着いてくるようなら、俺だけ適当なところで降りるよ」
「どううまくいったんですか? 何にも見えないんですけど」
「ヘリにダメージは与えたよ。でもスナイパーは無事だ。油断するな」
また脳みそパワーが発揮されたんじゃないかと思われるが、光ったり音がしたりするわけじゃないから、分からない。逆に脳みその超能力とかを検知するセンサーみたいのに引っかかって、追っ手が増えるんじゃないかと心配になってきた。そうでもないと、マシンガンズの追跡方法が説明できない場面もある。極力ピンチになる場面を回避しないと。
速度を上げたこちらに対して、追跡してくる両者とも撒かれまいと同調してくる。これでは、無事にたどり着いたところで、武装前に撃たれるだろうし、警察にも俺の商品がバレる。どうにかして、こいつらを撒かないと店に行く意味が無くなってしまう。
相変わらず走行しているのは俺達だけで、なかなか広範囲で交通規制が行き届いているようだ。走るのは楽チンだけれど、だいぶ目立っているからバンに遭遇した時みたいに野次馬に撮影されているに違いない。
店と商品がバレなくても、今回の騒ぎで俺の素性が暴かれるかも。そう考えたら、この際、追跡なんて気にしないで店のビルの一階に突っ込んで停車すれば、銃撃も躱せるだろう。そのまま警察も無視してライフルや爆弾をお見舞いして終わりにしてやろうか。ブッキーには悪いが一緒に捕まって貰って、キスマークは誘拐されたとでも言って貰えばどうにかなるだろう。すべてが終わった後も重要だが、そこにばかり気にしてしまっては、今を生き残れない。
腹をくくるしか無いか。




