9.激走 ②
周りの車を避けるのに、緩急をつけながら走り続けている(信号はガン無視)ことが功を奏しているのか、なかなか弾が当たることが無い。このまま走りきりたいところだが、うまくいくだろうか。
「・・・・・・路駐の車が増えてきた。もう少し広い道に入ります」
「遠回りにならない?」
「ぶつかって止まったらそこまでだし、車線を制限されると狙い撃ちされるでしょ?」
「その通りだ。左右に動ける道を選べ」
そりゃあ、信号無視しながら爆速で走っている車と、それを追うように着いてくるヘリコプターなんて現れちゃあ、走り続けようとはならないだろう。カーチェイスシーンのモブ車の運命は万国共通。爆破、横転、大クラッシュの巻き添えだ。
「それに、時間の不利は連中のが大きいでしょ?」
「ああ、組がアジトを潰してくれる」
「それに警察も」
「警察?」
「東京なら対テロ仕様のヘリくらい持ってるでしょ、たぶん!」
「・・・・・・そうだな、持ってそうだな! たぶん!」
「ホントに? 見たこと無いよ」
それはテロが起きてなければ、見ることもないだろう。銃火器なんて持ち込んでおいて何だが、日本の発砲事件なんて毎年暗記できるくらいしか起きてない(身近でしか起きてないからか?)。それもほとんどヤクザで、残りはモデルガンマニアの行き過ぎた改造品でだ。対テロ仕様なんて、ヘリどころか専用部隊だって見たことないぜ。
俺の客は実用(護身)で買っていくのが半分。マニアが半分といったところだ。マニアには、同意の上で、少し弄って発砲できないようにして売っている(撃てるところが無いから、だいたい了承を得られる)。知識があれば、簡単に治せる程度だが。それでも、手放して素人に渡った時のフェイルセーフは重要だ。実際、俺のマニア顧客がしょっ引かれた話は聞いたことはない。よい子達ばかりで助かる(実用で買っていった客はご想像通りだ)。
「・・・・・・ホントだ、ヘリあるって。じゃあ、それが出てくるまで逃げ通せれば良くない? わざわざ武器なんて取りに行かないでさ」
早くも調べ終えたようで、キスマークが顔をこちらに向けて訴えてくる。
「それだと警察のヘリがやられた場合、どうにもならなくなる」
「そんな事ある? 専用のヘリなのに民間のヘリにやられちゃうの?」
「今から生身でヘリを撃ち落とそうってのに、そんなこと言うな」
「でもさー!」
そもそも警察のヘリとは武装しているのか、そういうのは自衛隊のヘリなのではないか、警察の攻撃訓練なんて聞いたこと無いから知らない等々、騒ぎ合っているうちに気が付けば周りに他の車の姿が殆ど姿を消し、不定期に聞こえてくる銃弾がコンクリートや車体を叩く音が残った。通行規制が効きだしたようだ。
あとは、どうにか無事に店にたどり着ければ。
「・・・・・・やばい、封鎖してる!」
「えぇ?」
前を見れば、今日何度目の遭遇であろう、パンダカラーのクラウンが数台横っ腹をこちらに向けて待ち構えている。辺りにはバリケードを警官がせっせっと配備してるが、こちらの気配、というかヘリのエンジン音が近づいたのに気が付いてこちらに目を向ける。
「どうします?」
と言われても、直ぐには判断できない。
ここで止まったら何が起こる?
A 警察にビビったヘリが逃げ帰る。
B 止まったところを上空から、撃たれまくる。
C ヘリと警察の銃撃戦が開始。
D その他
さて、どのパターンが一番起こりやすい? マシンガンズ残党が今さら警察にビビるだろうか? いや、今となっては装備で解決出来ないほどの戦力差がある。あのヘリだって、パイロットとスナイパーの二人組。下から何発も攻撃されるようなら引くこともあり得る。
でも待て、日本の警察がこんな街中で銃を抜くのか? 想像できないぞ、何人もの警官がヘリを撃ち落とさんばかりに撃ちまくる姿なんて! それを連中が理解しているなら、構わず俺達を撃ちに来るかもしれない。
あいつらは日本に潜伏していたヤツらなのか、脳みそを追って急遽来日したヤツらなのか、それによっても判断が変るんじゃないか? 警察なんて万国共通アメリカンスタイル。まずは撃ってから考えるのが道理だと思っているなら、ここは退くだろう。でも、日本の警察が銃を抜くのは最終手段ファイナルウェポンであるとを知っていたら、行けるところまでそちらもアメリカンスタイルを通すだろう。
さぁ、連中の日本の警察知識はいかほどのものなんだ?
「・・・・・・抜けますよ」
「えぅ! は、はいっ!」
俺の迷いをよそに覚悟を決めていたブッキーは、設置途中のバリケードの隙間に狙いを定めて、ハンドルを切り出していた。
こちらの動きに慌てた警官達は、一瞬迷った後に手を広げて立ちふさがる姿勢を見せる。しかし、ブッキーのキマった覚悟の前には無意味だと直ぐに気が付いて飛び退けた。誰にも何にも接触すること無く封鎖を突破して、独り占めとなった道路で加速を付けていく。
そんな俺達に続いて、上から悠々とヘリが通過していく。これに向かって通せん坊する警官はさすがにいなかった。上空から撃ちまくってくるヘリを煽るような馬鹿をしないのが、良い警官の証だ。
しかし、相手がお利口な対応だからといって、同じくお利口な対応を返そうという発想にならない馬鹿者もいるもので、それがヘリのスナイパーだった。
通過ざまに何かをパトカーに向かって落っことしたようだが、それが何だったのか、そもそも落下シーンすら見ていなかった俺には分からないが、落下物がぶつかったパトカーが爆破炎上したのだから、十中八九、手榴弾だったのだろう。
可哀想にそのパトカーには交信でもしていたのか、中に警官がいたようで、火だるまになりながらヨチヨチ歩きで人が出てきた。火の勢いも物ともせず、無事だった警官達が必死にその彼を地面に転がして消火しようと奮闘している。
「な、何! またロケット?」
「キッス、見ない方が良いよ」
頭を出してきそうだったキスマークを制止して、上空のヘリの動向を確認する。スナイパーもパトカーの方を向いてるようで、銃口は明後日の方向を向いている。
「今の要ります? イカレてるんですか、あいつら!」
「ホント、どうかしてる・・・・・・」
バリケードを運んでいる最中の警官が対空装備で応戦してくると本気で思ったのだろうか。嫌なものを見せてくれる。
すると、残った警官の一人が、無事なパトカーに乗り込み、こちらを追いかけてきた。一人で追ってくるとは、良い根性をしているが、無謀とも取れる。まず、命令あっての行動ではないだろう。お互い、無事に済むと良いが。




